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熱いキスに翻弄されて、ついに身体が支えられなくなった私は膝の力が抜けて、かくりと砕ける。それを刻也さんの右腕がぐっと支えてくれて、ようやく唇を離してくれた。
離れる瞬間にくちゅりと音が鳴って、離れる唇を糸が繋ぐ。
一つ一つが赤面モノの恥ずかしさで、何も言えずに焦点が定まらないまま彼を見上げると、唇は離れたのに額をこつりとくっつけてくるから、少し上から私は覗き込まれたままだ。その距離があまりにも近くて、また唇がくっつきそうで、たまらなくまたドキドキしてくる。
トクトクと心臓が早鐘を打って、壊れそう……
けれど昨日触れてくれなかったせいなのか、初心者にはハードすぎるキスも、近すぎるこの距離も、抱きしめる腕も、早すぎる鼓動もどれ一つ嫌だなんて思わない。視線が絡まってさらに近づく顔に予感がして、自然と瞼を閉じる。
けれど、予想した温もりはすぐには落ちてこない。不思議に思ってそっと見開くと、私の腕をグイッと引っ張って刻也さんは寝室へと歩きだそうとしていた。
慌てて目を見開いて、パンプスのバックルに手を掛けて放り投げるように靴を脱いだ。どうにか靴は脱いだけれど、転げそうなのもお構いなしで刻也さんはずんずん歩いて止まらない。
――何、何!?
急な動きについて行けず、すぐさま放り込まれたの寝室のベッド。
ぼふん、と放り投げられそうな勢いで横たえられると――
「萌優」
私の名前を呼ぶ声が艶めかしくて体が震える。
ギシッ
ピクリと体を震わせる私の顔の両サイドに彼が手をついて、より一層私の身体が沈み込んだ。想像しても居なかったシチュエーションに、ただただ脳の処理が追いつかない。バクバクしすぎて、心臓が壊れてもおかしくないと思えるほどだ。
至近距離で顔を上げると、月明りで刻也さんの顔が見える。その瞳があまりにも獰猛な獣を連想させるような目つきをしていて、怖さでビクリと震えそうだ。けれど、澄んだ目が射るように見つめるから……その瞳に魅入られて、私は逸らせなくなってしまった。
じっとただ無言で、お互いの腹を探るかのように見つめあう。
触れ合う息がお互いの鼻をくすぐる。
暑さに一筋汗が流れるのを感じて、視線が逸れた瞬間。刻也さんは私にどさりと体重を掛けて倒れこんだ。
「ときなり、さんっ?」
「はー……っぶなかった……」
どうやら正気を取り戻した口調の声が、私の耳元から聞こえてきた。
「やばい、お前」
そう言って、私の頭は抱き込まれた。
彼の心臓に私の耳が重なって、余計に心臓が跳ねる。
「酒の勢いとか、嫌だしな……ごめんな、萌優」
「え?」
「襲いかけて」
「襲……っ!?」
あまりにも直接的な言い方に、私は慌てる。そういうのは慣れてない。ドキドキし続ける私を余所に、刻也さんは続けた。
「すごく、抱きたくなる。萌優のこと。全部、すぐに俺のものにしたくなる」
「……ッ」
恥ずかしくて、顔が熱くて、頭抱えられてて良かったって思うほど顔が赤くなった。
「こんな風に誰かを自分のモノにしたいって思ったの初めてで……俺、抑えられなくなりそう」
そう言いながら、私をさらにぎゅうっと抱きしめてくれた。乗っかっていた体重をゆっくりと横に倒すと、私を左腕の中に収めて頭頂にキスが落ちてきた。髪の毛に神経はないはずなのに、触れた唇の柔らかさが届いた気がする。
「でも、お前のこと大事だから。まだまだダメだ」
「え?」
「もっと萌優を知って。そしてお前も俺をもっと知って。もっと俺に触れたくなったら……そしたら全部、くれるか?」
左手が伸びてきて、私の頤に手を掛けてゆっくりと顔を上げられる。私の視線の先には、温かな瞳の刻也さんが映った。
――今すぐにでも。
これ以上ないほど、彼に触れたい。愛しくて、たまらなくて。
もっともっと抱きしめてあげたい人。
「……はい」
ほんとは今すぐにでもって言いたいけど、それは私も違う気がして言えなかった。私たちには私たちの速度で歩めばよくて、今焦って行為に及ぶことはなんだか違う気がする。
もっとお互いを知って、もっと触れ合って、それ以上触れたくなった時。
そんな時が、きっと自然に訪れるんだろうなって思った。そしてそんな日が楽しみだと思える自分に、少し驚く。
――大人に、なったのかな? なぁんて、ね。
ハイ、と答えたのに返事がないな? って気が付いて顔を上げると、スース―と小さく寝息が聞こえてきた。
――えー!? 寝たの!?
びっくりして腕から出ようとするも、絡められていて一向に解けない。仕方なく私はそのまま瞳を閉じた。愛しい人の腕は重いけれど……それを上回るほどに、そこは心地が良い。
お酒を飲んだのはもちろん私も一緒だったせいか。瞼を閉じると、催眠術にでもかかったかのようにすぐ意識が深くまで落ちた。




