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グール鉄鬼  作者: 大麒麟
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第八十三話 鼠

「俺の霊力?」

『うん海太さんの霊力はすごく強くて、しかも他の人たちには美味らしいんだよね。前に夢が狒々に狙われたのも、海太の霊力が少しついてたせいみたいだし』

「マジかよ………」


 この言葉に海太は絶句した。前に夢が誘拐された時には、何故自分の周りにこんな厄介事が起きるのかと苛立った。

 だがその厄介事を招き寄せたのが自分となると、前提がかなり変わってくる。


「ええと……どういうこと? 私がさらわれたのと海太がどうしたって……?」


 この場で全く話を理解してない人物が一人いた。たった今、話に出てきた夢である。彼女の困惑した様子は、次に銀子に困惑を与える。


「ちょっと海太! この人には何も教えてないわけ!?」

「ああ……何ていうか、言いづらくてな」


 この鉄鬼マニアの女に、自分が鋼鯱だと教えてたら、かなり面倒になりそう。そう思ったから、長く同居しているにもかかわらず、彼女にだけは教えていなかった。

 仲間たちにも、夢には余計なことを言わないように言っておいた。だがここまでいくと、やはり話しておくべきなのだろう。


「悪い夢……今まで黙ってたけれど、俺はグールで鋼鯱なんだ」

「はい?」





 その後、可能な限り手短にして、海太はこれまでの経緯を夢に話した。あの体外離脱中の記憶映像も見せ、その後で彼女の前で鋼鯱に変身してみせたりもした。


「……………………」

「お~い? 夢?」


 放心状態の夢に、海太が鋼鯱の姿のまま、彼女の肩に手を寄せる。


「ふぁ!? はい、起きてます!」


 一気に意識を覚醒させる夢。もしかして話途中で聞いていないのかと不安に思ったが……


「うん判ったよ……鋼鯱は海太だったんだよね? よく考えてみればそんな感じは色々あったけれど……」


 狒々の事件の後、鋼鯱が消えたすぐ後に、狙い済ませたかのように現れた海太。一本だたらや青太の時のように、鋼鯱が出現した件には、何故かよく関わっている海太・及びその関係者。確かに信じるに値する話だと思った。


「悪いな猿どもの話。どうやら俺のせいだったみたいだ……助けたつもりだったんだけどな」


 言ったのは百合之助一人で、まだ裏付けは取れていないが、海太はなんとなしにそれが真実だと感じていた。

 そう考えれば、自分の周りにやたらと厄介事が降りかかるのも、実に納得がいく話だ。


 罪悪感と自己嫌悪たっぷりで、海太は夢に頭を下げる。関係ない事件で関係ない奴が死んでも、特にどうとも思わないし、手間かけて助ける義理などない。

 だが自分の知り合いで、しかも自分が原因で命が危機に晒されたとなると、全く話が違う。特に後者は嫌なものだ。そういう責任というを背負わされるのが、海太はたまらなく嫌いである。


 海太=鋼鯱という衝撃の事実が判明した直後に、いきなり頭を下げられて、夢はますます困惑する。正直なんと答えればいいか判らない。


「ええと……まあ、私はこのとおりピンピンしてるし……別にいいよこんなの」

「駄目だ」


 あっさり許そうとする夢の言葉を、当の海太が思いっきり否定する。今のが何故ダメなのか、ますます判らない。


「お前あの時、マジで死にそうだったんだぞ? そんなことがあって、あっさり許そうとするんじゃねえよ・・・・・・ 俺がお前の立場だったら、罵声の一つぐらい言ってるぞ。俺はそういう、何もかも用が済んだら、あっさり水に流して終わりっていう展開が大嫌いなんだよ」

『別に海太さんが自分の意思で悪いことしたわけじゃないんだし、許しをもらってもいいんじゃ?』

「お前は黙ってろ!」


 その一言で百合之助は怯む。海太はかなり本気のようだ。そして真剣な表情で夢に目を向ける。


(ええと……この場合なんて答えるのが正解なの? 許すのが駄目なら死刑? そんなはずないよね……)


 正直狒々の事件は、夢の中ではもう済んだ話である。今から蒸し返されて、責任がどうのと言われてもかなり困る。

 良い案が思い浮かばず、頭がパンクしそうになる夢を見かねて、銀子が口を出してきた。


「そういうのって本人を困らせて言うようなことじゃないよ? それならこうしない? 今度また何かあったら、必ず助けに来てもらおうって。これからずっと海太が皆を守ってあげるの。それでいいでしょ?」

「うん、私もそれでいいよ」


 あっさりと承諾の言葉を上げる夢。今回は戸惑った様子はなく、何故か本人乗り気だ。


「おいおい……それって、これからも俺と一緒にいるってのか? それはまずいだろ?」

「別にいいじゃん。あの狒々達、夢じゃなかったら多分別の人を誘拐してたよ。結局誰も死なずに、悪者だけをやっつけたんだから、最終的に海太はいいことをしたよ。みんなだってそう思うでしょ」


 周りを見渡すと、艦長を始めとした全員が頷いていた。


『まあ、いいんじゃねえの? お前は何も悪いことしてないし、シャークの時だって、お前が先に青太を見つけたおかげで、一人も犠牲者が出なかったんだし……』

「私の時の一本だたらは、海太の霊力は無関係だよ。あの時のことは、今でも感謝してる」


 海太はこれに不思議と感じたが、一気に肩の力が抜け落ちるのを感じた。


「じゃあ、早速行こうか? 今はヒナイちゃんの治療のために、虎千代の樹へ向かうわよ!」

「うん……そもそもヒナイちゃんの病気は、私が洗濯物たたまなかったせいだし。お願い海太! この子を助けてあげて!」

「おっ、おう……」


 何だかその場の空気を、銀子にうまい具合に操られた気がしたが、別に悪い気分にはならなかった。今だけは海太は、銀子の存在に少し感謝した。





 村から東北数十㎞の上空を鋼鯱が駆け抜けていた。百合之助から虎千代の樹の位置を聞いて、今まさにそこに向かっている最中だ。


 聞けば虎千代の樹は、七大土地神の一人:虎千代という木霊が宿っている木だという。

 だとしたらそこは当然、何かしらのモンスターが占領しているはずだ。ただ葉っぱだけ貰って、そこで終わりと単純にはいかないだろう。


(何がいようが関係ない! 邪魔するなら誰だろうとぶっ殺す!)


 今まで何度も人助けをしてきた鋼鯱=海太だが、これまではその場の流れと、小さな義理だけで戦っていた。もし失敗して、死人が出てもそれほど問題にならないと、気楽に考えていたものだ。

 だが今回はそうはいかない。今回は絶対に目的を果たさなければいけない。それは自分が背負うべき責任だからだ。


 やがて目的の場所が見えてきた。ほとんどが森林に覆われて、どこがどこだか判らない大地の上でありながら、その場所だけは一目で目的の場所だと気づく。

 なぜならそこに生えている霊木=虎千代の樹は、まるでまるで一つのビルのごとく巨大だからだ。


(あれが虎千代の樹か。ある程度の位置が判ればいいといわれたけど、確かにそうだな)


 高さ二百メートルはある高すぎる樹高と、まるで煙突のように丸くて太い幹。そして雲のように広がって、辺りの林を影で覆う巨大な枝葉の塊。

 影で覆われた部分は、植物の育ちが悪いようで、木々の背丈と生育密度が低く、霊木の樹木が暗がりでありながらもよく見える。そのためこの林の中で、この虎千代の樹が飛び抜けて浮いていた。その全容はまるで巨大なキノコである。


(珍百景に見とれている場合じゃないな。葉っぱは簡単に取れそうだが……根っこは下に降りなきゃな)


 鋼鯱は上空からゆっくり下降を始め、虎千代の樹の根元にある見晴らしの良い大地に降り立った。





 肝心の虎千代の樹はひどい状態だった。上空から見たときは判らなかったが、地上から根元を見れば、この樹の惨状がよくわかる。

 地面から高さ十メートル以内の範囲の幹の表面は、皮がほとんどない。樹の内部が白い部分が剥き出したそこは、ビーバーにかじり尽くされたかのように、木が削り取られていた。


 近づいてみると齧歯類に噛まれたという意味では当たっているといえた。木の周辺には十数匹のネズミが彷徨いていたのだ。

 ただのネズミならばさほど驚くこともない。普通ならこの位置からネズミがいることすら気づかないだろう。だが現状、このネズミの存在を見落とすことなどあり得ない。


 そのネズミは大きかった。どのくらいかというと、体重は牛ぐらいあるのではないかと言うぐらいだ。

 地球の最大の齧歯類はカビバラだが、こいつらの前には、それすら可愛く見えるサイズだ。

 外観はドブネズミに近い姿、少なくともアメリカの人気キャラクターのネズミのような愛らしさはない。それがこのサイズとなると、苦手な人は相当な恐怖を感じるのではないだろうか?


 ガリガリガリガリガリッ!


 木を削る音が道路の騒音のように鳴り響いている。この巨大鼠たちは現在食事中。メニューはこの木の幹の木片である。

 強力な歯で木をガリガリと削り取り、木屑や木片を次々と飲み込んでいる。この霊木にはかなりの魔力が宿っていると思われる。おそらくそれが彼らの目当てであろう。

 喰われまくった幹を見ると、この大木が未だに枯れていないが不思議に思える。


「ヂュウ?」


 食事に夢中だった巨大鼠の一匹が、近づいてくる何者かの気配に気がつく。だがいったん食事を止めて、その気配のある方向に振り返ったときは、既に彼に命はなかった。


「・・・・・・?」


 ゴロンと地面に何かが、赤い色の液体を微量に零しながら落ちた。それは毛むくじゃらの動物の頭部だった。そのすぐ近くには首のない大型ほ乳類の身体が、お座りの姿勢をしながら硬直していた。


 それは巨大鼠の身体だ。何が起こったのかというと、鋼鯱が高速で間合いを詰めて、俊足の剣技で巨大鼠の首を斬りおとしたのである。

 全く音を立てず近づき、無音の抜刀した鋼鯱。斬られた本人は、自分が死んだことすら自覚しないまま意識は闇の中に落ちた。切断面から流れる出血量は、首の動脈を全て断ち切った割にはあまりに少ない。どれほど鋭い剣撃を与えれば、こんなにスッパリと斬れるのだろうか?


 斬首された巨大ネズミの身体は、そのまま幹にへばり付くように倒れ、二度と動くことはなかった。


「「ヂュウウウウウッ!?」」


 周りにいた残りの鼠たちが、侵入者と仲間の死に気づき慌て始める。敵意の威嚇を鋼鯱に向ける者もいたが、鋼鯱は一切動じていない。


「うっせえな………俺は今気分が悪いうえに急いでるんだ? お前らとっと死ね……」


 静かな口調で冷酷な言葉を出して、鋼鯱は一気に鼠たちに飛び掛かった。超音波砲で一網打尽にしようと思ったが、それだとこの霊木すら傷つけかねないので、近接攻撃で始末をつける。


「ヂュアァアアアアアアアアアアッ!」

「ヂィイイイイイイイイイイイイッ!」


 次々と上がる鼠達の悲鳴。ある者は脳天を真っ二つにされて、血と脳汁を噴水の吹き出す。ある者は腹を蹴られ、その衝撃とともに背中から内臓を花火のようにまき散らす。


 騒ぎは十秒と経たずに終わる。

 辺りには鼠の死骸が散乱し、鋼鯱は逃げようと後ろを向けた最後の一匹、背中から胴体真っ二つにしたあたりで、戦闘を終えた。


鉄鼠(てっそ):今回出てきた巨大な鼠。前作“不死の女神”と全く同じ役どころ。ただし数はめっちゃ増えました。

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