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グール鉄鬼  作者: 大麒麟
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第八話 ウサギ

 突然こちらにかけられた言葉に、海太は驚き入った。今まで誰もいないと思っていたのに、いつのまに人が来たのか?

 声が聞こえてきた方向=すぐ近くの大木の上に慌てて顔を向けた。


「はじめましてえ~高橋海太君」


 何故か自分の名前を知っているそいつは、人間の女性のように見えた。

 金髪の白人系、17~18ぐらいの年齢に見える。だがその姿は異様だった。身なりが異様だというわけではなく、身なりを何もつけていないのだ。

 何とその女は素っ裸だった。唯一つけている着用物は、腰の部分のふんどし一丁のみ。全身は泥や枯れ葉の欠片が大量に付着して、酷く汚れている。髪の毛も全く手入れされておらず、適当に切り揃えたらしくボサボサで泥だらけだ。

 しかもその女の身体からは、汗臭さと生ゴミ臭さが混じった、酷い悪臭がしてきた。この女はいったい何日風呂に入っていないのだろう?


 そんな女が巨木の枝の上に、カエル座りで乗っているのだ。折角のオールヌードも、こんなに野性味溢れる雰囲気だと、微塵も色気を感じられない。

 唐突に現れたあまりに異端な存在に、海太は動揺と同時に困惑しきる。


(何だこの女は? 艦の中に浮浪者でも紛れ込んでいたか?)


 真河豚への荷物の詰め込みは、あまりに急ピッチに杜撰に行われた。部外者がこっそり紛れ込むことも不可能ではないが。


「私は浮浪者じゃないよ。言うなら野生児と呼んで欲しいわね」

「はっ!?」


 心の中で言っていただけの単語を言い当てられて、海太は更に驚いた。


(何だ? 俺うっかり言葉に出してたのかな?)

「いいえ、何も言葉にしてないよ。私が勝手に読んだだけさ」


 今度の答えはそれだった。まだ何も言ってないのに、こちらの疑問を言い当てられた。


(何なんだ? 自分は探偵並みの洞察力だとでも・・・・・・)

「いやいや私は探偵なんかじゃないし、洞察力も大したことないよ~」


 またこちらが口にする前に、相手が先に答えを返してきた。裸女のおちょくるような視線に、少し苛ついてきた。


「私は人の心を読むことができるのさ。だから何も喋らなくても、あんたの言いたいことなんて全部お見通しさ」

「心を読む? へえ・・・・・・」


 妙にサイコな答えを返された海太は、物は試しにあることをやってみた。


 海太は口を一切動かさず、頭の中だけである情景をイメージする。そのイメージの世界には、あの裸女がベッドの上に座っていた。

 現実と大きく異なるのは、裸女がとても儚げな恋する乙女のような視線を、ある方向に向けていること。

 その方向にはまるまる太った一頭の豚がいた。裸女はそっと豚に寄り添い、その豚の口に熱いキスをした。そしてその豚をベッドの方へと誘い、息をハアハアと荒げながら、その豚と性的な○○○を・・・・・・


「何を想像してるんじゃ、こらーーーーーーー!」


 裸女がキレた。


 さっきまでのおちょくる視線は一瞬で消え、般若のような怒れる表情である。これに海太は、さっきとは別の意味で驚いた。


「マジかよ。本当に心が読めるのか? ていうかそんなふざけた姿でも、羞恥心はあるんだな・・・・・・」

「やかましいわ! よくそんなふざけた発想を、即座に思いつくな! お前は変態か!?」

「俺は変態じゃない! そんなことを言うくらいなら、まずお前が風呂に入って服を着ろ!」


 その言葉に、裸女の怒号が一瞬で納まる。


「・・・・・・まあいいわ。そんことよりお前、その機械とこの野菜の種を交換しろ」


 いきなりの話題転換。裸女が左手で指さす先には、海太の持っているゲームが指されている。そしていつのまに持っていたのか、右手には大きな布袋が三つまとめて掴まれている。


「何だよそれ? このゲーム機高いんだぞ。そんな種なんか等価交換にはならねえよ」

「なると思うけどなあ。少なくとも今のあんたらにとってはねえ~」


 裸女の視線が再びさっきのおちょくる視線に変わっている。これに海太は再びむかついてきた。


「いらねえったらいらねえ。さっさとどっかいけ!」


 この地の原住民と出会ったというのは、かなり重大なことのはずである。さっきの艦長の命令通りするならば、即座にこのことを艦に連絡するべきだった。

 だが海太は苛立つ気持ちが優先して、この人物とのこれ以上の接触を拒否した。


「しょうがないね・・・・・・まあこれもあんたらの為を思ってのことということで・・・・・・」

「えっ?」


 樹から飛び降りたかと思うと、恐ろしく俊敏な動きでこちらに接近してきた裸女。何事かと思った瞬間、海太の視界には、こちらに振り回される裸女の左脚が映っていた。


 ドゴッ!


 裸女の蹴りが、見事に海太の顔面に命中した。

 それは砲弾のような凄まじい威力で、海太を守っていた鉄鬼装置の防御シールドを破り、海太に顔が潰れると思うほどのダメージを与える。


「ぐほぉ!?」


 衝撃で身体がプロペラのように回り、後頭部を地面に打ち付ける海太。その勢いでゲーム機が手から離れて宙を舞う。


「よっと! それじゃあもらっていくね!」


 裸女はゲーム機を空中で見事キャッチ。いつも丁寧に扱っているおかげで、綺麗だったゲーム機本体が、その汚れだらけの手に触れられてしまう。

 そして袋を地面において、颯爽と林の奥へと逃げ出した。


「待てやこらぁ!?」


 結構タフだった海太は即座に起きあがる。少し腫れた顔には、裸女の脚部と接触したことで、あの体臭がこびりついて鼻に激痛をもたらす。

 鉄鬼装置の起動スイッチを押し、瞬時にレベル2鉄鬼・番犬侍に変身した。そしてそれによって強化された身体能力で、裸女が逃げた林へと駆けだした。






 大艦隊の着陸範囲から少し離れた林の中に、第2艦隊から派遣された探索部隊が草を掻き分けて前進していた。人数はおおよそ50人。全員が鉄鬼に変身済みだ。

 タイプはレベル1:アイアン・コエロフィシスと、レベル2:アイアン・ヴェロキラプトルである。


 出発前に上官からは、安全のためあまり遠出をしないようにと言われていた。だが冒険心に駆られていた彼らは、何としても何か新発見をしたくて、予定より深いところまで踏み込んでいる。


(むっ!?)


 鉄鬼の探知機能が、木々の陰に隠れた200メートル程離れた位置に、大きな生体エネルギーを感知した。その大きさはかなりのものだ。さっき見つけた森の鳥たちとは明らかに違う。

 探査部隊は恐る恐る慎重に、その方向に歩き出した。少し歩けば木々の隙間の向こうから、何か動く者が見えてきた。そしてその全身が、肉眼でもはっきり見える位置に来る。


((ウサギ?))


 そこいるのは1羽のウサギだった。ペットとして飼われているものとは違い、体毛はかなり地味な茶色だ。こちらを警戒している様子はなく、のんびりとその辺の草を噛んでいる。


 ここは異なる次元の地球で、自然環境も地球にかなり近い。ウサギがいたとしても、何もおかしいところはない。

 だがさっき感知した生体エネルギーは、ウサギのような小さな生き物ではなかった。


【何だ? さっきの生体エネルギーの主はどこだ?】


 生き物違いをしたかと思い、探索隊隊長のブルー・ジョンソン大尉は、他に動物がいないかと周囲を見渡す。

 だが数人の兵士があることに気付いた。


【おい! あのウサギおかしいぞ!】


 言われてすぐに隊長も気付いた。少し離れた距離にいたため、最初は気付かなかったが、今食事中の雑草と比較してその異常さがすぐに判った。

 このウサギはあまり大きすぎる。明らかに人間より大きいのだ。ざっと見ただけでも100~200㎏はありそうな巨体である。


 ジョンソン大尉は野生のウサギを直に見たことはないが、テレビ番組などで認識しているウサギの標準的な大きさとは、あまりに違いすぎている。

 これに気付いた兵士達は一様に驚き、そして即座にある行動に移った。


【ビーストだ! うっ、撃てえ!】


 林の中にいくつもの銃声が木霊した。






 所変わって例の探索部隊がいたのとは、別の方角の林の奥。探索に向かったのは第2艦隊の部隊だけではない。ここには海太と同じ日本人の兵士達、第14艦隊の探査部隊である。

 だがその場は現在少し剣呑な空気になっていた。


「何してるんですか中尉! いきなり撃つなんて、ひどすぎます!」

「いやしかし・・・・・・あれ見れば誰だってビーストだと思うだろう?」


 1人の女性の声の番犬侍が、隊長と思われる番犬侍に怒声を浴びせている。この女性兵士はかなり規律にうるさく、こういうことには上官にも容赦がない。

 彼らの側の地面には、1羽の巨大なウサギが横たわっていた。その身体の2箇所に風穴が開いており、地面には流れ落ちた血が元で、赤い沼が出来上がっている。


 彼らもまた、第2艦隊の部隊と同様にこの巨大な生物を発見していたのだ。そして全く同じように、ビーストだと思いこんだ隊長始め数人の兵士が、このウサギに発砲した。

 ビーストならばレベル1~3鉄鬼の銃弾など、命中しても即座に致死には至らない。だがこの巨大ウサギは、一発当たっただけで、あっさりと絶命してしまったのだ。


 調べてみたところ、この大きさは確かに異常であるが、ビーストでも何でもないただの大型動物であることが判明した。


「思いますか? ここは異世界、どんな動物がいても不思議じゃないんですよ? 大体この子はただ草を食べているだけで、こっちに攻撃する様子なんてなかったじゃないですか!? それにもしこれが動物じゃなくて、亜人だったり、着ぐるみを着た人間だったら、どう責任をとるつもりだったんです!?」


 亜人の可能性はともかく、こんな山の中に着ぐるみ着て歩く奴なんていない・・・・・・と突っ込みたかったが、彼女の言うとおりここは異世界である。何でもこっちの常識に当てはめるのは利口ではない。

 故郷世界でも、ハロウィンの仮装をした人物を誤写する事件が実際にある。


「本艦と連絡を取りましたが・・・・・・ほとんどの部隊がこのウサギを見つけたようです。どうやらこの森の中には、うようよいるようで・・・・・・。今のところウサギが兵を攻撃したという報告はありません」

「そうか、確かに可哀想なことをしたな。とりあえず写真をとっておいて、この死体をサンプルとして持ち帰ろう」


 兵士達がウサギを担いで、艦のいる方向へと帰宅の道についた。


「ところでこのウサギ食べれるかな? それもあとで検査しますよね?」


 今までウサギを撃ったことを非難していた女兵士が、いきなりそんなことを言って仲間達を呆れさせた。

 多くの兵士達の間では、食用家畜として育てられた者以外の動物を食べるなど、発想としてまずありえないことだった。


 だがこの女性兵士は少し違った。彼女はウサギを食べたことはないが、釣った野生の魚を食べることは昔から行っていた。

 女性兵士=金野陽子は、海太と同じ農村で、自然に囲まれて育った、今となってはとても珍しい若者の1人である。


(さとり):本作に出てきた裸女は、伝承の覚と同じく本来は猿の姿だが、ある理由で力を得て、人間に変化できるようになった設定。

 登場にインパクトを持たせるための擬人化だったけれど、書いた後で少し後悔。多分もう二度とやらない・・・・・・

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