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グール鉄鬼  作者: 大麒麟
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第五十八話 学校の怪談8

 美術室で銀子は絵を描いていた。この非常事態の中で、おかしいとしか思えない行動である。

 だが冷静に考えてみれば、ここは動いても動かなくても、散々な目に合うのだ。他に何か有用な策があるかと言われれば、誰も何も答えられないだろう。


 幸い美術室には、敵意のある何かが入ってくることはなかった。何故彼女はこのような奇行をしでかしたかというと、特に理由はない。長いこと絵を描いていない故の、欲求不満である。


 艦隊では紙などの資材を、無駄に使用することは許されない。当然、個人的に絵を描きたいからと、紙を消費することなど許されない。それ以前に艦隊には絵の具がなかったのであるが。


 そのため学校という懐かしい場所で、美術室という名の部屋を見たときに、一気に昔を思い出し、このような行動に出たのだ。

 今彼女が描いているのは、一人の鎧を纏った人物である。彼女の筆やペンの動きは、驚くほど速く、正確である。これだけで、相当絵を描き慣れているのだろうという事が判る。ヒナイもこの見事な腕前に、感心して見入っている。

 下書きが終わり、描いている鎧の全体像が判るようになる。


 それは知っている人が見ればすぐに判る、鉄鬼・鋼鯱の絵であった。今村や艦隊の兵士達の間でも、異世界の謎の戦士として何度も話題に上がっている存在だ。

 時間が経つにつれ、これはまるで危機に立たされた同胞を助けてくれる、正義のヒーローのように考える者が増えてきている。


 銀子が着色をしようと、鋼鯱の基本カラーの銀色を、筆につけようとする。その時、部屋の中に、素人でもすぐ判るぐらいの強い気配が入り込んできた。


「誰!」


 即座に身構えて、気配のある方向を睨む。そこは美術室の扉の前、一人の十歳ぐらいの子供だった。どうやら死霊らしく、肌も服もみな透けている。


「#&%‘(&’~!?」

「君は・・・・・・・・・」


 前の鉈女のこともあって、幽霊に対して警戒を強めるヒナイ。一方の銀子は、その見覚えのある姿に当惑していた。

 その少年は、以前フェイの探索部隊が遭遇し、記憶映像が公開された、最初に発見されたこの学校の幽霊であったのだ。


『お姉さん、その絵は何を描いてるの?』


 特に敵意を感じない、無邪気な声で聞いてくる少年霊。相手死霊であるため、すぐに気を許すことはできないが、とりあえず正直に答えてみる。


「これは鋼鯱。私にとってのヒーローよ」


 もし他の兵士が、この言葉を聞いたなら、皆首を傾げただろう。自分にとってのヒーロー。謎の戦士・鋼鯱と、この銀子という女に、何か接点があっただろうか?


『お姉さんのヒーロー? それじゃあ、お姉さんしか助けてくれないの?』

「どうだろう? あいつ口で言うのと違って、結構お人好しだからね。自分の大事な肉を、他人の子に上げちゃったりとか・・・・・・。もしかしたら君のことも助けてくれるかも知れないよ」

『・・・・・・本当に?』


 何かを期待している様子の少年霊。それを見て、銀子は相手の事情が大体読み取れた。


「君はここのゴーストハザード・・・・・・何か悪い霊に捕まって動かされてるね?」


 強い霊が弱い霊を縛り上げ、無理矢理操る。ゴーストハザードではよくある事例である。少年霊は首を立てに降って肯定の意思を示した。


「よかったら私達に話してくれないかな? 私が捕まったのは私の業だけど・・・・・・この子は何も悪くないの。どうにかして出してあげなきゃ」

『うん・・・・・・本当は駄目なんだけど。教える・・・・・・』


 少年霊は静かに、この学校のことを語り出した。






 一方、校舎の外の校門前にて。ここには渡辺艦長とブロックジャックが待機していたのだが、今はちょっと困ったことになっていた。


「渡辺大佐! あんたはここで何をしているんだ!?」


 立ち入り禁止区域であるこの廃村に、何故か数百人の地球連合軍兵士が到着していた。彼らは皆鉄鬼に変身しており、その中で一際目立つ二人の鉄鬼が、渡辺艦長に問いつめている。


(うわぁ・・・・・・これは面倒なことになった)


 本来入ってはいけないはずの場所にいるのだから、艦長の行動は確かに軍規違反である。一方の相手は、おそらく上官の許可を得ているのだろう。


 声を荒げて詰め寄ってくる部隊長。だがその顔の仮面がとても可愛らしいので、実に迫力に欠ける。

 この部隊を率いているのは、ゆるキャラ系鉄鬼のトラニャン・ブチニャンを装着した、山本雄一・山本雄二である。

 堅固な印象を受ける鎧戦士達を、こんな祭りの着ぐるみとしか思えないものを装着した者達が率いているのは、なんとも違和感がある。


「いやあ、煙羅煙羅から垂れ込みがあってね・・・・・・ここにヒナイらしき子供が入っていったって・・・・・・」


 あの謎の声のことは説明しきれないので、偶然見たと設定するには一番妥当な、煙羅煙羅を共犯に仕立てる。

 あいつは仕事以外の時は、そこらへんをしょっちゅう飛び回っているので、変には思われないだろう。


「そうか・・・・・・。しかしそれならば何故、上に報告しなかった? ここが危険地域であることは知っているだろう?」

「まだ確信がなかったもので、とりあえず外から様子を見ようと思ったんだよ・・・・・・」


 実は既に、中に二人が入っているのだが、とりあえずそれは黙ってみる。


「そうか。まあ、今回は大目に見よう。だが今後は、単独行動は控えよ。特にお前は一艦の艦長なのだからな!」


 可愛いぬいぐるみの顔から発せられる、渋い中年男性の声。そのインパクトに、艦長には彼らの説教はあまり頭に入らなかった。それよりも聞くべき本題がある。


「何でここにヒナイがいると思ったんだ?」


 それが一番の疑問である。ここにいるらしいという話を聞いた者は、自分たちだけだと思っていた。

 あの謎の声は、他にもこの話をしたのだろうか? それとも夢がチクったか? この質問に、雄二が会話を引き継ぐ。


「最後に少女を連れた女兵士を目撃したという、警備の者たちから記憶映像をとった。そしたら驚くべきことが判ってな。少女を誘拐した女は、映像解析からしておそらく死霊。しかも以前、一本だたらに殺害された、パープル・ホジソン伍長であることが判ったのだ!」


 確かに驚愕すべき事実に違いがない。以前ブルーの部隊が、一本だたらと戦闘を行って壊滅した事件があった。

 その時死亡した兵士の一人が、死霊になってヒナイを誘拐したというのだ。


『マジかよ。何で戦死した同胞が、子供を攫うんだ?』

「恐らく上位霊に操られているのだろう。それを推測すると、ゴーストハザードの危険性があると言われている、ここが有力候補になった。それで我らの部隊が、自ら志願してここの捜索許可を頂いたのだ!」


 この二人の子供好きは、それなりに知られている。どうやらそれは、レグンの子供でも同じであるらしい。

 話は終わったと言わんばかりに、山本大佐が全兵に出動を命じる。二百人あまりの兵士たちが、猛牛の群れのように、一気に校門を抜けて、校舎に突撃しようとする。


(まいったなあ~中にいる海太たち、うまく誤魔化せるかな?)


 艦長がそんな心配を抱くが、すぐにそれどころでなくなる。


 ドドドドドドドドドドッ!


「何だ!?」


 いきなり非常事態が発生した。先に扉の向こうへと入ろうとした兵士たちが、突撃した方向とは逆向きに空中へと投げ出された。

 壁に当たったスーパーボールのように、ポンポンと空中へと跳ね上がり、やがて地面に激突して倒れる。倒れた兵士たちは、全員気絶していた。ただの落下の衝突で、鉄鬼が気を失うはずがない。


 やがて扉の前の兵士たちも、次々と宙を舞った。ここにきてその原因が判った。


「「カンガルー!?」」


 その場の全員が、その珍妙な存在に目を丸くする。人間ほどの大きさの、大型カンガルーが、校舎の中から出てきて、兵士たちを次々と殴り飛ばしているのだ。

 恐ろしい程俊敏な動きで、鉄鬼に変身した兵士たちの攻撃をかわし、カンフーのような動きで兵士たちを撃墜していく。その衝撃に、彼らは次々と吹き飛ばされて昏倒しているのだ。


「何だよあれ? ゴーストハザードていうからには、幽霊が出るんじゃないの?」


 意外すぎる敵の出現に、渡辺艦長が困惑の声を上げる。確かに場違いな姿の敵だが、それでも強敵に違いはない。


「おのれえ! 我らの道を塞ぐか! このケダモノめ!」

「ここにはか弱い少女が、我らの助けを待っている! 生憎だが、力づくでも通らせてもらうぞ!」


 指揮官であるトラニャン・ブチニャンの二人が、自ら前線に出てカンガルーと対峙する。始まる二対一の戦い。猫の着ぐるみと、カンガルーの勝負。

 ……何だかサーカスか、動物園の出し物のような光景である。


 睨み合う両者。先に動き出したのはカンガルーであった。常人には瞬間移動したかと思うほどの俊足で、一気に間合いを詰めて、猫鉄鬼達に己の強力な蹴りをおみまいする。


「「ニャンコバリア!」」


 相撲のような平手の構えを取り、二人がそう叫ぶと、彼らの全面に丸い盾のようなバリアが発生した。カンガルーの2連キックは、そのバリアに阻まれて威力を相殺されてしまう。


 相手にスキができたと見計らって、二人は即座にバリアを解き、カンガルーに向けてダブルパンチを放つ。

 だがカンガルーもすぐにはやられない。両腕の前腕を盾にして、彼らのパンチを受けきる。


 カンガルーは衝撃で後方に十メートルほど後退するが、身体のバランスは崩れておらず、即座に二人に向けて構え直した。今度はスキなどいちいち伺わず、正面から両者が激突した。


「「ニャニャニャニャニャッ、ニャァア~~~!」」


 気合があるのかないのか、いまいち判らない二人の掛け声。彼らは凄まじい速度の拳打をぶつけ合い、ほぼ互角の戦いをしている。

 両者の戦闘は長引き、救出隊の潜入は遅れることになった。


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