第十話 復活
「ぶもぉ!?」
おかしな声を上げて、海太は再々意識を取り戻した。今度はさっきの浮遊感はない。全身に何かが接触している感覚がある。
見てみるとそれは土であることが判った。自分の手を見てみると、それは霊体でなく確かに実体のある肉体だ。
周りを見てみると、自分がさっき体外離脱中に見たクレーターの中に埋まっていることが判った。
腰を見るとさっき見たときは破損していた鉄鬼起動装置が、何故か今は元通りに直っていた。
「夢だった・・・・・・わけないようなあ~」
起きあがり、自身の身体を見てみる。鉄鬼の鎧は、既に機能を停止していて消滅していた。
どこも怪我をした様子はなく、気分もおかしいところはない。それどころか以前よりも力が漲っている気がする。
ただ土で汚れた所為なのか、肌色が悪くなっているような気がする。
(あの鶯って奴が助けてくれたのか? 人を生き返らせるって、とんでもない技だけど・・・・・・)
彼女はこの世界の原住民なのだろうか? 自分を助けたと言うことは、ビーストの仲間とも思えないが・・・・・・?
近くの地面を見ると、大きな布袋が8つほど置いてあった。さっき裸女が差しだそうとした物と似ているが、さっきより大きくしかも数が増えている。
中身を見てみると、何かの植物の種らしき物が、ぎっしりと詰まっている。
(詫びのつもりか? しかしこんなのもらってもなあ~)
艦には帰還までに必要な食糧は十分にある。正直野菜の種など不要なのだが・・・・・・
(とにかく一旦艦に戻ろう。何か命令無視して、随分奥に来ちまったし)
時刻を見るとまだ集合時間前だ。艦の位置は鉄鬼の探査機能で判る。今から急いでいけば十分間に合う。
袋を背負い、海太はすぐに艦のいる方向目掛けて走り出した。
森林の中をイノシシにも負けない速度で走り続ける。その速度はおよそ人間ではありえない速度だ。ましてや今は大きな荷物を背負っているというのに。
海太は別にそれを感覚的におかしいとは思わなかった。鉄鬼に変身している間は、いつもこのぐらいの身体能力を発揮している。だが途中で、海太はある衝撃的な事実に気がついた。
(俺、変身してないじゃん!?)
海太の番犬侍の変身は、目覚めたときには既に解除されていた。海太はうっかり変身しなおすのを忘れて、帰還のために走ったのだが。
そうなると海太は生身のまま、鉄鬼変身時と同等の身体能力を出していたということになる。
一旦足を止め、海太は落ち着いて状況を考える。
気のせいではない。自分は確かに時速数十㎞の速度で走っていた。全力を込めて走ったつもりもないし、疲労感も呼吸の乱れもない。
だが呼吸の乱れの有無を確認したところで、また新たな事実に気がついた。
(俺、息してない!?)
海太は呼吸をしていなかった。いや、しようと思えばできるのだが、それは意識的に息を吸って吐いてができるということ。
試しに息を止めてみたが、どれだけの時間止めても全く息苦しさを感じない。
(そういやシビトがどうとか言ってたな・・・・・・。そのまま元通りに生き返った訳じゃないって事か?)
試しに近くにあった樹を思いっきり蹴ってみた。大木と言うほどではないが、結構な太さの幹だ。
通常ならば、例え野良仕事で鍛えた海太の体力でも、まずびくともしないだろう。だが今ここでは違った。木の幹は藁の柱のように簡単に折れ、あっという間に倒木してしまった。
自然に起きたものではない。全ては海太の蹴りの衝撃によるものだ。
「・・・・・・この状況、どう報告しよ?」
自分でも意外に思うほど、冷静に現状を受け入れている海太。まず自分のこの事態を、上官に話すべきかどうかを思い悩んでいた。ひとまず今は帰還である。
最後に艦に戻ってきたのは海太であった。
入り口のほうで同じ艦の兵士である遠藤 夢兵長(22歳)が声をかける。
「君が一番最後だけど、意外だね? 外出なんて興味ない感じだったのに」
この若い女性兵士は鉄鬼に憧れて軍に入った人物。それ関連で、よく海太に話しかけることが多かった。この艦で唯一、海太と職務以外でのコミュニケーションをとっている人物だ。
と言っても、彼女がほとんど一方的に話しかけてきているのだが。正直うざいのだが、とりあえずいつも適当に相づちを打っていた。
でも今回に関しては、それなりの言い訳が必要に思えた。
「ああ・・・・・・ちょっとウサギを追いかけてね」
「ウサギ!? よくあんなでかいのを追う気になれたね!」
「へ? ああ、まあノリで・・・・・・」
適当に考えた回答に、妙な反応をされて海太は少し戸惑った。ウサギが何かあったのだろうか?
「あれ? 海太、君なんか顔色が悪いね? 体調でも崩した?」
「どうだろ? もしかしたらそうかもな」
「だったらすぐ医務室に行った方がいいよ! 先生達みんな昨日飲んで二日酔いだけど」
昨日の敗戦記念パーティーは、意外な悪影響を与えていた。
「そりゃ駄目だろ・・・・・・まあそのうち診てもらうよ」
「うん・・・・・・身体に気をつけてね」
心配そうに見送る夢を、海太はうっとうしそうにしながら、自分の部屋に戻っていった。
各部隊が採取してきたウサギ・カルガモの死体は、各艦のそれぞれの医務室で生態調査が行われた。
科学大最盛期がもたらした生物科学機械は、生物の遺伝子・年齢などをその場ですぐに解析できるほどに発達している。
結果判ったことは、このウサギ・カルガモは遺伝子状では、故郷世界の一般的なウサギ・カルガモと全く同じであることが判った。
ウサギの中で一番若い者の年齢を調べると、なんと生後僅か3ヶ月である。誕生から成体になるまでにかかる時間が、普通のウサギよりも速いのだ。
もしこれで普通のウサギと同じ出産数だとしたら、とんでもない繁殖力である。一帯の植物が食い荒らされていないのが不思議だ。
これに関しては植物学に秀でた艦の研究チームから報告が来ている。この森林に生えている樹木は、故郷世界の樹木のおおよそ半分の年月で成長しているというのだ。植物もまた、遺伝子状では同じなのにどこか普通じゃなかった。
これらの報告が艦隊上層部にもたらされた。総司令がおおまかな報告を、ディスプレイ越しに聞いている。
【・・・・・・ふむ。その辺は大体判ったよ。それで艦の修理の方はどうなってる?】
敵の攻撃で破壊された部分は、装甲の小さな穴と重力装置のみ。墜落の衝突や風穴を開けられたときの回線切断などで、監視カメラなどの一部機能が停止した艦もあるが、これの修理はそう難しくない。
だが重力装置の方が難題で、そうすぐにどうにかできる物ではない。あれはかなりの高技術・高予算の代物で、そう簡単に予備を置ける物ではないのだ。
『【それに関してはまだ何とも・・・・・・えらく自信のある整備士達は、あと半年で直せると言ってますが】』
【結局次の門が開くまで、この場に留まるしかないということか。まあ難しいことではないが】
こういう事態に備えて、保存食は各艦にたっぷりと詰め込んである。次の門が開く予定の1年後ぐらいには十分間に合うだろう。
【今後のことはまた提督会議で再度検討しよう。それで最初の話の蒸し返しになるんだが・・・・・・本当におかしな生き物はウサギとカルガモだけだったのかい?】
『【え? はい、そうですけれども・・・・・・何か問題でも?】』
【いくら植物の生育が早いからって、あんな生き物が無制限に増え続けないのはおかしいよ。奴らの繁殖力を抑えている、大型の肉食動物がいるんじゃないかと思ってね】
確かにあり得る話である。イタチの姿も目撃されてはいるが、あまり数は多くない。というか一頭しか見つけていない。
地上と上空両方から、各地で生体反応を探索してみたが、見つけたのは単独で暮らしているイタチ一頭だけだ。
あれだけ大型の草食動物が、これだけ高密度に暮らしているのだ。それの数を抑制させる、肉食動物がいないと生態系が保てないはずだ。
勿論鉄鬼の探索でも、隅から隅まで調べ上げられるわけではない。もしかしたら見落としている部分もあるかもしれない。
その事を含めて考えたとしても、艦隊群を含めた300平方キロメートルもの範囲で、肉食獣がたったこれだけとは少なすぎる。イタチなどには、あの巨大ウサギを補食したりはしないだろう。
ではいったい何が、ここの生態系の抑制をつとめているのだろうか?
すると近くにいた通信士が新たな報告を始めた。
【6番艦隊の真河豚・三番より報告が来ました。現地生物に関して極めて重要なものだと・・・・・・】
【真河豚? あそこに探索命令は出ていないはずけどね?】
【それが・・・・・・総司令の令孫が偶然遭遇したそうで・・・・・・】
送られたデータは海太の番犬侍のカメラが録画した、裸女追撃→一本だたらの一撃、までの一部始終の映像だった。
レベル2の鉄鬼を一撃で気絶させる(実際は即死)危険な生物の発見には、その後僅かに波紋を起こすことになる。




