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グール鉄鬼  作者: 大麒麟
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第一話 怪物との戦争

 20XX年の日本にて。この日のある集落に、耳障りな音と人々の悲鳴の二重奏が流れていた。


「ビースト警報だ!」

「何でこんなところに!? 狙うならもっと都会を狙えよ!?」

「何してるんだ!? 泣いてないでさっさと避難しろ!」


 緊急警報のブザーが一帯に鳴り響いている。山に囲まれたとある平野。大規模な田園や畑が広がっているが、農村・山村とは微妙に違う施設群。

 そこで働いている農業員・事務員らが慌ただしく動いている。別に祭りをしているわけではない。住人達は持てる分の荷物を抱えて、皆町の外の林の中へと、大急ぎで走っている。


 地震でも起きたのだろうか? だが施設にいくつかある建築物には倒壊した建物などはなく、ここに海はないため津波の危険もない。

 だが施設中には、そういった災害が来たときと同じような形での警報が、町中に鳴り響いている。


『北方の山林にワールドビーストの出現が確認されました! みんなただちに南方の山道に逃げてください! 繰り返します。北方の山林に・・・・・・』


 荷物を抱えて走る人々や多くの自動車が、その警報で言われたとおりに南方へと逃げていく。みな落ち着きというものが全くなく、急ぎすぎて自動車に撥ねられる者までいる。

 警報ではどこに避難すればいいという、具体的な避難場所は明言されていない。そんなもの明言できるわけがない。あれにはじっとしていて安全な場所などないのだから。


 やがて町の北方の林の中から、何かが集団でここの畑の中に侵入してきた。それは人ではなかった。鹿や野犬が畑の中に迷い込んできたわけでもない。

 そんな鉄砲撃って追い払える程度の者なら、皆あんなふうに町を捨てて逃げたりはしない。


 林の中から姿を現した百匹以上のその個体は、蜘蛛とも人間ともつかない、奇怪な生命体であった。


 それは蜘蛛のような姿をしていた。分類的にはハシリグモに近いタイプの姿だ。だが大きな牛ほどもあるはずの巨体で、世界最大の蜘蛛とされるタランチュラなどとは次元が違う。

 そして異形なことに、本来蜘蛛の顔がある部分に顔がなく、そこに人間のような上半身が生えている。まさにケンタウロスの蜘蛛バージョンである。

 その上半身は下半身と同じ茶褐色の表皮で覆われている。顔の部分は、後頭部に髪の毛が生えている事を除けば、完全に蜘蛛の顔である。怪奇蜘蛛男という呼び名が似合いそうだ。

 そして両手にはサーベル型の刀剣やライフル型の銃器などの武器を装備していた。刀剣は柄の部分が、長銃は全体が茶褐色だ。


 この謎の蜘蛛怪人の軍団は、施設の敷地に侵入すると次々と建物の中に入り、中に誰かいないか調べ始めた。

 時折血気盛んな蜘蛛怪人が、剣を振り回して家具や柱を斬り倒したり、長銃を撃ちまくって壁や天井に穴を開ける。


「ワン! ワン!」


 そんな彼らに敵意の声を叫ぶ者がいた。侵入者用の番犬だろうか? ある庭地に繋がれている一匹の雑種犬だ。

 どうやら飼い主に置き去りにされたらしい。それに気付いた蜘蛛怪人が、その犬に近づいていく。


 牙を向ける犬を恐れもせず、その頭を掴み、蜘蛛の口を開けて頭からバリバリ食べ始めた。犬は悲鳴も上げられず絶命し、骨と肉が砕ける音を立てながら、あっというまに蜘蛛怪人の腹に納まっていった。


 そことは別の場所では、蜘蛛怪人が建物の冷蔵庫の中身を漁っている。別の場所では野良猫を追いかけている者がいる。どうやら彼らは肉食らしい。


 そんな風に、異形の集団が施設の中を好きなだけ荒らし回っている最中、町の上空におかしな現象が起き始めた。

 白雲が多く浮かび、雲の切れ目から青空がいくつか見える天気の空の風景。その一点が歪み始めたのだ。

 水面に映った風景が上からかき混ぜられているように、その円形の一部分がグニャグニャと揺れ動いている。空間が歪んでいるのだ。


 やがてそこから大きな光の輪が出現した。緑色の魔法陣のような円形の輪が、波紋のように広がり大きくなっていく。そしてその輪の中は、こことは別の場所の空の風景が映っていた。

 この異変に蜘蛛怪人達も気づき、町荒らしを休止して空を一斉に仰ぎ見る。やがてその空の輪から何かが現れた。

 それはこの輪を通して、遠方から空間を飛び越えて、この場所に短時間で転移・移動をこなしたのだ。


 それはとても巨大な物体。空を飛ぶ一隻の船である。形は潜水艦に似た流線型だ。

 だが船首が六角錐になっており、槍のように尖っている。全体は銀色のメタリックな外装になっている。船底の部分には空を浮かばせるためであろう、ジェット噴射を放出する穴がいくつもある。


「ギーギーギー!」


 空間転移でいきなり頭上上空に現れた飛行艦に、蜘蛛怪人達は最初は動揺したものの、すぐに落ち着きを取り戻し、空に向かって威嚇の声を上げる。

 中には飛行艦に向けて発砲する者までいた。


 その飛行艦の内部、艦内の大広間に、80人ほどの制服を着た男女が整列していた。

 彼らが着ているのは、ジャージに似た形状の、動きやすさを重視したタイプの緑色の軍服だ。


 彼らは軍服だけでなく、腰の部分に奇妙なベルトが装着されている。通常留め具がある腹下の部分には、スマートフォンのようなディスプレイが据え付けられている。これは何かの階級章であろうか?

 彼らの真ん前に、指揮官らしき一人の男性が声を上げる。


「現時点確認されているアーミースパイダーは、全部で110体。高レベル体の姿は確認されていない。急な部隊編成で新人も多く入れてしまったが、現時点の我々の戦力でもギリギリ討伐可能なレベルだ。皆健闘を祈る。全員出撃!」

「「「はっ!」」」


 全員が敬礼した後、ベルトのディスプレイが独りでに起動し、画面にスイッチのような矢印画面が表示された。彼らは一斉にその部分を人差し指で押す。


 ピコン!と可愛い感じの電子音声が鳴ると同時に、兵士達の周りに奇妙な物体が次々と出現した。大きなプラモデルの部品のようないくつもの破片が、何もない空間から次々と現れる。

 それは最初は光を纏う半透明だったが、すぐに実体化して彼らの周りを浮遊する。そしてそれらは一斉に兵士の身体に、ものすごい速度で付着していった。いや、これは装着だ。

 それらの部品を身に纏った兵士達は、一瞬で甲冑姿の騎士姿に変身したのだ。


 外見は西洋の板金鎧にやや似た感じで、肌や下の服が見える部分が全くないくらい全身を覆っている。カラーリングは灰色を基調としており、尻部には何の意味があるのか犬のような毛が生えた尻尾がついている。

 兜の部分は、前方に向けて尖った形をしたフルフェイスだ。本来目が見える部分のシールドがなく、動物の目のような黄色いガラス部分が両横についている。それもまた尖った形をしており肉食獣の目を連想させる。

 顎の部分には動物の犬歯のような飾りがついており、後頭部には動物の耳のような突起部分がついている。言われないと判らないが、これは犬をモチーフにしたデザインの鎧だ。


 腰の部分には日本刀ぽい刀剣が鞘に納まって差されており、背中にはライフルのような黒い銃器を背負っている。

 一斉に謎の鎧を装着した兵士達。彼らが着ているのは、この世界において最強の白兵戦兵器=鉄鬼(てっき)である。これを装着した者は、常人の何十倍もの身体能力と、戦車を凌ぐ装甲防御力を誇る。

 これは戦艦にも匹敵する戦闘力を持つとされ、現代の人類の力の象徴とも言える存在だ。


 この隊員達が装着している鉄鬼の鎧は“番犬侍(ばんけんざむらい)”“番犬御家人(ばんけんごけにん)”という、鉄鬼の中ではレベル2・レベル3というランクにいる機体である。

 なおこの部隊にいる隊長格の2人は、鎧の色が他と異なり茶色っぽい色をしている。これは他の隊員よりも上位の機体でレベル4の“番犬旗本(ばんけんはたもと)”という。


 飛行艦の看板の扉が開き、兵士達は次々とそこから外に出て、地上へと飛び降りていった。

 スカイダイビングと同時に、彼らの両足には小さな光の輪に囲まれた。飛行能力に必要な重力制御・推進力を鉄鬼に与えるエネルギー光輪だ。

 別にこれなしで地上に落ちても、大したダメージはないだろうが、着地がかっこ悪くなる。


 またそれとは別の入り口から、レベル1の番犬足軽(ばんけんあしがる)の鉄鬼部隊が、避難している市民達の護衛のために、その方向へと飛んでいる。


 鉄鬼部隊は蜘蛛怪人=アーミースパイダーの群れから数百メートル離れた畑の上に着地した。生えたての芽がいくつも踏み潰されて、兵士達はやや罪悪感を覚える。

 スパイダー達は彼らに警戒しながら、彼らの元へとゆっくり近づいてくる。殺気を放っており、鉄鬼部隊を敵と認識したようだ。


「撃てえ!」


 先手必勝。掛け声と共に兵士達は、背負った銃を抜き、敵に向けて一斉に撃ちはなった。

 戦国自体の足軽鉄砲隊のように見通しの良い平らな大地の上で整列し、敵陣目掛けて無数のエネルギー弾を次々と発射していく。

 その威力はRHA270mmという、小火器でありながら砲弾並の破壊力だ。


「「ギギィ!」」


 いささか油断していたスパイダー達は、次々とその弾丸を受けて大きく怯む。身体の各部にエネルギー弾が衝突した事による衝撃波と、砕けて拡散したエネルギーの残留が飛び散った。


 だがそれだけで命を落とす者はいない。スパイダー達の肉体の強さと、全身を覆う硬く頑丈な表皮が、その弾丸が身体を貫くのを防ぐ。だが衝撃は身体に十分に伝わっているので、ダメージは0ではない。

 次々と身体に命中する弾丸の嵐に、スパイダー達は少しずつ後退しながら、体制を立て直す。そして皆一斉に鉄鬼部隊に突撃した。足をシャカシャカと動かしながら、自動車並の高速で走っているのだ。


 彼らの銃撃はまだ止んでいない。だが今度は敵に全く当たらなくなった。スパイダー達は前後左右、時にはジャンプしたりして器用に弾丸を避けていく。

 強靱な肉体から繰り出される身体速度と、高い感覚能力を持つ彼らなら、弾道を見切ることはさほど難しくない。避けきれない弾丸を、剣や銃身で弾いている者までいる。


 敵軍は瞬く間に、鉄鬼部隊の至近距離まで到達した。


「抜刀!」


 指揮官の声と共に、鉄鬼達は銃を放り捨てて、腰の刀を次々と抜きはなってスパイダー達に斬りかかった。

 スパイダー達も剣や銃身を振り回しながら、接近戦で応戦する。たちまち畑の上で起こる大乱戦。畑の土は踏み荒らされ、残念ながら今季の収穫は見込めないだろう。


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