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ある魂のある世代のある時期

作者: 雨舞

タイトル読みにくくて申し訳ない

駄作なため、各自詳細を妄……いや、失礼。想像しながらお進み下さると嬉しいです^^

正直、僕はあの頃の事はほとんど覚えていない。

覚えているのは『五月雨』と『教室』……ぐらいだろうか。



***


『〇〇くんに取って上げるね』

×××は軽快に木にするすると登っていった。

×××は背に太陽を背負い、逆光で顔を隠していた。僕は現在になってもこの顔がまったく思い出せない。

風船を見事抱えて再び戻ってきたときには、彼女の額には血が滲み、手は皮がむけピンク色の可愛い肉肌が覗いていたのを覚えている。彼女は必死に隠していたが。一瞬でも、幼くとも、興奮を覚えてしまった僕は『異常』だったんだろうか。

×××、つまり彼女は、鋭利な刃物を心に秘めていた。武器にすらなるモノを。



退屈な日々を過していた。

いずれにこの日が思い出になることを空想しながら僕は、今にも雨が降り出して土砂降りになりそうな五月の曇天を図書室の窓から眺めていた。図書委員である僕は、休み時間になると真っ先に、というか一日中を図書室で過していた。所謂、『保健室登校』ならぬ『図書室登校』だろうか。

なんと言うか僕は、一度も教室に行ったことがない。行きたくない訳ではないのだ。面倒くさいというか、すべてが疲れる。

いちいち気を使う担任にも、無邪気な笑みを無条件で振りまく餓鬼共も僕のストレスの種にしかなり得なかった。何故そんなに笑えるかが分からない。どんな状況でも、僕の魂は無表情だった。そして、そんな自分を疑問を持ったことさえなかった。

彼が現れるまでは。

退屈な日々だった。すべては、生まれたときから始まっていた。

魂が導いたのだ。彼と僕を。



『〇〇くんって私よりも彼がすきなの?』

彼女とは長い付き合いだ。

幼き頃覚えた興奮は、今でもたまに感じることがある。ドジな彼女が、嫉妬を露に厳しく鋭い視線を僕に投げつけるとき。

どうしようもないほどの快感が僕を襲う。

今にして思えば、彼女の生々しい傷跡を見たときにキタものは僕がただ単にソレを羨ましく思っただけなのかもしれない。確かにその後僕は、何かと意味もなく怪我をするようになった。

彼と、彼女は比べようもなかった。

性別なんかではない。魂が、魂の結びつきの意味が違うのだ。

彼と僕は惹かれあう運命。

彼女と僕は、永遠を共にする運命。


その日もまた、空は薄暗いベールに包まれて陽気な光は鳴りを潜め、涙をそっと落としていた。

まるで、その後の僕の運命を嘆くかのように。

――いつまで、僕はこうしていられるのだろう――

将来の不安ではなかった。魂の安息の不安だ。安らかさを求めながら、魂は常に壁を作っていた。曇天に届くほどの壁を。

しかしながら、僕自身はこの不安定な状況を気に入っていた。今更変わりたくなどなかった。

この時期に見られる、妙なプライドが魂の安息を邪魔していたのだ。その頃はそう考えていた。

妙なプライドさえなければ、安息は得られると。

しかし、今になってみるとそうは思わない。相手が存在しなければ、何も始まらないのだ。

魂は対の魂によって、ソレの泰平を得る。

相手がいなかったその頃の僕には、永遠に出来ない話だったのだ。

しかし、遂にその相手が、臨んでもいなかった僕の元に舞い降りた。

そうだとは、思いたくもなかった。彼のような人種は、僕の大の苦手とするものだったからだ。

いきなり、自分のテリトリーに入り込んできた彼。

嫌がる僕を脅し、叱責し、更には泣いた。

無視する僕を引きずり回し、同情し、やはり泣いた。

嗤う僕を見せしめにし、憐憫を誘い、最後には泣いた。

見たくもなかった。思い出したくもなかった。

総てが、教室で行われたことだった。思いいれのある図書室ではなく、教室。

彼は、僕を教室に入れることに成功していたのだ。

彼は、僕を変えた。

彼の魂こそが僕の対のソレだった。

変化は喜びに満ちたものでは勿論なく、苦痛と辛酸をかみ締めたものだった。

彼は、去った。

彼との出会いは、五月雨の中で行われそして、五月雨の中で終わった。

しかし、僕はいつまでも囚われている。

壁に生えた蔓草がいつまでも外れてくれない。


「久しいな。一段と〇〇になったんじゃないのか?」


聞き馴染みのある、深い声。

もう、震えることはないと思っていたのに。




*****




家が、燃えていた。

燃えていたどころじゃない。

爆発していた。誰の家が……?


『僕の家』だ。

何故。

何故。


朽ち果てかける『僕の家』の前には、野次馬に混じって彼がいた。

知っていたのか。僕の場所が。

分かっていたのか、僕の魂を。

彼は僕を貶め、そして僕を救う。

彼と一緒にいないと、僕は駄目になってしまうのか。


何故。


魂……魂なんぞクソ喰らえだ!!!!!!


僕は、爆発した。

彼から逃げ出した。

絶対に追いつけない場所へ。

今の一時(ひととき)だけでも、魂の泰平じゃなく、精神の平穏を僕にくれ……



『〇〇くん。やっと私にも分かった。』

×××は笑顔で、僕に手を差し出していた。

やっと理解してくれたのだ。

僕の全てを。彼と君との違いを。

僕の存在を。

君と僕が違うように、君と彼とは違う。

君はそのままでいい。

いずれ、分かるのだから。





*****


いつまでも僕は子供じゃない。

振り切った。いや、乗り越えた。

僕は、確実に今、踏み出している。未来へと。

平凡な大学に進み、平凡な職に就き、平凡な家庭をもって。僕の人生はこれで、いいんだ。そう、これで。

適度な人間関係を築けてきたと、自分自身で自負していた。

彼と彼女だけが僕の壁に蔓延る。

決して悪い意味ではないんだ。そう、近頃は思えるようになった。

彼と彼女がいたからこそ、今の僕がある。

苦痛も快楽も哀憫も……すべてが僕の魂を構築している。今のままで、いいいんだ。いずれ、時に応じて何かが変わってくるだろう。

僕は、大人になった。そう、自身を持って言えるように。



転換期はすでに終わろうとしていた。

僕の精神の泰平によって魂の泰平までもが良い意味で巻き込まれたのだ。彼と彼女と僕。

対の魂だけでは安定しないことを僕は悟った。3人いなければ、魂の泰平は得られはしないのだ。

再び、退屈な日々がやってきた。

しかし、この泰平をいつか、嫌う日が来る。

そのときは、新たな刺激が待っているだろう。それは、彼に、彼女に、いや僕に。誰に与えられるかは分からない。いずれにしても、転換期はまた来る。

その時は、また辛苦をなめるような思いをするかもしれないが、思い出となる日がくる。

そしてまた、最初の転換期を郷愁を感じながら思い出すのだろう。


僕の初心は常に『五月雨』と『教室』にある。

お目汚し申し訳ありませんでした

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