エピローグ
雲とカモメが気持ちよさそうに飛ぶ、どこまでも突き抜ける青空。
それに対面するように広がる、キラキラ光る海。
空と海の間、つまり海に漂っているのだが、そこに浮かぶのは一隻の船。黒地に青い眼帯が巻かれているドクロマークの海賊旗を掲げている。この旗を掲げる船は、この世に一つだけ。世間にも名が知れ渡っている『Blue sky海賊団』の船だ。
「な~んか、気が抜けるな~」
船の縁に背中を預け、空に向かって声を出しただらけている小太りなおっさん。この船の副船長であり、某有名キャラクターの名前を持つフィーだ。
「フィー、そんな事してると落ちるよ」
フィーの前を通りかかったときに声をかけたのは、細身の美青年。万人を虜にすると思われる微笑みを持つ青年は航海士のランである。
「まぁ、気持ちはわかるけどね~。ここ最近バタバタしてたものね」
船内から、お玉を持って現れたモヒカンにサングラスのカマ男は、コックのこれまた某有名キャラクターの名を持つドナドナだ。
ドナドナが言うように『Blue sky海賊団』は、ある出来事からの数日間、いろいろなことが立て続けに起こったのだ。
「なんだテメェら、ヒヨがいなくなって寂しいのか?」
乱暴な言葉で話に入ってきた少年のような少女、船医のカオルが呆れたように言うと、一緒にいた双子のリュヌとエトワルがグルグル回りながら笑った。
「ヒーヨ、ヒーヨ」
「ヒ~ヨいないの、つ~まんな~い」
表情からはそう思えないが、あえてツッコミはしない。ここで言い返しても、ろくな事にならないからだ。ちなみに、さっきから会話に出てくる『ヒヨ』とは、数日前に海に漂っていたところを拾った女のことで、その女が直接的な原因というわけではないが、海軍に追われたり、面倒な海賊に会ったり、妖精事件があたったりと、いろいろ大変なことが続いたのだ。挙げ句の果てには、記憶喪失と思っていたヒヨは、海軍に捕まったとされていた『crimson海賊団』の船長で、自分の身分を隠すために記憶がないふりをしていたのだった。
今は、仲間が迎えに来てここにはいないのだが、その時に財宝を少し持っていかれるという問題が発生し、『Blue sky』の船長といろいろあったが、なんとか無事に終えることができたのだ。
その出来事があったのが三日前。まだ、ヒヨがいたこと、これまでのことを過去と割り切るには時間が足りないようだ。
「お前たち、こんな所に集まって何を騒いでるんだ?」
現れたのは、がたいの大きな筋肉マンであり、大工のチャオだ。そして、その後ろには野性的な目つきが印象的な『Blue sky海賊団』の船長レドがいた。
「いや~、最近の出来事に比べて、この三日間は平和だな~と思ったらダレちまって」
フィーが苦笑して言うと、レドは空を見上げて、そうだなと小さくぼやいた。
「あ、でもそろそろ街に着くはずだよ。今度の街はサウスタウンほど大きくないけど、妖精に食べられた分や日用品ぐらいなら買えるはず」
ランの言葉に、みんなの目が輝いた。
「良かったわ。お肉無しじゃ、栄養が偏っちゃうもの」
「薬草の補充もしておきてぇな」
「大工道具もあるといいが・・・」
さっそく陸に下りる準備だ、と仕度をしにいく者たち。その様子に、レドはため息をついた。
「レド、大丈夫?疲れてる?」
ランが心配そうに寄ってきた。フィーも傍で話を聞いている。
「いや、大丈夫だ、心配ない。ただ、少し気になることがあってな」
「ヒヨ・・・ソレイユのこと?それとも海軍のこと?」
黙ってしまったレドに、ランとフィーは、両方気になるのだなと予想した。
「まぁ、海軍がどう動いてるかは考えないといけねぇスけど、ヒ・・・ソレイユの事は向こうの問題でしょ。あいつなら大丈夫ですよ」
「・・・そうだな」
「船長方ー!街が見えてきましたよ!」
団員の声につられて前方を見れば、活気がありそうな街が見えてきた。
「さっ、船長。俺たちも準備しましょう」
「あぁ」
三人は、それぞれの部屋へ戻っていった。
*****
「じゃぁ、今回は食料班、薬草班、工具班にわかれる。終わったら各自、船に戻ってくるように」
レドの指示に従い散っていく団員たち。レド、ラン、フィー、双子は、その組には入らずブラブラと街中を歩いていた。
「小さな街のわりには、賑わってるな」
「気候が安定で、食料も豊富なんだろう」
フィーとランが周囲に目を向けながら話していると、前を歩いていたレドが突然止まった。
「「船長?どうしたの?」
隣にいた双子が尋ねる。
「・・・いや、今名前を呼ばれた気がして」
「・・・~ド、・・レ・・、~ド~!」
確かに、微かに『レド』と聞こえる。五人が声の主を探すと、見覚えのある黄色がこちらに大きく手を振っていた。
「レド~!みんなも偶然!ここに来てたんだ」
その人物は、三日前まで同じ船にいて、最後に大胆な逃亡劇を繰り広げた『crimson海賊団』船長、ソレイユ=ホロヘレサだった。久しぶりの再会に、喜び全開といった笑顔で走り寄ってくるサレイユを見て、レドは顔を逸らし、何事もなかったかのように先を急いだ。
「あっ!ちょっと、なんで無視するの!?ちょっと待ってよ、レド!」
もう少しで追いつくというときに逃げられてしまったソレイユは、フィーたちを通り過ぎてレドの後を追った。
それに対し、ソレイユの後ろから付いてきていた長髪黒髪の女、シンと白衣の男、レオはフィーたちの所で立ち止まると、深々と頭を下げた。
「先日は失礼の数々申し訳ありませんでした。本来なら、一番にお礼を申し上げなくてはいけない立場なのですが、あんな形になってしまって・・・本当にすみません」
「今更ですが、うちの船長を助けて頂きありがとうございます。手当てもとても良くして頂いて、ぜひ船医の方とお話をしたいのですが」
レドと言い合っていたとは思えないほどの礼儀正しい女と、爽やかにニコニコ笑っている青年に、フィーたちは言葉を失う。その様子に、怒っていると思ったシンは肩を落として申し訳なさそうにする。
「やはり、今更こんな事を言っても信じられませんよね。でも、あのときは船長が海軍に捕まったことで動揺していて・・・。その上、今度はあの『Blue sky海賊団』といると聞いて、心配で・・・」
「シン。・・・・どうか、若輩者の集まりと、寛大な心で受け止めてはくれませんか?都合の良いこととはわかってますが、あの子は僕たちにとって船長というより妹みたいなものなんです」
レオがシンの肩を抱いて、フィーたちに語りかける。
「あ、いや、もう良いよ。船長がいなくなって動揺するのは当たり前だし、心配で焦る気持ちもわかる。まぁ、財宝の件はあれだけど。でも今じゃ、うちの団員でそれに対して怒ってる奴はいないと思うぜ?」
「「?」」
フィーの言葉に、シンとレオが首を傾げると、ランがにっこり笑って答えた。
「みんな、ヒヨのこと嫌いになれないってことです」
双子も楽しそうに肯いている。それに二人は、安心したような笑みを浮かべ、もう一度感謝の念を送った。
*****
「レ~ド~!いい加減、止まってよ!」
人混みの中を、きれいに避けて鬼ごっこを続けているレドとソレイユ。レドは、ソレイユの言葉を無視し続けている。端から見れば、結構目立っているのだが、どちらも止まる気配はない。
「もぉ~、レ~ド~!レド船長~!?『Blue sky海賊団』の船ちょ」
「おっ前!ちょっと来い!」
まさに電光石火。ソレイユの数メートル先を歩いていたレドが、目にもとまらぬ速さでソレイユの口を塞ぎ、人気の少ないところまで引っ張り込んだ。人がいないことを確認して、レドはソレイユの口を押さえていた手を外す。
「ふぁ~、もう、なんで逃げたの?」
「関わりたくないからに決まってるだろ。つか、お前、あんな人が多いところで海賊の船長がいるなんて知られたらどうなると思ってるんだ!?」
「あはは。だって、レドが止まらないんだもん。大丈夫、ちゃんと聞こえた人なんていないよ」
「はぁ、何でそこまでして追いかけてきたんだよ」
「レドが逃げるから」
「・・・はぁ」
レドは大きくため息をつくと、もういいと言って通りに向かって歩き出した。その後にソレイユも続く。
「ソレイユ、お前こんな所にいていいのか?」
レドは前を向いたまま喋る。ソレイユは、レドが質問してきたことに目を見開くが、その後は嬉しそうに笑った。
「大丈夫。みんな街に下りているからどっかで会うだろうし、船の置き場所も完璧!海軍も、こんな所までわざわざ探しに来ないでしょ」
「・・・『キング海賊団』の船長に気に入られたってのもお前か」
「そんなこともあったなぁ。てか、二人が仲良かったなんて知らなかった」
「仲良くない」
レドの即答に、クスクス笑うソレイユ。なんとも普通な会話に、財宝を盗んだ、盗まれたの関係にあるとは思えない。しかし、二人ともはじめからその話題に触れるつもりはなかったようで、変わらず並んで歩いていく。
「そういえば」
「?」
「名前。ヒヨでいいよ。変えると言いにくいでしょ?それに『ヒヨ』って名前、結構気に入ってるんだ」
「・・・そうか」
「うん、そう」
二人がまた黙々と歩いていくと、海が見えるところに出た。
「レドたちはこれからどこに行くの?」
ヒヨの言うこれからとは、この街を出た後についてだ。
「一応、東のブル」
「やはり、一緒だったか」
突然、後ろから第三者の声が入ってきた。
二人が後ろを振り返ると、そこには数人の部下を従えた海軍少佐のマイセン=ウォールティがいた。
「サウスタウンで見かけたとき、まさかと思ったが・・・お前ら手を組んだのか?」
ウォールティは、腕を組んでニヤニヤしている。
先に口を開いたのはレドだ。
「いや、たまた」
「そう!手を組んだの」
しかし、最後まで言えず、ヒヨに遮られてしまった。
「は?」
「へぇ~、お前に逃げられたときは、どうしてやろうかと思ったが、結果オーライだな。お前らをまとめて捕まえられるんだからな。やっぱりオレはついてるねぇ」
「おい、ちょっとま」
「そんなこと言ってられるのも今のうちだから。返り討ちにしてやる!」
「おい、だから俺の話を」
「レド船長~!今、海軍の奴らが、って!?
「ソレイユ~、海軍がいるみたいだけどって、もう遅かったみたいね」
今度は左右から新たな声が入り込んできた。左には『Blue sky海賊団』の団員たちが、右には『crimson海賊団』の派手な女レェナと少年アルがいた。
「なんで、またウォールティが!?つか、なんでヒヨが!?」
「あら?この前のいい男じゃない!また会えるなんて、運命ね!」
「レェナ!今はそれどころじゃねぇだろ!」
混乱する『Blue sky』に、場違いなことを言う『crimson』。困惑している海軍。
もう、滅茶苦茶だ。
「どうするんだ、これ」
「ククク、いいねいいね。楽しくなってきたぜ」
「相変わらずの享楽主義だね~」
呆れるレド、楽しそうなウォールティ、苦笑するヒヨ。それぞれのトップが、この場の傍観者と化していた。だが、見ることに飽きたのか、ウォールティが動き出した。
「さぁて、オレたちもそろそろ楽しもうぜ」
そう言って、剣を抜いたウォールティを見て、周囲の空気が変わる。
「だから、俺はお前に構ってるほど暇じゃないって言ってるだろ」
レドも剣を抜く。
「そう言うなよ。何度もやり合った仲じゃねぇかよっ!」
素早く一歩踏みだし、レドとの距離をつめようとしたウォールティ。それを開始の合図として、周りが動き出す、はずだった。
ドス、ドス!
「!?」
横から気配を感じ、踏みだそうとした足を戻したウォールティの足下には、数本のナイフが突き刺さっていた。あのまま踏み出していれば、間違いなくウォールティの足に刺さっていただろう。
「チッ」
舌打ちが聞こえた方を見れば、笑顔のヒヨがナイフを構えて立っていた。ナイフが飛んできたのも同じ方向である。
「『crimson』の船長も、相変わらずえげつねぇな」
ウォールティは、一瞬眉を寄せて不快そうにしたが、すぐに余裕の笑みを浮かべた。
「先手必勝!だって、あたしはあんたたちと違って、か弱い女の子だもん」
「ハッ!か弱い女の子なんてどこにいるんだ~?今見えるのは、自分の都合しか考えてねぇ生意気なサルだけだがなぁ」
「わぁー、こんな可愛い女の子が目に入らないなんて、病院行った方がいいよ~。あ、もしかして女の子に興味ないの?あっちの趣味?うっそ~!海賊からも恐れられているマイセン=ウォールティが!?レド~、逃げて~、こいつ絶対レドのこと狙ってるよー」
「テメェ、殺すぞ!変な言いがかりつけんじゃねぇ!オレは、厳重な監視下に置いていたにも関わらず、そいつらを伸して手錠が付いたまま海に飛び込んで逃げ切ったお前を女とは認めねぇって言ってんだよ!」
(((確かに)))
海軍、海賊、関係なく意見が一致したようだ。まぁ、危険な生き物も多い海を、手が使えない状態であんな所まで泳いだヒヨを、一般人は化け物と呼ぶだろう。決して、か弱いとは表現しない。
「まぁ、いいや!生憎だけど、また捕まるつもりないし、何がなんでも逃げさせてもらうよ」
ヒヨは、ニヤリと笑うとポケットから小さな玉を取り出した。そして、それを大きく振りかぶる。
「みんな!目をつぶって、息止めて!」
そう言って、玉を思いっ切り地面に叩きつけた。
みんなが一斉に目を瞑り、息を止めて次に起こるであろう何かに備える。
が、いつまで経っても何かが起こった雰囲気はない。徐々にみんなが目を開けだす。目の前には、やはり先程と変わらない光景のままだった。
「な、なんだったんだ?・・・っ!?」
海軍の一人が訝しんでいると、突然後ろから衝撃が襲った。
「なんだ!?うわっ!」
「ぐはっ」
「う゛っ」
「おい!大丈夫、ぐあっ!」
次々と海軍だけが倒れていく光景に、海賊たちは呆然としていた。
だが、それは『Blue sky』の方だけで、『crimson』側は周囲を見回しながら『Blue sky』のメンバーに声をかけて回っている。
「今のうちに逃げるよ!レド、指示出して!」
「チッ、おい!テメェら、行くぞ!」
ヒヨとレドの声で、団員たちは散り散りに走り出した。
「クソッ!トルエノとオンセかっ!」
ウォールティが忌々し気に呟いたとき、海軍に攻撃を与えていた二つの影が止まった。
そこにいたのは、『crimson海賊団』の船医、レオンドロ=トルエノと剣士のディエス=オンセだった。
「ホロセレサにまんまとやられたぜ。オレたちの隙を作って、素早さに突出しているお前たちを送り込んでくるとわなぁ」
「うちの大切な船長を、そう何度も捕まえさせるわけにはいきませんからね。こっちもいろいろ考えてますよ」
レオがにっこりと爽やかな笑みをたたえて返す。
「ふん、それで考えた末に『Blue sky』との合併か」
「「え?」」
「ま、まぁ、そんなところ!」
ウォールティの言葉に首を傾げたレオとディエスの間に、団員たちへの指示を手伝っていたヒヨが慌てて割り込んできた。
「どう?ウォールティ。あたしの華麗なる作戦勝ちね」
「クク、おいおい。まさかオレがアレくらいのことで負けると思ってんのか?」
「なに?」
ヒヨ、レオ、ディエスが警戒したとき、周囲から発砲音と地面に衝撃がきた。
「お前たち相手にあれだけの隊員なわけねぇだろ。周りに忍ばせてたんだよ。あと、海にもな」
「「「!!」」」
ウォールティは、してやったりといった顔だ。ヒヨが唇を噛みしめたとき、また発砲音が聞こえた。しかし、今度はヒヨたちに向けられたものではないようだ。
海軍たちがいる所がざわつきだす。
そして、ヒヨたちの前に現れたのは、『Blue sky海賊団』船長レドと両手に銃を持った双子のリュヌとエトワルだった。
「レド!リュヌ、エトワル!なんでここに?」
「バカか。俺が助けられたまま逃げるわけにはいかないだろう」
「「久しぶりに遊ぼうと思って!」」
「おい、ヒヨ!早く来い!」
もう一人、フィーが少し離れたところから手招きして呼んでいる。
ヒヨは、隣にいる二人に肯き、二人も肯き返したのを確認して、三人は走り出した。
「おい!逃がすなよ、捕まえろ!」
ウォールティの指示で、一斉に走り出す隊員たち。海賊組も、必死で船へと向かう。
港に出たとき、『Blue sky』の船と『crimson』の船は、軍艦を撒こうとしているところだった。
「このままじゃ乗れないスよ!どうします?」
「・・・船をこっちに近づけさせろ。飛び移るぞ」
「こ、ここからスか!?」
「「フィーは重いから不安だよね~」」
「乗れなかったら死ぬと思え」
「そ、そんな~」
「大丈夫。フィーは、やればできるよ!」
「ヒヨ・・・。クソッ!やってやるよ!」
フィーが意気込むのを見て微笑んだヒヨは、そのまま後ろから付いてくるレオとディエスを振り返った。
「あたしたちも同じようにする。レオ、シンに連絡して」
「わかった」
船内に連絡がいったのか、『Blue sky』の船と『crimson』の船が少し陸に近づいてきて、上から縄が垂らされた。
「テメェら、先に行け」
レドとヒヨは、団員たちを先に行かせ、自分たちは海軍に対峙する形になった。
「本当、ウォールティってしつこいよね。そんなにレドが好きなんだ?」
ヒヨがナイフを取り出し、ニヤニヤしながら言う。
「お前、いい加減にしろよ。誰が男なんか好きになるか。オレは、ナイスバディなイケイケの女が好みなんだよ」
ウォールティは、剣を突きだしヒヨたちに向ける。
「お前、ベタな好みしてるな。純情な大人しめの女もいいだろうが」
腕を組んだレドが話に入ってくる。
「そっちこそベタだろ。つーか、海で暴れる海賊がそんな趣味だったとは思わなかったぜ。そんな目つきしてて、女がつかまるのか?」
「大きなお世話だ。テメェだって、んな性格で女が付いてくるとは思えねぇがな」
「二人とも、どっちもどっちだよ。はぁー、あたしが一番まともってことか」
「「お前が一番ありえねぇ」」
「なんで?あたしほど、出来た女いないよ?」
「お前は、悪の部分しか出来てないだろ。つか、悪しかないだろ」
「そもそも、お前を女と認めねぇ」
レドとウォールティに言われ、ブーブー文句を言うヒヨ。その光景を呆然と見ていた隊員たちだったが、一人の勇気ある隊員がウォールティに話しかけた。
「あ、あの、ウォールティ少佐」
それに、ハッとするトップ三人組。どうやら、この三人は敵ながら息は合うようだ。
「クソッ、お前らが揃うと調子が狂うぜ」
「俺だって、こいつには困ってんだ」
「あ゛ぁ?」
ウォールティが眉を寄せて聞き返したとき、レドとヒヨはヒラリと背を向け、互いの船に走っていく。
ウォールティが追いかけようとしたときには、二人はもう縄をよじ登っているところだった。
「「じゃぁ(な)!」」
レドはニヤリと笑い、ヒヨはニコニコ手を振りながら船を上っていく。
「チッ、お前ら!合併したからって安心してんじゃねぇぞ!精々、残りの旅を楽しむんだな!おい、船で後を追うぞ!」
「しょ、少佐、あれ!」
海軍が船で後を追おうとしたとき、『Blue sky』の船、『crimson』の船と海軍との間に大きな渦が出来ていた。
「チッ、こんなときに渦潮かよ!」
「少佐!このまま進むと渦潮に巻き込まれてしまいます!」
「仕方ねぇ、船を後退させろ!一時引き上げだ!」
ウォールティは、遠くに行ってしまった二隻の船の方を見た。
「クク、まぁいい。精々、俺を楽しませてくれよ、お二人さん」
そして、海軍は街から引き上げていった。
*****
「はぁ、なんとか撒けたみたいスね」
「運良く渦潮が出来てくれて良かったわね」
フィーとドナドナの言葉で、今まで強ばっていた団員たちはホッと胸をなで下ろした。
「本当、いいタイミングだったよね。日頃の行いが良いからかな」
聞き覚えのある、しかし此処にいるはずのない声に振り返れば、そこにはやはりヒヨがいた。
「おめぇ、何で此処に!?自分の船に乗ったんじゃ?」
フィーが、ヒヨの船の方を見れば、『crimson』のメンバーが船からこちらを見ていた。
「実は、レドに話があって」
「・・・・」
レドは、ゆっくりとヒヨの前まで行くと相手の顔をジッと見た。ヒヨも、レドと目を合わせる。何かを探り合うような、ただ見ているだけのような、不思議な空気が漂う中、ヒヨが口を開く。
「『Blue sky』と『crimson』、手を組まない?」
その言葉に、『Blue sky』の団員たちはざわつきだした。
「何故、そんなことを」
「さっきの事からも、海軍はあたしたちが仲間になったと思ってる。ってことは、さらに軍を連れて追ってくる。一緒にいた方が、何かと便利だとおもうけどな~」
「っ!」
「『Blue sky海賊団』が強いからって云っても、できるなら海軍との抗争は避けたいんじゃない?」
「お前、謀ったな」
「さぁ?どうでしょう」
レドの睨みなど、何でもないという風に笑っているヒヨ。
レドは、ため息をつくと、団員たちを見た。みんなの表情を見て、また一つため息をつく。
「チッ、わかった。だが、暫く監視させてもらうからな」
「了解」
そのやりとりを聞き、団員たちはワァーと声をあげ、『crimson海賊団』を歓迎した。ヒヨを助けたときや、ヒヨが出ていったときの反応からも、この海賊団は他人への認識が甘いようだ。名高い海賊団とは思えないほどに。
それとも、ヒヨたち『crimson』に何か感じるものがあったのだろうか。
何はともあれ、『Blue sky海賊団』と『crimson海賊団』の同盟がこうして出来上がったのである。
「じゃぁ、これからよろしく!」
「あぁ」
- この広い海で、彼らが出会ったことの奇跡。そして、それが何を意味するのか。
意味はないかもしれない。たまたま、偶然の結果かもしれない。
しかし、これからこの二つの海賊団が歩む道は、奇跡でも偶然でもない。
彼らが精一杯生き、自らの力で築き上げてきた確かに存在した跡なのだ。
彼らがどんな道を作り、どうなったのかは、また別の話 -。
*END*
ここまでお付き合い頂きありがとうございました!
船長に「ヒヨ」と呼ばせたいがためだけに始めた話でしたが、少しでも楽しんでいただけたらと思います。
またどこかでこいつらに会ったときは、再び温かい目でお付き合いくださると嬉しいです^^