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静まりかえった薄暗い船室。人影が見当たらないにも関わらず、ガサガサという音が時々聞こえてくる。音の方に向かって近づくと、赤く光る玉が二つ・・・。
*****
海軍に追われ、面倒な海賊に会い、と災難が続いていた『Blue sky海賊団』。
本日も、雲一つ無い晴天の下をゆらゆら進んできた。
「レド船長!寝てるの?」
「・・・ヒヨ、お前な。勝手にこんな所まで上がってくるな」
この船の船長、レドがいたこんな所とは、この船で二番目に高い見張り台だった。と、いってもここの他にも見張り台は二カ所あるため、ここは専ら船長の昼寝場所と化している。
「心配してくれてるの?大丈夫だよ。あたし、高い所得意みたいだから」
ヒヨは楽しそうに笑って見張り台の中まで入ってきた。
レドは寝ていた状態 -足をのばして上体を起こして壁にもたれている- まま動かない。
決して広くはないが、二人ならまだ余裕があるし、勝手にやって来た奴のために体を動かすのは何か嫌だという考えらしい。
ヒヨも気にせず、レドの足をまたいで反対側へ行く。
「わぁ、いい眺め」
ヒヨは手すりから少し身を乗り出した。その瞳は、キラキラしていて、普段より幼く見える。
「行動はいつも幼稚だが」
「?何か言った?」
「いや」
レドは、何でもないと首をふった。
ヒヨは多少気になったが、追求することはせずまた景色を眺めはじめる。その時間は、長いように感じたが、実際は数分経ったかどうかだろう。
お互い沈黙が苦ではないようで、無理に話そうとはしない。このまま喋らずに時間が経つだけかと思ったが、普段喋る方のヒヨが言葉を発した。
「ここは居心地がいいね。みんな面白いし、優しいし、実力もあるみたいだから安心だし、なにより・・・レド船長がいる」
「なんだそれは」
レドは眉を寄せ怪訝な顔をした。
ヒヨは振り返って、レドに笑いかける。
「船長がレドで良かったってこと。みんな、ちゃんとレドのこと慕ってる」
「それは、初代船長の子供だし、ガキの頃からいるからみんな気がおけなくて楽なんだろ」
「それも、レド船長の人柄のおかげだよ。威圧感があって、人によっては恐いと感じるかもしれないけど、優しくて、傍にいると安心できて・・・あたしも、レド船長好きだなぁ」
「お前、さっきからどうしたん」
「お~い!船長ー、ヒヨー!ちょっと下りてきてくださぁーい!」
レドの言葉を遮って、フィーが下から二人を呼んだ。
「わかった~、今行く~!レド船長、先に下りるね」
「あ、あぁ」
ヒヨはスルスルと危なげもなく下りていく。高い所が得意というのは本当のようだ。体が身軽なのだろう。
さっきのヒヨに対して、思うところはあったがまた後でいいか、と一端思考を端に追いやり、レドもヒヨの後を追って下りていく。
「船長、船内で少し問題が」
「どうした?」
「キッチンと食料庫が荒らされてたのよ~」
近寄ってきたドナドナが説明しだす。
「食料に被害が?」
「えぇ、全てではないから、今すぐ餓死するってわけじゃないけど、勝手に食料荒らされちゃたまらないわ!」
「団員たちに聞いても知らないって」
「そりゃぁ、そうだろ。誰が好き好んでドナドナのテリトリーを荒らすかよ。何されるかわかったもんじゃねぇ」
船内から出てきたカオルが、ニヤニヤしながら言った。
その後ろから、ランとチャオも出てくる。
「あら、人を何だと思ってるのかしら。食べ物は大切にしなさいって教えてるだけでしょ~」
「その教え方が恐いんだってぇの」
ドナドナとカオルが言い合っている横を通り過ぎて、チャオとランがレドの前まで来た。
「荒らされていた所を調べてみたが、肉が欠片も残ってなかった。あとは、食料を散らかされていたぐらいで、変わったところはない」
「肉だけなの~?」
「肉が好きなんだね~」
チャオの後ろから、双子のリュヌとエトワルがタックルするように出てきた。
「肉だけって言っても、結構な量なんだ。全部食べたのかな?」
「あ、あの!」
一人の団員が、幹部たちの前に出てきた。その顔は青ざめ、カタカタと震えている。
「どした?」
フィーが団員のそばまで寄っていく。
「あの・・・お、俺見たんです。昨日、キッチンで、ば、化け物が食料を食い散らかしてるのを!」
「「「・・・はぁ?」」」
一人の団員の言葉で、船内が一つになった瞬間だった。
*****
『Blue sky海賊団』は、団員全員がグループに分かれて交代で船内の見回りを行っている。
団員である青年も見回り、引継を終え、部屋に戻ろうとした。しかし、何か黒い物が床をはって、キッチンに入っていくのを見た団員は、それの後を追って中をそっと覗き込んだ。
そこで見た物は、周りの物を放り投げ、肉をハイエナのようにむさぼり食い、歯をギラつかせている黒い物体だった。
カオルと同じくらいの背丈に、フィーぐらいの太さでシュコー、シュコーと咽を鳴らしている。
団員は、あまりのおぞましさに目がそらせなくなった。
その視線に気付いたのか、黒い物体が勢いよく振り返った。その目は赤く、メデューサのように睨まれれば石にされてしまいそうな禍々しさがみられる。
団員は、恐怖を感じ慌てて逃げようとしたが、足がもつれてそのまま床に頭をぶつけて気絶してしまったのだ。起きたときには自分の部屋の中だったため、夢だったのかと思っていたらしい。
「けど、キッチンが荒らされたと聞いて、夢じゃなかったと」
「は、はい」
フィーたちは団員の話を聞いて、その黒い物体について考えだした。
「普通に考えたら何かの動物っぽいけど、街で潜り込んだのかな?」
「でも、そんな大きいの今までよく見つからなかったね」
ヒヨの言葉に、確かになぁ、とまた頭を悩ます団員たち。
「何にせよ、早く捕まえた方がいい。人間に被害が出たら大変だ」
「そうだな。テメェら今すぐ探せ!危険な生物かもしれないから慎重にな」
レドの指示で、団員たちはそれぞれ動き出す。
「・・・普段見つからない、大きくて赤目の生物。肉・・・」
「?。カオル、どうかした?」
「いや、どっかで聞いたことがあったような・・・」
「「カオルー、ヒヨー、行くよ~」」
「あ、うん!」
「あたしゃ、ちょっと調べもんしてくるよ。どうも気になるんでね」
カオルは、ヒヨたちと別れて自室に戻っていった。
「僕たちは物置部屋に行こー」
「見に行こー」
ヒヨと双子は、物置部屋へと走っていく。
*****
結局、半日探し続けたがそれらしい物も、手掛かりも見つけることができなかった。
カオル以外の幹部たちと、また付いてきた双子、ヒヨはいったん船長室に集まり、他の団員たちは通常の仕事に戻ることになった。
「だぁ~!一体どこにいるんだよ!」
フィーが頭を抱えて叫ぶ。
「もうどこかに逃げたのかな?」
「逃げたって」
「海に?」
「どんな生物なのかもわかんねぇんじゃ、どうしようもないな」
「今、カオルが調べてるみたいだけど?」
みんなが口々に喋るなか、チャオは一人レドの指示を仰いだ。
「どうするんだ?」
それに対して、レドは肩を落として投げやりな雰囲気を出す。
「どうするも何も、手掛かりすらないんじゃな。今晩、出てきそうな所をはって待つしかないだろ。もし、三日経っても現れないようなら、この件についてはもうふれない」
「わかった。他の奴らにも伝えてくる」
チャオは、騒いでいる幹部たちをおいて部屋から出ていった。
「おい、お前たちも仕事に戻れ」
幹部たちはグチグチ言っていたが、あっさり仕事に戻っていった。部屋に残ったのは、部屋の主であるレドと特に仕事がないフィー、ラン、ヒヨの四人だ。
「今晩、現れるといいんスけどね」
「あ、罠でも張っとく?」
「お、それいいじゃねぇか!」
フィーとヒヨは、名案だとでもいうように喜々として部屋から出ていこうとしたが、慌てたレドに止められる。
「おい!張るなら場所考えろよ。他の団員が引っ掛かって大騒ぎするのは、もう勘弁だからな」
どうやら昔そんなことがあったらしい。
「あはは、あれは海賊として情けない反応だったよね」
ランにとってもあまり良くない思い出のようだ。
「はい」
「何々?昔、何があったの?教えて!」
はしゃぐ二人を部屋から見送ったレドとランは、これから起こるであろう面倒事にため息をつくのだった。
*****
時が経ち、夜中。
黒い物体を捕まえようと意気込む団員だち。幹部たちもそれぞれの場所で、団員からの報告を待っている。
「今晩は現れますかね?」
フィーが時間を確認しながらレドに尋ねた。今は丁度、昨日団員が黒い物体を見た時間帯だ。
「どうだろうな。でも、昨日大量に肉を食ったんだろう?今日は腹一杯なんじゃないか?」
「そうスか」
「わぁぁぁぁぁぁ!!」
フィーの言葉を遮り、青年の悲鳴が船内に響いた。
レドとフィーは素早く部屋から出ると悲鳴が聞こえた方へ走る。どうやら悲鳴の発言地は被害のあった食料庫のようだ。
「どうした!?」
二人が到着すると、数人の団員とカオル、ヒヨがいて、その中心に腕から血を流している青年団員がいた。
「船長。やられた。黒い物体が現れて、捕まえようとしたら腕を噛まれたらしい」
「大丈夫なのか?」
「はい、噛まれた怪我は大したことありません」
「噛まれた怪我は?」
「実は、噛まれたのに驚いてよろけたところにねずみ取りDXバージョンがあって・・・、さっきの悲鳴もそれに驚いたものでして」
青年団員は、照れくさそうにしながら、ねずみ取りDXと呼ばれた物を指さす。
そこには、トゲトゲの針が備え付けられたねずみ取りが置いてあった。あんな物に挟まれたら悲鳴ぐらい簡単にあがるだろう。
「挟まれた足は、暫く痛むだろうから無理すんじゃねぇぞ。つか、なんでこんな物がここにあんだ?」
カオルの疑問に、レドが視線で答える。視線の先には、気まずそうにしているフィーとヒヨがいた。
「それより船長。あの黒い物体、ちょっと変ですよ」
「変?」
「他の奴が言ってたように、結構デカかったんですけど、噛まれた傷が小さいんですよ」
確かに、体が大きければ口も大きいだろう。しかし、団員についている噛み跡は小さく、どちらかというと可愛いものだ。出血のわりに傷が浅いのは見ればわかる。
「それに・・・触れなかったんです」
「触れなかった?」
フィーの言葉に、肯き青ざめた顔で言う。
「手は体に届いていたんです。でも、すり抜けるというか、感触がなかったというか」
「それって・・・まさか・・・幽霊?」
団員たちが悲鳴を上げそうになったが、カオルが先手を打った。
「幽霊なら噛まれても怪我しねぇだろ」
「あ、そうだな」
熱が冷める団員たち。
「でも、触れなかったって・・・何なんだろね?」
ヒヨの言葉に、また頭を悩ますことになった。しかし、それは青年団員の声によって、遮られることになった。
「あ!あそこ!いました!」
団員が言う方を見れば、話に聞いていたのより一回り大きくなった、黒い生物のようなものがこちらを見ていた。
レドたちが捕まえようと駆け出す前に、ヒヨのナイフが黒い生物の足めがけて飛ぶ。
「・・・お前、いきなりナイフはないだろ」
「ヒヨがこんなに好戦的な奴だとは思わなかった」
レドが呆れるように、カオルが意外そうに言う。
「だって、あの方が捕まえるの早いし、本当に触れないのか確かめたかったし」
それに対して、ヒヨは悪びれもなく答えた。
そして、団員の言ったとおり、ナイフは黒い生物を通り抜けて床に落ちていた。
「一体どうなってるんだよ!」
「・・・もしかして、幻覚か?」
フィーの疑問に、カオルが冷静に答えの可能性を導き出す。それに、レドが問い返す。
「幻覚?」
「あぁ、体がすり抜けるのといい、体が大きくなってるのといい、昼間に見つからないのといい、あの黒いのは幻覚かもしれねぇ。けど、噛みついてきたってことは、本体はちゃんとあん中にいる。ただ、その体は随分ちいせぇみてぇだがな」
「ってことは、これでアレ全体を捕まえれば本体も一緒に捕まるってことだよね!」
ヒヨは、喜々として黒い物体に一歩近づいた。その手には、棒がついた大きな網。いわいる虫取り網だ。サイズ的に虫用ではなさそうだが。
「お前、そんな物どこから」
レドの質問には答えず、ヒヨはジリジリと黒い物体に近づいていく。
「さぁ、大人しくしてなさいよ~」
その顔は、どちらが悪役はわからないほどだ。
黒い物体の顔が強ばっている。そして、一歩後ろに下がると、体の向きを変えて一目散に走り出した。
「あっ、逃げた!こらー、待て~!」
ヒヨも急いで後を追う。
その様子を見ていた団員たちは呆然としていたが、すぐに意識を戻し、二人(?)の後を追った。
「あいつ、何であんなに楽しそう・・・つーか、嬉しそうだったんスかね?」
「さぁな」
「あたしの見間違いじゃなけりゃ、ヒヨの目が金に見えたが?」
「・・・・あいつ、アレ売る気か!?つか、売れんのか!?」
「まぁ、珍しい生き物を集めてるコレクターとかいるからな。それに、あたしの予想が正しけりゃ、ありゃぁ結構なレアものだぜ」
「お前、アレの正体わかったのか!?」
「あぁ。おそらく・・・」
カオルは言葉を続ける前に、曲がり角からランと双子とドナドナ、他数人の団員が出てきた。どうやら騒ぎを聞きつけて来たようだ。
「レド!どうなってるんだ?」
「あの黒い物体は幻覚で、中に小さい本体がいるようだ。今ヒヨが後を追ってる」
「ヒヨが?」
「あいつ、アレを売るつもりみたいだぞ」
フィーが呆れた顔で補足説明をする。
「「わぁ~、ヒヨやっるぅ~」
「とにかく、チャオたちにも連絡して、挟みうちにするぞ」
「「「「「「了解!」」」」」」
*****
どうしてこんな事に!そりゃぁ、勝手に食料を食べたのは悪いと思ったけど、代わりにお魚置いていこうと思って戻ってきたら人間に見つかるし、そのうえ捕まえようとしてくるんだもん。吃驚して噛んじゃうわよ!で、心配で戻ってみたらなんか増えてるし、恐いのが追っかけてくるし!何なのよ、あの子!そういえば、昨日の子は大丈夫だったかしら。頭打ってたみたいだし、一応冷やしてそれっぽい部屋に入れといたけど・・・。それにしても、ここは人間が多いわね。仲間のことを思い出すわ。みんな、どこに行ったのかしら。こんな所に私一人、どうすればいいの?
って、それより、誰か助けてー!!
*****
「ん~、なかなか速いわね、あの黒いの。これは応援を呼んだ方がいいかな?あ、チャオ!」
ヒヨが黒い物体を追っていると、先の曲がり角からチャオが出てきた。丁度、挟みうちになるかたちだ。
「チャオ!それ捕まえて!」
黒い物体が突っ込んで来ることに驚いていたチャオだが、ヒヨの言葉に意識を戻し、言われた通り捕まえようと構えた。あと少しで手が届くというところで、いきなり黒い物体が消えた。いや、幻覚が消えて本体 -手のひらに収まるくらいの、人間の姿をした女の子だった。しかし、背中から光り輝く羽が生えている- が現れたのだ。
いきなり、サイズも見た目も変わったものに、チャオは反応しきれず、その隙をついて女の子はスイっと避けた。だが、避けた先に先回りしていたレドたちがいたため、先に進むことができず、反射的に後ろに下がってしまった。その瞬間、頭上から白い物が被さってきて地面に落とされてしまう。
追いついたヒヨが、とうとう網で捕まえたのだ。
「ふぅ~、なんとか捕獲成功」
ヒヨが、網の上部分を握って女の子が逃げられないようにして持ち上げる。女の子は中で暴れているようで、網がぼこぼこ突き出ている。
「おい、今のって」
フィーが網を指さす。その手は震えている。
「やっぱり。あいつは、妖精だ」
「「「妖精ぃ~!!?」」」
カオルの言葉に、団員たちの声が重なった。
*****
「こいつぁ、ライトデスっつぅ種類の妖精で、昼間は力が出なくてほとんど姿が見えねぇんだが、夜になると力が増して姿を現す。だが、力がもれちまってあんな幻覚が現れるんだ。普段は仲間と行動してるはずなんだが・・・こいつぁ、はぐれちまったみてぇだな」
「へぇ~、そんなのがいるんだな」
「妖精なんて初めて見たよ」
フィーとランが物珍しそうに、網から顔だけ出している女の子 -妖精- を見る。カオルの話を聞いていた団員たちも興味津々のようだ。
「ちょっと!あんまりジロジロ見ないでよ!あと、苦しいから離して!もう逃げないから」
「・・・妖精、しかも特異な能力持ち。レア。ふふふ」
「は、早く助けて!!」
妖精を掴んだまま怪しい笑いをしだしたヒヨに、危機を感じた妖精が必死でフィーたちに助けを求めた。
さすがに不憫に感じた団員たちが、ヒヨの説得を試みる。
*****
「私はミィっていいます。勝手に食料を荒らしてごめんなさい。さっき、その人が言ってたように、仲間とはぐれちゃって・・・。気付いたらこの船に迷い込んでたの。ご飯もずっと食べていなかったし、おなかすいちゃって・・・」
妖精 -ミィ- は、申し訳なさそうな、照れたような顔で謝った。
「どうして、お肉だけ食べたの~?そもそも、あの量を一人で全部食べたの?」
この船の食料管理を任されている、コックのドナドナが首を傾げて言った。
「私、お肉って食べたことがなかったから、調理してあるものを食べて、それがすっごく美味しくて、ハマっちゃって、自分でも調理してみようとしたんだけど・・・」
「失敗したんだね」
ランが苦笑して言うと、ミィは縮こまり小さな声で謝る。
「じゃぁ、失敗したやつはどうしたの?」
「ゴミ箱には無かったよ?」
双子の問いに、顔を少しあげたミィは小さな声のまま言う。
「あの・・・海に・・・」
「まぁ!なんてもったいないことを!」
ミィの答えを聞いたドナドナの顔は、青ざめて今にも倒れそうだ。
そんなドナドナの様子に、ミィはさらに縮こまって謝る。
見かねたランがミィのフォローに回った。
「まぁ、まぁ、やってしまったものは仕方ないよ。それより、この子どうする?」
「売ればいい、んぐっ」
「そ、そうだな~。レド船長、どうします?」
ヒヨの物騒な言葉をぎりぎり塞いだフィーは、レドに話を向けた。
海賊であるレドたちは、決して正義の味方でも良い奴らでもない。
人としてはいい奴かもしれないが、盗みをして、ときには人を傷つける。他の過激な海賊と違って、人を殺めたり無駄に傷つけたり、非道な事はしていないが、レドたちの本質を知らない市民たちにとっては名が知られているぶん、極悪非道の海賊という噂がたっているため、恐怖の対象でしかない。だが、人を殺さない、あまり非道なことはしないというルールだけはずっと守ってきているのだ。
「・・・お前はどうしたいんだ?」
そんな船の船長であるレドが、食料を荒らした罪でミィを殺めたり、ましてやヒヨの提案にのって売るはずもなく、さっきから小さな体をさらに小さくしているミィ、本人に尋ねた。
その事に驚いたミィだが、ゆっくり考え、言葉を発する。
「私は・・・仲間を捜しにいきたい。ここにいれば、食べ物もあって安全そうだけど、私は仲間のところに帰りたい」
「そうか」
そう言ったレドは、ドナドナとランに何か言うと、二人が肯き、どこかへ行くのを見届けず、次はカオルに何か尋ねているようだ。二人が話している間にランが戻ってきた。そん手には、数枚の紙を持っていて、それをレドとカオルの前に広げ、三人でなにやら話し始めた。周りの団員たちは、状況が飲み込めず首をひねっている。
フィー、チャオ、双子、ヒヨは察しているのか、黙って成り行きを見守っている。
丁度三人の話が終わったときに、ドナドナが小さな包みを持って戻ってきた。その包みと先程の紙を持って、レドがミィに近づくと、それを渡した。
ミィが困惑していると、レドが話し始める。
「それは弁当と地図だ。おそらくお前の仲間は、俺たちが立ち寄ったサウスタウンにいるだろう。街までの地図と街の中の地図を渡すから、それを見て捜せ」
「ライトデスの生態的に、街にいるとおもうんだけどな。お前なら昼になっても、姿が保てないだけで海に落ちるわけじゃねぇし、何とかいけるだろ」
「おいしぃ~お弁当作ったから途中で食べなさい。海に落っことしたら許さないからね!」
レド、カオル、ドナドナ、そして他の団員たちの温かい眼差しに、ミィは涙目になる。
「みなさん、ありがとうございます!」
そして、短い騒ぎを起こしたミィは、『Blue sky海賊団』から飛び立っていった。
*****
「はぁ~、これで一件落着っスね」
「『化け物は妖精だった事件』ってとこかな?」
「長くないか?それ」
「「じゃぁ、『妖精事件』!」
「それじゃぁ、別の妖精が来たときどうするのよ」
「『その2』とか『パート2』とかつける?」
「そう何度も妖精なんかにゃ、会わねぇから大丈夫だろ」
「そもそも事件名なんか付けなくていいだろ」
フィー、ラン、チャオ、双子、ドナドナ、ヒヨ、カオル、レドの順でグタグタと喋りながら部屋へ戻る九人。夜中にも関わらず、元気な足取りの双子、ヒヨ、ドナドナに対し、疲労と眠気でフラフラのフィー、あとの者たちは多少の疲労と眠気はあるが比較的に普通の足取りだ。
疲れが残っては困るということで、明日の仕事は遅めに始めることにしたため、今からでも十分睡眠はとれるのだが、普通は寝ている時間に予定外に起きていて、しかも精神的な圧迫と、走り回るという運動で、フィーのようにフラフラの団員が結構いるようだった。
「まったく。平和ボケしてんじゃねぇか?一回、鍛え直した方がいいんじゃねぇか?」
カオルがレドに提案した。それに対して、レドは苦笑だけ返して部屋に戻っていった。
「・・・あれは、眠気に負けたな」
ため息をついて、カオルも部屋に戻った。
*****
夜空に星が散りばめられて、宝石のように輝いている。夜中なため、騒ぐものもおらず、聞こえるのは微かな波の音だけ。揺れる船の上に、空を見上げる一人の人物が立っていた。熱心に空を見上げているが、星を眺めているわけではなく、目をキョロキョロさせて何かを探しているようだ。
その時、星空の中を白い物体が飛んできた。それは鳥だった。小さな鞄のような物をかけている。それを見つけた船上の人物 -背恰好から女のようだ- がスッと手を伸ばすと、鳥は躊躇うことなくそこにおりる。そして、鞄の中身を取るように女に促す。
女は、鞄の中から白い小さな紙を取り出して広げた。それは手紙のようで、女は素早く文字をおうと、それを丸めて海に投げ捨てた。
そして、ポケットから紙とペンを取りだし、ザッと何か書くとそれを折り畳み、鳥の鞄に入れる。
「頼んだよ」
小さく呟くように言うと、鳥をまた夜空へと飛ばした。
鳥は迷うことなく、真っ直ぐと飛んでいく。それを見届けて、女は船内へ入っていった。
「もう、潮時か」
そう、一言残して・・・・。
*To be continued*