おお勇者よ、死んでしまうとは情けない
2月11日 改行漏れを訂正
「おお勇者よ、死んでしまうとは情けない」
霧がかかったようにボンヤリとした頭をふる。
ああ、目が覚めた。
ここはどこと疑問を挟むまでも無く、目の前には王様が座っている。
お決まりの台詞を繰り返す王様を片目に手を懐へと伸ばした。
懐に忍ばせていた革袋、これを覗くとやはり所持金が半分ほど減っている。
どうやらオレは死んでしまったらしい。
王様が垂れ流す説教を聞き流し、自分の技能低下に溜め息を漏らした。
あーあ、せっかくボスの近くだったはずなのに。
行くのも手間ならレベル上げも手間、正直ウンザリだ。
……そう言えば、なんで死んだんだっけ?
勇者、それは魔王を倒すための切り札である。
勇者はけっして居なくならない。
技能低下や残金低下、何らかのペナルティーを受けたても彼は存在し続ける。
神の御技をふるう僧侶が倒れようとも。
勇者と共に剣を取る戦士の屍を越え。
友を代え、味方を代えて、ただ魔王を討伐する。
世界に造られた永久機関の名、それが勇者。
魔王は唯一にして無二の力で全てを圧倒するが、それを勇者は無数にして無限の再起動によって打倒する。
そんな悲しい存在なのだ。
さて、そんな悲しい存在にも一つ疑問がある。
死んでしまったはずの勇者、彼はどうして生き返る事が出来るのか?
それも何らかのペナルティーを受けて再度生誕する。
そう、何故かペナルティーがかせられるのだ。
神の御技ならば何の代償も無く生き返るべきであろう。
欠けた技能、半減する所持金、これらは一体何を示しているのだろうか。
その答えは『必ず王様の前に戻る』、これがヒントだ。
「大臣、勇者は出発したな?」
「先程、正面門を抜けたのを確認いたしました」
「やれやれ、まさか王城地下の勇者工場を見られるとはな……」
「しかも、動揺していたとは言え記憶消去で簡単に不覚をとるとは。正直幻滅いたしました」
「そう言ってやるな大臣よ、仮にも勇者様なのだからな」
RPGに必ずある、兵士が邪魔して『これより先に進めない』お部屋。
あそこに勇者でも入れない理由、解りましたか?
勇者はクローン(コンティニュー)が有る限り死にません。
勇者は記憶移植が有る限り負けません。
見方を変えるとファンタジーなはずなのにSFチックに感じませんか?