第27話 招待
次は、舞台を変える。
その一言で、すべての意味が変わった。
王都の通りは、何事もなかったかのように動き出している。
さっきまで止まっていた流れも、すでに戻っている。
人は忘れる。
流れは再生する。
だが――
構造は変わっている。
見えない部分で。
確実に。
僕は馬車の中で目を開ける。
身体の奥に、わずかな疲労が残っている。
断片を何度もなぞったせいだ。
だが――問題ない。
むしろ、今ははっきりしている。
次に行く場所が。
「戻るぞ」
父の声が落ちる。
短く。
だが、いつもと違う。
迷いがない。
確信がある。
それは、さっきの勝利の結果だ。
評価が変わった。
僕の。
完全に。
馬車が動き出す。
宿へ向かう。
だが、その途中。
違和感がある。
視線だ。
昨日までとは違う。
数が減っている。
だが――
質が変わっている。
選ばれている。
見ている者が。
僕はゆっくりと視線を動かす。
通り。
人。
そして――
一人の男。
立っている。
目立たない位置。
だが、確実にこちらを見ている。
そして――
動かない。
あの男ではない。
だが、同じ系統だ。
“読む側”。
僕は視線を合わせる。
一瞬。
男がわずかに頷く。
そのまま、動く。
近づく。
逃げない。
隠さない。
そして――
馬車の横で止まる。
「失礼」
低い声。
落ち着いている。
敵意はない。
だが――
警戒は必要だ。
父が視線を向ける。
「何だ」
短い問い。
男が一礼する。
「ご子息に、お話が」
来た。
完全に。
対象が僕に移った。
僕は静かに息を吐く。
いい。
想定通りだ。
さっきの戦いで、“見られた”。
だから来る。
こうして。
「ここでか」
父が問う。
「いえ」
男が首を振る。
「場所を改めて」
当然だ。
ここではない。
“舞台”を用意している。
つまり――
次の戦場だ。
僕はゆっくりと身体を揺らす。
肯定でも否定でもない。
ただ、“考えている”動き。
父がそれを読む。
「……条件は」
父が言う。
慎重だ。
いい。
そのままでいい。
男が答える。
「安全は保証します」
嘘ではない。
だが、真実でもない。
保証するのは、“その場だけ”だ。
その後は別だ。
「時間は」
「本日中に」
早い。
だが、遅くはない。
適切だ。
準備が間に合う範囲。
つまり――
相手も急いでいる。
僕は視線を動かす。
男の手。
服。
靴。
すべて整っている。
だが――
ほんのわずかに乱れがある。
急いでいる証拠だ。
つまり――
こちらの動きが、想定より速かった。
いい。
主導権はまだこちらにある。
僕はゆっくりと父を見る。
そして――
わずかに目を閉じる。
決定だ。
行く。
父がそれを読む。
「分かった」
短い返答。
だが、重い。
男がもう一度一礼する。
「場所は、後ほど」
そのまま、去る。
迷いがない。
完全に“役目だけ”を果たす動き。
いい。
無駄がない。
だが――
だからこそ、危険だ。
僕は静かに息を吐く。
これで決まった。
次の舞台が。
宿に戻る。
空気が変わる。
緊張が一段上がる。
「行くのか」
父が言う。
確認だ。
僕は答えない。
ただ、視線を返す。
それで十分だ。
「……そうか」
納得する。
完全に。
「なら、準備する」
来た。
戦いの形が変わる。
受ける戦いではない。
選んで行く戦いだ。
その時。
頭の奥で、断片が弾けた。
今度は――
広い空間。
人がいる。
だが、少ない。
選ばれている。
そして――
中央に、あの男。
さらにその奥に――
別の存在。
見えない。
だが、分かる。
“上”だ。
ここまでとは違う。
段階が一つ上がる。
そこで映像が切れる。
理解した。
これは――
選別だ。
僕が。
試される。
この段階に進めるかどうか。
僕は目を開ける。
いい。
望むところだ。
ここまで来た。
なら――
行くしかない。
その先へ。
僕は静かに息を吐いた。
次は――
上の層だ。
ついに「招待」が来ました。
ここからはこれまでの延長ではなく、
一段階上の世界に踏み込むことになります。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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次は――“選ばれた場”での対話です。




