第22話 見えない味方
次は、こちらの番だ。
そう決めた直後、状況はすでに動き始めていた。
夜。
王都の宿は静かだ。
外の喧騒が嘘のように、音がない。
だが――それは“安全”ではない。
むしろ逆だ。
静かな場所ほど、侵入は容易になる。
僕は目を閉じている。
眠っているように見せている。
だが、意識ははっきりしている。
断片はすでに見ている。
扉が開く。
足音。
近づく影。
なら――
それを前提に組む。
僕はわずかに呼吸を変える。
眠りが浅いように。
だが、起きてはいないように。
“隙”を作る。
その数分後。
音がした。
ごく小さい。
だが、確実に。
扉が、開いた。
軋みはない。
技術がある。
やはり、ただの刺客ではない。
影が滑り込む。
気配が薄い。
殺意も抑えている。
だが――
見えている。
断片と一致する。
僕は動かない。
そのまま、待つ。
近づく。
距離が詰まる。
手が伸びる。
そこで――
「そこまでだ」
低い声が落ちた。
一瞬で空気が変わる。
影が止まる。
その直後。
別の影が現れる。
速い。
正確だ。
侵入者の腕を押さえ、床に叩きつける。
鈍い音。
短い抵抗。
そして――
終わる。
完全に。
僕はゆっくりと目を開けた。
想定通りだ。
侵入も。
捕縛も。
すべて。
「……やはり来たか」
父が言う。
暗闇の中で、はっきりと。
その背後に、護衛がいる。
配置は完璧だ。
囮も機能した。
今回は――
こちらの勝ちだ。
侵入者が押さえつけられている。
顔が見える。
昼間の御者とは違う。
だが、同じ匂いがする。
組織の人間だ。
「……よく分かったな」
父がこちらを見る。
低い声。
だが、明確な評価だ。
僕は答えない。
ただ、視線を返す。
それで十分だ。
言葉はいらない。
父は理解している。
すでに。
「吐かせる」
短い命令。
護衛が動く。
侵入者を引き起こす。
だが――
その時。
侵入者が笑った。
静かに。
そして――
自分の口元へ、わずかに動く。
嫌な予感が走る。
僕は強く身体を揺らした。
「止めろ!」
父が叫ぶ。
だが――
遅い。
口の中で、何かが砕ける音。
次の瞬間、侵入者の身体が崩れる。
力が抜ける。
完全に。
終わった。
情報は、取れない。
自決。
最初から、そのつもりだった。
僕は目を細める。
やはりだ。
このレベルの敵は、“捕まる前提”で動いている。
だから――
捕まえても意味がない。
「……徹底しているな」
父が低く言う。
怒りではない。
分析だ。
いい。
冷静だ。
そのまま行ける。
だが――
問題は残る。
情報がない。
つまり、次が読めない。
その時。
外から、ノックの音がした。
三回。
一定のリズム。
護衛が構える。
父が視線で制する。
「開けろ」
短い命令。
扉が開く。
そこにいたのは――
一人の男だった。
見覚えがある。
だが、すぐには思い出せない。
服は地味だ。
目立たない。
だが――
目が違う。
まっすぐだ。
そして、迷いがない。
「……遅れました」
男が言う。
低い声。
落ち着いている。
その瞬間。
繋がった。
断片と。
過去と。
僕は目を見開く。
思い出した。
屋敷で見た顔。
あの時の――
下男。
だが、雰囲気が違う。
まるで別人だ。
「……お前は」
父が言う。
記憶を辿るように。
男が一礼する。
「命令通り、追跡しておりました」
来た。
繋がった。
消えていた伏線が。
完全に。
男――いや、下男は顔を上げる。
「内部の人間、複数確認しました」
言葉が落ちる。
重く。
だが、はっきりと。
情報だ。
初めての、“こちら側の情報”。
僕は静かに息を吐く。
来た。
味方だ。
使える。
そして――
育てられる。
ここから、変わる。
戦い方が。
その瞬間。
頭の奥で、断片が弾けた。
今度は――
この男。
少し先。
立っている。
その隣に――
僕がいる。
大きくなった姿で。
理解した。
こいつは、“残る”。
長く。
深く。
なら――
ここで繋ぐ。
完全に。
僕は、ゆっくりと視線を合わせた。
下男と。
逃げない。
ただ、それだけ。
だが――
それで十分だ。
下男の目が、わずかに揺れた。
一瞬。
だが、確実に。
通じた。
関係が生まれる。
ここからだ。
僕は静かに目を閉じた。
戦いは、変わる。
受けるだけではない。
“組む”。
その段階に入った。
次は――
こちらから崩す。
ここでようやく「味方」が機能し始めました。
これまでの防御中心の戦いから、
ここからは“情報と連携”の戦いに変わっていきます。
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次は――王都の内部構造を崩すための“最初の一手”です。




