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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

追放された荷物持ちの俺、収納スキル内の実家に帰宅する。〜凍える勇者にカレーの匂いをブチ撒けたら、なぜか奴らが聖人化した~

作者: 羽哉えいり
掲載日:2026/02/11

「おい、ユイト。お前はもうクビだ。このパーティから今すぐ出て行け!」


 標高四、〇〇〇メートル。

 吸う空気の半分が氷の粒という、魔雪山の山頂付近。

 勇者アリオスは、凍えそうな寒空の下で高らかに宣言した。


「え、クビ……? 今、ここでですか?」

「そうだ! 理由は明確だ。お前はただの『荷物持ち』だが、俺たちが命がけで魔物と戦っている間お前は何をしていた? 後ろでスマホとかいう魔法の板をいじって見てるだけじゃないか!」


 アリオスが鼻水を垂らしながら怒鳴る。

 ちなみに彼がクビにした本当の理由は、仲間の聖女がユイトの持っている「高級あぶらとり紙」を愛用し始め、自分よりユイトを頼りにし始めたという小物すぎる嫉妬からなのだが、本人は「戦力外通告」という体裁を取り繕っていた。


「戦う力のない無能を養う余裕はないんだ。荷物を置いてさっさと麓まで転がり落ちろ!」

「……なるほど。まあ、アリオスさんの加齢臭が漂ってきて困ってたんで、丁度いいかもしれません」

「あ!? 加齢臭だと!? 貴様、死にたいのか!」


 アリオスが剣を抜こうとしたその時。

 ユイト――一ノ瀬結人は、面倒くさそうに空中の何もない空間を指先で摘まんだ。


 ――ベリリィィィィィッ!

 

 空間がまるで古くなった壁紙を剥がすような音を立てて引き裂かれる。

 その裂け目から漏れ出したのは、暴力的なまでの『文明の光』と、鼻をくすぐるキンモクセイの芳香剤の香り。


「なっ……、なんだ!? 異空間収納か!? だが、中の荷物を置いていけと言ったはずだぞ!」

「あー、これ荷物じゃないんですよ。じゃ、お疲れ様でしたー」


 ユイトは極寒の装備を脱ぎ捨てると、裂け目の中へと一歩踏み出した。

 そこには雪山の白銀の世界とはあまりに不釣り合いな、『実家の玄関(タイル張り)』が鎮座していた。


「待て……、待て待て待て! なんだその『玄関』は! スキルの中に家が入っているのか!?」

「いえ、家の中にスキルが入ってるっていうか、これ、俺のマイホームなんですよ。一応築五年で二重サッシ完備です」


 ぬるり、とユイトが玄関マットの上に乗り、三和土たたきで靴を揃える。

 裂け目からは、設定温度28度のエアコンの温風が、凍え死にそうな勇者一行の顔を皮肉なほど優しく撫でた。


「おい、ふざけるな! お前のアイテムボックスに預けた食料とテントはどうなる!」

「あ、あれですか。あれは俺の家の『パントリー』と『物置』に収納したんで、俺の所有物ってことで。あ、ドア閉めますね。ちなみにオートロックなんでー」


 ――バタンッ!

 ――カチャッ(施錠音)


 何もない雪山の空間に突如として出現した「玄関ドア」が閉まる。

 次の瞬間、ドア自体がシュルシュルと縮まり、空中の一点に収束して消滅した。

 後に残されたのは、マイナス三十度の極寒と、あまりのシュールさにツッコミを入れるタイミングを完全に失った鼻水だらけの勇者一行だけだった。


「…………帰ったのか? あいつ……、ここから、家の中に……?」


 アリオスの震える声が空虚に響いた。


 空間の裂け目が閉じると同時に、俺の耳に届いていた「ヒュオォォォ」という殺意に満ちた吹雪の音は完全に遮断された。

 代わりに聞こえてくるのは空気清浄機の静かな稼働音と、冷蔵庫が氷を作るコトッという心地よい音だ。


「あー、やっぱり家が一番だな」


 俺の固有スキル『無限収納(四次元マイホーム)』。

 世間一般のアイテムボックス使いは「鞄の中」に荷物を入れるが、俺の収納空間はそんな狭苦しいものじゃない。俺が「ここ、俺の家」と認識した土地と建物ごと異次元に放り込み、魔力でライフラインを維持するバグみたいなスキルだ。

 本来は国家機密級の生存戦略スキルなのだが、俺はこれを「極上の引きこもり生活」のためだけに使っている。


「さてと、床暖房もスイッチオン」


 壁のパネルをピッピと操作する。

 数分もすれば無垢材のフローリングがポカポカと熱を持ち始めた。俺はリビングに鎮座する特大のコタツに潜り込み、リモコンを手にする。


「追放された記念だし、撮り溜めてた『全日本・異世界お笑いグランプリ』でも見るか。……あ、その前にあいつらの様子、一応チェックしとかないと」


 俺はタブレット端末を取り出し、『玄関モニター』のアプリを起動する。

 このスキル、家の外壁に設置した防犯カメラの映像を、元の世界(雪山)に残した不可視の観測ポイントから受信できるのだ。


「おっ、やってるやってる」


 画面の中ではアリオスたちが腰まで雪に埋まりながら、必死に俺が消えた空間を剣で叩いていた。


『開けろ! ユイト、出てこい! 卑怯だぞ、自分だけ暖房の効いた部屋に逃げるなんて!』

『アリオス様、鼻水が凍って氷柱になってますわ……!』

『うるさい! 食料だ! 奴を捕まえて、俺たちの肉を奪い返すんだ!』


 画面越しの勇者はもはや勇者というより「玄関先で暴れる酔っ払い」にしか見えない。


「『自分だけ逃げるなんて卑怯だ』って……。クビにしたの、そっちなんですけどねぇ」


 俺はリビングの戸棚から、勇者たちが「非常食」として大事に溜め込んでいた最高級の干し肉を取り出した。

 普通ならそのまま齧る硬い肉だが、我が家には文明の利器がある。

 俺はキッチンに立ち、魔力式ガスコンロに火をつけた。

 フライパンでバターを溶かし、干し肉を贅沢にソテーする。さらに、赤ワインと醤油を垂らして香ばしいソースを作る。


「……よし、いい匂いだ。これを『外』に届けてあげよう」


 俺は換気扇のスイッチを『急速・強』にセットした。

 この換気扇ダクトは、スキルの出口(雪山)と直結している。


「あ、そうだ。ついでに煽り(ファンサービス)も入れとこうかな」


 俺はインターホンのマイクを握り、外に向けてスピーカー出力を最大にした。


『あー、アリオスさーん。聞こえますかー? そちら、雪の状況はどうですかー? こっちは今、床暖房が利きすぎてて、ちょっとアイス食べないとやってられない感じなんですけど』


 画面の中のアリオスがガバッと顔を上げた。

 吹雪の虚空から響く俺の声に、彼の顔が怒りと困惑で真っ赤――いや、寒さで真っ青に染まっていく。


『ユイトォォォ! 貴様、どこにいる! 出てこい!』

『無理ですよ、今「お笑い番組」のいいところなんで。若手売れっ子で「元祖異世界召喚芸人」の彼女たちのネタはいつ見ても面白くてー。あ、これ、お裾分けです。匂いだけですがどうぞー!』


 俺は換気扇の排気口を、アリオスたちのちょうど「鼻先」に出現するように微調整した。


 ――ゴォォォォォォォッ!!


 猛烈な勢いで雪山に不似合いな「焦がしバターと肉の香ばしい匂い」がブチ撒けられた。


『なっ……!? なんだ、この……、暴力的なまでに美味そうな匂いは……!?』

『干し肉……!? ユイト、貴様、俺たちの備蓄を勝手に調理してやがるな!』

『お、お腹が……。三日ぶりの温かい匂いに、胃袋が……っ!』


 聖女様までが換気扇から出る熱風と匂いに吸い寄せられ、虚空に鼻を押し付けている。


『おっ、食いつきいいですね。でも残念! ウチ、セキュリティ厳しいんで、指紋認証とマイナンバーカードがないと入れないんですよ。じゃあ、俺はコタツで高級アイス食べるんで。凍死しない程度に頑張ってくださーい。あ、野宿のコツは「気合」らしいですよ。アリオスさんが言ってましたもんね?』


 俺は一方的に通信を切ると、テレビのボリュームを上げた。

 画面の向こうで、アリオスが雪を掴んで叫んでいる姿を見ながら食べるアイスは、控えめに言って「飛ぶ」ほど美味かった。


「さて、メインディッシュの準備をするとするか」

 

 外の勇者パーティは今ごろようやく自分たちの置かれた絶望的な状況に気づいたらしい。玄関モニターの集音マイクが、ガタガタと震える彼らの声を拾い上げる。


『お、おいアリオス! よく考えたら雪山用のテントも予備の魔力ポーションも全部ユイトのマイホームの中じゃないか!』

『……ッ! あ、当たり前だ! あいつは「荷物持ち」なんだからな!』

『当たり前じゃありませんわ! このままだと私たち、空腹のままマイナス三十度で一晩過ごすことになりますわよ!』

 

 聖女様がアリオスの胸ぐらをつかんで前後に揺さぶっている。いいぞ、もっとやれ。

 そんな惨状を横目に俺は冷蔵庫から最高級の霜降り肉と完熟トマト、そして秘蔵のスパイスセットを取り出した。

 本日のメニューは、一ノ瀬家特製「ニンニク二十倍・極厚ステーキカレー」だ。


「よし、換気扇の角度、再調整」


 俺は空中に浮かせた操作パネルで、空間の裂け目の位置をミリ単位で操作した。

 雪山のど真ん中、ちょうどアリオスたちが寒さを凌ごうと身を寄せ合っている岩陰。その頭上三メートルの地点に――。


 ――ニュリッ。


 銀色に輝く最新式の『深型レンジフード』が虚空から生えてきた。


「出力最大。排気モード、オン」


 ――ゴォォォォォォォォォ!!


 静寂の雪山に、シュシュシュと飴色玉ねぎを炒める音が鳴り響く。

 続いて大量のニンニクが熱せられ、胃袋を直接握りつぶすような凶悪な香りが換気扇から高圧ジェットとなってアリオスたちの顔面に直撃した。


『ぐああああああッ!? なんだ、この匂いは!? 鼻が、鼻がバカになるッ!』

『カレー……、カレーですわ! しかもこれ、隠し味に赤ワインと高級チョコレートを使っていますわね!?』

『お、おい……。俺の持ってるこの「乾パンの欠片」、この排気ガスに当てながら食うと、カレーの味がするぞ!』


 勇者アリオスともあろう者が換気扇から出る排熱に顔を押し当て、虚空に向かって口をパクパクさせている。その姿はまるでエサを待つ池の鯉だ。


『ユイト! ユイトォォォ! 頼む、そのルーを……、ルーを一口でいい、そのへんの雪にかけて投げてくれ! 一万……、いや、十万ゴールド払うから!』

『あー、すみませーん。うち、デリバリーやってないんですよ。営業エリア外なんで』


 俺はインターホン越しに、カレーを皿に盛り付ける「カチャカチャ」という小気味いい音を聞かせてやった。


『あ、ちなみに今ちょうど追いスパイスして、さらに香りが強くなりました。外の皆さん、換気扇のフィルターに脂が付くと困るんで、あまり顔を近づけないでくださいね。ベタベタの勇者とか、不潔で職質されますよ?』

『誰のせいだと思ってるんだぁぁぁぁ!』


 アリオスが雪を叩いて悔しがる。

 俺はホカホカの湯気が立つカレー皿を抱え、リビングのソファへ。

 大型テレビの中では、ちょうど「そんなわけないやろ!」と芸人がツッコミを入れている。


「いや本当、そんなわけねーよな。雪山に換気扇なんて」


 俺は一口カレーを運んだ。

 スパイスの刺激と肉の旨みが口いっぱいに広がる。

 

 外では、あまりの空腹と寒さに耐えかねた戦士が

「もうダメだ、あの換気扇の中に指を突っ込んででも中に入ってやる……!」と、正気を失い始めていた。


 俺が二皿目のカレーを平らげ、食後のコーヒーを優雅にドリップしていた時。

 リビングの壁に設置された『ホームセキュリティ』の警告灯が真っ赤に点滅し始めた。


『ピーッ! ピーッ! 不審者が玄関ポーチ周辺で暴れています。ピーッ!』

「おっと、ついに壊れたか」


 俺はコーヒーカップを片手に、スマートフォンの監視アプリを開く。

 画面の中では空腹と寒さで瞳孔が開ききったアリオスが、空間の裂け目――わずかに開いたままの『換気口』の隙間に指をかけ、引きちぎらんばかりの勢いでこじ開けようとしていた。


『ぐ、ぬ、ぬぬぬ……っ! 開けろぉユイトォ! 勇者権限で命ずる、その「家」を明け渡せッ! 俺たちは客だぞ、おもてなししろぉ!』

『そうですわよ! レディをこんな場所に放置するなんて、万死に値しますわ!』


 指先を真っ赤に腫らしながら、執念で空間の隙間を数センチ広げるアリオス。その隙間から凍てつくブリザードがリビングに一筋流れ込んできた。


「あーあ、せっかくの暖房が逃げるじゃないですか」


 俺はインターホンの通話ボタンを、コーヒーを飲むついでに親指で押す。


『もしもし、不審者の方ですか? あ、すいませーん。今、ちょうど風呂上がりで全裸なんですよー。全裸の男の家に土足で踏み込もうなんて、アリオスさん、そっちの趣味があったんですか? 勘弁してくださいよ』

『知るか変態! いいから入れろ! 死ぬ! マジで鼻の感覚がないんだ!』

『いやぁ、ウチ「女人禁制」の結界も張ってるんで、聖女さんも無理ですね。あ、今「レディを放置するな」って聞こえましたけど、ウチの基準だとレディ(淑女)じゃなくて「不法侵入予備軍」に分類されてるんで。警報、鳴り止まないんですよ』

『黙れぇぇぇ! 力ずくでも入ってやる! うおおおおおッ!』


 アリオスが火事場の馬鹿力で、空間の裂け目に無理やり右足を突っ込んだ。

 その瞬間。


『警告。不法侵入者を確認。強制排除シーケンスを開始します』


 家の防犯システムが、無慈悲な電子音を鳴らした。

 次の瞬間、アリオスがこじ開けた空間の隙間から、巨大な石造りのゴーレム・アームがヌルリと、しかし超高速で突き出された。

 それは俺がスキルで雇っている、二十四時間無休の「異次元警備員」だ。


『え? あ、がっ……!?』


 警備員の腕はアリオスの顔面を「ガシッ!」と鷲掴みにすると、まるでゴミ箱にティッシュを捨てるような軽やかさで、彼を雪原の彼方へと放り投げた。


『アリオス様ぁぁぁぁぁ!?』


 さらに警備員の手は止まらない。

 残された聖女と戦士の襟首をそれぞれ摘み上げると、まるで不燃ゴミの日を間違えた住人を追い出すかのような手際で、二人まとめてアリオスの上へとパイルドライバー気味に投げ捨てた。


『……っ、ふぅ。お疲れ、警備員さん』


 警備員の腕は、最後に親指をグッと立てる「サムズアップ」のポーズを雪山に見せつけると、空間の隙間をパタンと閉じて、内側から厳重に鍵をかけた。

 モニター越しに見ると、雪原には人間が三体、綺

麗な「人」の字になって埋まっている。


『…………ユ……イ……ト…………、許さ…………』


 雪の中からアリオスの呪詛が聞こえてきた気がしたが、俺はそっとテレビの音量を上げた。


「あー、やっぱりプロが淹れたコーヒーは美味いなー」


 外はマイナス三十度の地獄。

 内は二十八度のパラダイス。

 

 この圧倒的な格差を噛み締めながら、俺はソファに深く沈み込んだ。


 


 ――翌朝。

 遮光カーテンの隙間から差し込む心地よい太陽の光で、俺は目を覚ました。

 

 ふかふかの羽毛布団から這い出し、自動掃除機が健気に走り回るリビングを抜けて、まずはバルコニーへ。


「あー、よく寝た。……さて、そろそろゴミの日かな」


 俺はパジャマの上に軽い羽織りものを一枚。

 昨晩のカレーの空き缶や、おつまみの袋が入った指定のゴミ袋を手に、空間のジッパーをベリリッと開けて外に出た。


「おはようございまーす」


 そこには、昨晩の猛吹雪が嘘のように晴れ渡った青空と、そして――カチコチに凍りついた「勇者という名のオブジェ」があった。


 雪の中から顔だけ出しているアリオスは、顔色が悪すぎて、もはやブルーハワイのカキ氷みたいな色になっている。

 聖女様にいたっては、あまりの寒さに白目を剥きながら「暖かい……、お花畑が見えますわ……」と、完全にあの世のインターホンを鳴らし始めていた。


「うわぁ、ひどい顔。あ、アリオスさん。昨日の『荷物持ちはいらん』ってやつ、取り消します?」

「……と、取り消す……。だから……、助け……」

「お断りします。俺、一度クビになった会社には二度と戻らない主義なんで。あ、これ、ゴミ置いときますね」


 俺はアリオスが必死に伸ばした手の先に、ずっしりと重い「生ゴミの袋」を優しく置いてやった。


「最後に一つ、いいこと教えてあげますよ。『理不尽に首を切るやつは、自分が首を絞められる準備もしておくべきだ』……なんてね。」


 俺は一歩下がってマイホームの空間を指先でつまむ。

 

「『四次元マイホーム・全畳み』」

 

 ――パチンッ!


「じゃ、俺はこれから南の島のビーチに『引っ越し』なんで。皆さんはそのゴミと一緒に回収されるのを待っててください」


 消失する「家」。残されたのは、絶望に震える勇者一行と、一袋の生ゴミ。

 だが、その生ゴミの袋が、彼らの運命をわずかに変えた。


「……あ、アリオス様……。これ、見てください……」


 聖女が震える手でゴミ袋を指差す。

 そこには、俺が食べ残したカレーのスパイスの殻や、野菜の皮、そして余っていた『使い捨てカイロ』と『栄養ドリンクの瓶』が入っていた。


「こ、これは……、温かい……! それにこの飲み物、魔力がみなぎるぞ!」


 勇者たちは俺にとってはただの「ゴミ」である現代文明の残滓を奪い合うようにして抱きしめ、その熱で九死に一生を得た。

 ゴミに命を救われる勇者。なんとも情けないが、彼らにはそれがお似合いだ。




 ――数ヶ月後。

 俺はエメラルドグリーンの海が広がる、常夏の無人島にいた。

 

 タブレットで「異世界ギルド掲示板」をチェックすると、あるパーティの噂がスレッドを賑わせている。 


 【朗報】元勇者アリオス、便利屋『ゴミ拾い隊』として再起。


 雪山で「ゴミ」に命を救われたアリオスは、あの日以来何かに目覚めたらしい。「どんな些細な荷物にも価値がある」と涙ながらに演説し、今では街の清掃や新人の荷物持ちの育成に励んでいるという。

 

 かつての傲慢さは消え、腰の低すぎるおっさんとして第二の人生を歩んでいる。

 ……まあ、たまに俺の家の換気扇から漏れるカレーの匂いを思い出して、虚空に向かって土下座しているらしいが。


「ふぅ……。自業自得だけど、まあ、あいつらなりに『荷物の重み』を知ったならいいんじゃないかな」

 

 俺はキンキンに冷えたコーラを飲み干した。

 

 追放されて困ること?

 ……まあ、強いて言えば、最近始めた異世界ネット通販『アマ・ゾーン』の配達員が、俺が頻繁に引っ越すもんだから「お届け先が見当たりません」って半泣きでカスタマーセンターに電話してくることくらいかな。


「おっ、ちょうどピンポン鳴った。……あ、お疲れ様でーす。判子、ここでいいですか?」


 俺は南の島の空中に浮かぶ玄関ドアを開け、今日も優雅に荷物を受け取った。



(完)

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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評価やブックマーク、誤字脱字報告も嬉しいです。


ダクト飯を思い出し、勢いだけで書きました。


若手売れっ子で「元祖異世界召喚芸人」の彼女たち――わかる方はニヤつきどうぞ。詳しくは『喚ばれた二度目もチートステータス』やゲスト出演している短編小説をご覧くださいませ。

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