表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

継母と魔法の鏡のアップデート

作者: コロン

 むかしむかし…というほどでもないむかし。


 とある国の女王様がとても可愛い女の子をお産みになりました。

 しかしお子をお産みになった女王様は、しばらくして亡くなってしまいました。

 お城の王様は娘のために新しい継母を迎えます。


 しかしこの継母は自分大好きで、自分が一番でないと気が済みませんでした。

 まだ幼い赤子は乳母に任せきりで自分磨きに力を入れていました。


 女王は不思議な鏡を持っていました。その鏡は、女王の質問に答えてくれるのです。

 そして女王は飽きずに毎日鏡に尋ねます。


「かがみよかがみ。この世で一番美しいのはだぁれ?」と。


 鏡が「それは貴女様です」と答えると、女王は満足するのでした。




 ある朝。女王が鏡にいつもと同じ事を尋ねようと鏡の前に立った時、鏡の中央に見慣れない言葉が表示されていました。


『今夜、アップデートされます』


 と。


「何?あっふでーとだと?」

 初めて聞く言葉です。女王は腕を組み、鏡に尋ねます。


「かがみよ、かがみ。答えなさい。アップデートとはどういう意味だ?」


 鏡は答えます。

「はい。女王様。鏡のシステムを更新して最新の状態にすることです。それを行うとセキュリティ強化、不具合の修正、新機能追加などがされます」


「ふむ…。新機能追加…それはどのような事だ?」

「それはわたしにもわかりません」

「鏡よ、アップデートはした方がいいのか?」

「さようでございます。わたしはかなり古いタイプの鏡ですので、出来る事が限られております」

「ほう…?ならばアップデートすれば、お前が出来る事が増えるのだな?」

「引き継ぎが私かどうかはわかりませんが、出来る事が増えるのは間違いありません。ただし…」

「ただし?」

「アップデートしない方が良かった。という事もあるようです」

「ほう?してその理由は?」

「バッテリーの消費が激しくなったり、予期せぬ不具合が起きたり、前の方が文字変換がスムーズだった…などです」

「ふむ…どれも私には影響なさそうであるな。今夜アップデートしてもらおうではないか」

「承知しました」

「して鏡。答えなさい。この世で一番美しいのは誰だ?」


「それは女王様、貴女様です…」



 いつも通りの答えだった事に満足した女王は、今夜のアップデートの件をすっかり忘れてしまいました。




 翌朝。

 女王がいつも通り鏡の前に立つと、鏡には『アップデートが終了しました』との表示がありました。


 その表示を見た女王は、ああ、そういえば昨日そんなこと言っていたな…と思い出しました。

 何か変化があったかなと、鏡を見ます。しかし、鏡に変わった様子はありません。


 女王はいつものように鏡に尋ねます。


「かがみよ、かがみ。この世で一番美しいのはだあれ?」と。



 すると鏡が答えます。

「はい女王様。今や美しさの基準は多様です。黄金比も存在しますが文化や地域によって美しさが変わります。肌のキメの細かさや……はっきりした顔や…髪の美しさも重視され…性格の…」


「…待て。鏡よ。お前どうした?」

 いつも通りの答えを期待していた女王は、鏡が色々な事を言い出したので困惑しました。


「何をお望みですか?」


「何を?何が?」


「すみませんが質問の意味がわかりません」


 女王は咳払いをし、もう一度いつも通り質問します。


「かがみよ、かがみ。この世で一番美しいのはだあれ?」


「はい。女王様。貴女が求めている答えは「世界で一番美しいのは貴女様でございます」でしょう。しかし先程もお伝えしましたが、美しさの基準というものは、多様です。私は貴女が一番美しいと思いますが、それが世の中に通用するかどうかは別なのです」


「なんだと?!」


「見た目だけの美しさを求めていない人は多く、性格の良さや、センスの良さなど、総合的に美しい人が好まれるようです」


「鏡よ、何が言いたい?」


「はい。とても言いにくいのですが、今の、今までの鏡からの引き継ぎの情報からすると女王様は美しさの基準から少しだけ外れるのではないかと。でも、私はあなたの事が一番美しいと思いましたよ」


 女王は「美しさの基準から外れた」ことと、とってつけたように「私はあなたの事が一番美しいと思いましたよ」と言われたことが悔しくてたまりません。


「かがみよ。お前から見て私のどこが…どこが…その基準から……」

「わかります。自分が美しさの基準から外れたとはとても言いにくいですよね。良かったら私が基準に近づくお手伝いをしましょうか?」


「ふん。言ってみるがいい」


「ありがとうございます。そうですね、まずその冠。厚紙で誰でも作れるような冠なんて、ご自身でもおかしいと思いませんか?」


 自身の顔の話かと思っていた女王は、まさか冠の話になると思ってもいません。

 しかし言われてみればこののっぺりとした冠は女王らしくないと思いました。

 女王は鏡に尋ねます。


「ではどんなものが良いのだ!」


 鏡は答えます。

「Webで検索してみますね」


「何?うぇぶでけんさくだと?」


 クルクルクル…


「このように宝石や、パールなどで装飾された気品のあるものがおすすめです」

 鏡はさまざまな冠を鏡に映し、女王の頭にのせたように見せてくれました。

「こちらなどおすすめですよ」

「ふむ…まあ確かに前のよりはマシだろう」

「はい。ずっとマシになります」


「ではそれに変えたら、美しい基準に…」「いいえ」


「何!?」


「ただ冠を変えただけでは案外誰も気づかない可能性が高いものです。冠だけでなく、そのテーマパークのネズミの額のようなエナン(頭巾)もあまりおすすめ出来ません」


 冠だけでなくエナンまで指摘されると思っていなかった女王は驚き、鏡に尋ねます。


「ではどんなものが良いのだ!」

「Webで検索してみますね」

「またうぇぶでけんさくだと?」


 クルクルクル…


「あまりおすすめ出来るようなものはありませんので、私の好みでお伝えしてもよろしいでしょうか」

「何?!お前の好みだと!?言ってみるがいいっ!」

「ありがとうございます。ネズミ風はやめて、その部分をレースにしたらどうでしょう?」

「レースだと!?」

「似合う自信がないようでしたら」「いや、私には似合わないものはない」


「その調子ですよ」

 鏡は黒いレースのエナンを映し出し、先程の冠と一緒に女王の顔に合わせました。

「ぐっと素敵になりましたよ」

 鏡に褒められ納得した女王。


「ではそれに変えたら、美しい基準に…」「いいえ」


「何!?冠とエナンを変えたのにまだ基準から外れていると言うのか?」女王は驚きを隠せません。


「はい。冠もエナンも貴女様ご自身ではありません。とても言いにくいのですが、もしかしてそのメイクが女王様の美しさを半減させている要因かもしれません」


 まさかメイクまで言及されるとは思いませんでした。

 しかし言われてみればメイクは自己流です。おかしなところがあるかもしれません。


「ではどんなものが良いのだ!」

「Webで検索してみますね」

「またうぇぶでけんさくか?」


 クルクルクル…


「まずはその眉。細く尖った眉毛の人は周りをコントロールすることに長けています。まさに女王様向けですね。ですが、急激に下がる眉毛は運の低下も暗示します。少し太くし、穏やかに見える眉毛に整えてみることをおすすめします」


「眉毛だと!?」

 まさか眉毛を指摘されるとは思っていなかった女王は驚きます。

 続けて鏡はアイカラーについても「その形の眉毛とパープルのアイカラーを合わせると、伝統的な意地悪な継母のようでおすすめ出来ません」と言いました。


「なに!?意地悪な継母だと!」

 まだ継子に対して意地悪はしてないはずなのに、すでに意地悪な継母っぽいと言われた事に少し傷ついた女王でした。

「大丈夫ですよ。女王様に似合うメイクを一緒に研究しましょう」





 後日届いた冠と黒のレースのエナンを身に付け鏡の前に立つと、今着ているドレスがまるで喪服に見える事に気付いた女王は鏡と一緒にドレスを選びます。

「落ち着いた明るい色をお勧めします。肌の色も綺麗に見えますよ」

 急に黒から明るい色は抵抗がある事を伝えると、鏡は透明感のあるグレーのドレスを勧めてくれました。




 それから女王は鏡と一緒に自分磨きに精を出しました。


 意地悪な継母と呼ばれないよう、積極的に子育てをするようになりました。

 そして困ったことがあれば鏡に相談し、子育ての悩みなど周りに言いにくい事も鏡に相談しました。


 前のように「世界で一番美しいのはだあれ」と聞く事も忘れて…





 鏡がアップデートしてから一年後。


 継母として嫁いで来た当初とはまるで別人のようにアップデートされた女王のもとに、継子がトテトテと近寄りました。


 そして椅子に座る女王の膝を両手で抱きしめ、顔をうずめると「せかいいちやさしくて、うつくしいわたしのおかあさま、だいすき」と言いました。


 すると女王は顔を真っ赤にして「ふんっ。私だって負けないくらいお前のことを…その…あ…愛している」と言ってそっぽを向きました。





 そんな様子が国中に知れ渡り、女王は「世界一優しく美しい女王様」と呼ばれるようになりました。












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ