普通なようで普通でない2人の恋愛
白を基調とした明るい部屋に置かれたベッドで、里村夜見は目を覚ました。彼女が高校生になって最初に迎えた4月の朝だった
自然にひとり言が口から出た。
「いよいよ今日から始まり。電車の中で偶然に出会って……… 私のことを想い出すかな。」
彼女は入学する伊浜市立高校の制服に急いで着替えて、2階にある寝室から1階のリビングに降りていった。
テーブルの上に朝食を並び終えた母親のさきが、彼女の姿に見とれて言った。
「夜見。ほんとうに美人ね。私の自慢の娘だわ。」
「美人なのはお母さんの遺伝だから。」
「三州鉄道の時間は確認してるの。」
「うん、7時7分大林駅着だわ。」
三州鉄道は、伊浜市の山間地域の東鹿島駅と都市部の伊浜駅とを30分強で結ぶ、全18駅の私鉄である。大林駅は東鹿島駅から3駅目だった。
「その電車は、始発の東鹿島駅をいつ出るの。」
「7時よ。」
「その時間で大丈夫。」
「どういう意味。」
「あなたが、今日絶対会いたい人は必ず乗るの。」
「通学には最適な電車だから、必ず乗るわ。前後の電車だと伊浜駅でバスの乗換えがうまくいかないから。」
母親はこれまでにないほど、生き生きと幸せそうに話す彼女の姿を見てとてもうれしかった。
「夜見、大切なことをアドバイスするわ。」
「どんなこと。」
「最初の出会いでは、その人の目の前に現われるだけでいいの。絶対に視線を向けてはいけないわ。」
「なぜ。」
「美人はその方が、男の人の気持ちをしっかりつかむことができるものよ。」
彼女は、自分の家の洋風の門を開けて通学しようとしていた。
「行ってきます。」
「行ってらっしゃい。今の時間だと交通量が増えるから十分に注意するのよ。」
外に出て軽々とした足取りで、最寄の大林駅まで歩き始めた。
大林駅は山間部が終わり、都市部の伊浜駅まで続く平野が始まる場所にあった。通勤通学で多くの人が動き出し、自動車が渋滞していた。
余裕をもって家を出たのに、大林駅が近づくと彼女は焦り、早足になってきた。
(早く駅のホームに出て、4両編成の電車が入ってきたら、あの人がどの車両に乗っているのか短時間で見つけなければいけない。)
しばらくすると、前方に大林駅が見え始めた。彼女が歩道を歩いている道路は駅に突き当たるとともに、駅を横切る道路とT字路になっていた。
駅前の横断歩道の信号は青だった。彼女の今の位置で計算すると、青から赤に変わる前に横断歩道を渡れるかどうか、ぎりぎりのタイミングだった。
彼女は走った。
ところが同時に、横断歩道を横切り右折しようとした自動車があった。
渡りきったと思った瞬間、自動車が体に触れた。
彼女はコンクリートの地面に頭を強く叩きつけられていた。
意識を失った。
………
交通事故が発生し、ざわざわしている大林駅に7時7分着の電車が到着した。
その時、彼女の回りで介抱していた誰も気がつかなかったが、意識が戻り空間を飛び、電車の中の光景を確認していた。数千分の1秒間の間のことだった。
(先頭車両にいた。でも、これが始まりになるのですか?)
確認した後、彼女は再び意識を失った。
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