××はがき
誰が死んだの、と訊かれたから殴った。
なぜだろう。
死んだ、というぞんざいな言い方が癪に障ったからかもしれないし、同じくその言葉が、たいして事の中身には興味がなく、ただ、死んだという事実の物珍しさに首を突っ込んできたようなぶしつけさを纏っていたからかもしれなかった。
ともかくそのせいで、僕は先生にひどく叱られたのを覚えている。理由がどうであれ、少なくとも殴ってはいけなかったらしい。
「ダメでしょ。男の子が女の子に暴力をふるっちゃ」
と、先生は職員室の小さな丸椅子に僕を座らせ、自分は背もたれのある椅子に寄りかかりながら、はい、ごめんなさい、と言われるのを待っていた。
そう、殴った相手が、佐奈という女子だったのが、僕が余計にお叱りを受ける原因でもあった。
佐奈の親と僕の親とは、結構昔から親しかったらしく、それを思えば、先生の余計な説教なんてなおさら余計だった。実際、その日家に帰ると、僕の残った方の親は、佐奈の二人いる親のどっちかと電話をしながら、なぜだか笑っていた。僕はそれが納得いかなかったけど、でも、笑っているのなら少なくとも僕は後からまた余分に叱られることもない、と打算的な子供でもあった。
次の朝には、僕はすっかりそんなことも忘れてしまっていた。だけど、夕飯のことは忘れていなかった。炒め物だった。人参の短冊と、細いピーマン。ひき肉も、僕は好きじゃない。もっと大きい肉が好きだった。
朝のパンを食べると、僕は靴を履いて走った。階段のトタンをバタバタ言わせると、うるせえ、とすぐに下の八田さんが言った。だから僕は、小さく歩いた。
小さく歩いたせいで、遅刻して教室に入った。
そうすると、また先生はうるさくて、僕は椅子に座るときには、隣の佐奈を殴ったことを、すっかり思い出していた。
だから、僕はランドセルを机の横のとこに引っ掛けると、
「殴ったの。ごめんね」
と、お手本通りに言った。
「お前に殴られたのに、うち、昨日パパにも殴られた」
「お前殴ったけど、俺は殴られなかった」
「ずるい。インチキ野郎」
「けど、電話で笑ってた」
「ママが笑ってた。パパに殴られた」
「二人もいるからだ」
「ちがう。二人しかいないからだ」
僕はうんと黙った。
それからずっと経って、僕らは二人になって、それから三人になった。残った方の親は、とっくにもう残ってなくて、佐奈のところも、一人になっていた。
二人減って、一人増えた。
それで、また一人減った。
僕と残った方は、たくさんの人たちに手紙を書かなければいけなかった。
「大変だな。ほんとうに、大変だな」
握ったペンを動かしながら、僕が言うと、残った方はケタケタ笑って、ザクザク書いた。どっちも音は、耳障り。僕は立つと、水道から水をコップにうんと汲むと、一息に全部飲んだ。
耳の奥が、つんとした。
束になったはがきは、ポストの銀の所から、なかににゅるりと入れ込んだ。ずっと横では残った方が、ニタニタ笑ってその歯と目じりが、ずっとポストに浮いている。
「いいや。帰ろう」
ファミマが見えたので、寄った。レジ行くと前の人が、わからないけど譲ってくれた。僕は前に行くと、レジでお金を払おうとした。
ビニール袋を出して、つかむ。つかんで乗せると、店の人が数えた。数え終わると、お釣りをもらって、帰った。
キッチンにお皿が並んでいる。水道は銀色で、その上のガラスからは、ガラスからだけは、光が部屋に差し込んで、きれいだと思った。




