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ぽっきいゲームと恋の香り

「SNS文芸部」の11月のテーマが「ポッキーゲーム」だったので、書いてみました~♪₍₍ ٩( *ˊᗜˋ*)و ⁾⁾♪

楽しんで頂けると嬉しいです!

「よし、これで良いわね!」


 私は、額の汗を拭いながら独り言を呟いた。今私がいるのは、公爵家の応接室。私の目の前にある木製のテーブルには、一枚の皿が置かれている。

 そして、その皿に乗っているのは、細長い棒状のクッキーにチョコレートがかかったお菓子。いわゆる「ぽっきい」である。


 何故近世ヨーロッパ風のこの世界に「ぽっきい」が存在するのか。それは、私が前世の記憶を持つ転生者だからだ。



 私、エイヴリル・フレミング公爵令嬢が前世の記憶を思い出したのは今から十年前。私が七歳の時。高熱を出したのをきっかけに、頭の中に日本人だった頃の記憶が流れ込んできたのだ。

 私は、前世でやり込んだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した事を一瞬嘆いた。しかし、せっかく生まれ変わったのだ。楽しまなくては損だと思い、この世界にはまだ存在しないお菓子を作りまくってそれなりに充実した毎日を送っていた。



 私が今までの事を思い返していると、執事が応接室のドアをノックする。来客を告げる執事に、私は「お通しして」と笑顔で答えた。


       ◆ ◆ ◆


 しばらくして応接室に入って来たのは、一人の少年。頭の後ろに束ねたサラサラの金髪に吸い込まれるような青い瞳。

 この人は、私の婚約者で宰相の息子。乙女ゲームの攻略キャラでもある、ナサニエル・ベックフォード様だ。


 ナサニエル様は、私に促され椅子に座ると、笑顔で言った。


「エイヴリル、今日はお茶会に招待してくれてありがとう。でも、君が招待してくれるなんて珍しいね。どうしたのかな?」


 私は、自分の膝に置いた手をギュッと握ると、覚悟を決めて言った。


「ナサニエル様、私と『ぽっきいゲーム』で賭けをしませんか?」

「『ぽっきいゲーム』?」


 ナサニエル様が首を傾げる。私は、ぽっきいゲームについて説明した。



 ぽっきいゲーム。それは、一本のぽっきいを二人が同時に両端から食べて行き、先に口から離した方が負けというゲームだ。ルールは色々とバリエーションがあると思うが、基本はそんな感じで、二人がずっと口から離さなければ、二人はキスをする事になる。



「成程。ルールは分かった。エイヴリルは面白い事を考えるね。それで、賭けの内容は?」


 ナサニエル様の言葉に、私は一瞬間を空けてから答える。


「私が負けたら、ナサニエル様の要望に一つお答えします。もちろん法律に違反しない範囲で。そして、私が勝ったら……私との婚約を、解消して下さい!」


 ナサニエル様は、一瞬目を見開いた後、キュッと眉根を寄せる。どうしてそんなに傷付いた顔をするの? 私にこんな事を言わせたのは、あなたでしょう、ナサニエル様。




 私は、十五歳になると、乙女ゲームのテッパンのように学園に通うようになった。八歳の時から婚約者だった同い年のナサニエル様とは、それなりに仲が良かったと思う。でも、学園に通うようになってすぐに二人の距離が開いた。


 ナサニエル様は、平民ながら入学試験に合格した女子生徒とよく話をするようになったのだ。

 その女子生徒の名前はチェルシー・グローヴァ―。優秀であるがゆえに、平民でありながら男爵家の養女となったチェルシー。そんな彼女は、乙女ゲームのヒロインである。


 ナサニエル様がチェルシーと学園の庭で楽しそうに話すのを見るたび、私の胸はギュッと締め付けられた。

 どうしてこんなに苦しいんだろう。そう考えて、私は気付いた。ああ、私は、ナサニエル様の事が好きなんだ。


 思えば、ナサニエル様は私が作るお菓子を、いつも美味しい美味しいと言って食べてくれた。

 私と交流のある他の令息や令嬢からは、「貴族が自らお菓子を作るなんて……」とか「こんなお菓子を思い付くなんて変わってるわね」とか言われていたのに。

 きっと私は、私のお菓子や私自身を否定しないナサニエル様に恋をしてしまったのだろう。


 だからこそ、私はこんな賭けを申し出たのだ。ナサニエル様は、ぽややんとしているようで、規律や秩序を重んじる方。きっと、意中の相手以外とキスなんてしようと思わない。

 だから、私とのキスを避ける為に、ナサニエル様は負けるに違いない。そして、私とナサニエル様は婚約解消するのだ。

 そうすれば、私はナサニエル様を解放する事が出来る。ナサニエル様は、愛するチェルシーと結ばれる。




 私の目に、涙が浮かんだ。どうして私はこんな事を言わなければならないんだろう。どうしてチェルシーは、メイン攻略対象である第一王子を選んでくれなかったんだろう。

 しかし、考えても仕方ない。私は、ナサニエル様に見られないよう、髪を弄る振りをして涙を拭った。


 ナサニエル様は、固い声で言う。


「君がどういうつもりかは知らないけれど、分かった。その『ぽっきいゲーム』とやらをしようじゃないか」


 こうして、私達の勝負が始まった。


 ナサニエル様が私の隣にある椅子に腰掛け、お互いぽっきいの端を咥える。そして、私が微かに頷いたのを合図に、二人はぽっきいを少しずつ食べ始めた。

 段々二人の距離が縮まっていき、私の心臓の音が大きくなっていった。ナサニエル様が真剣な表情で私を見つめている。その青い瞳に、吸い込まれそう。


 ぽっきいはどんどん短くなっていき、あと約一センチで私とナサニエル様の唇が触れ合いそうになる。

 どうして……どうしてナサニエル様はぽっきいを離さないの!? このままだと、私とキスしてしまうのよ! そんな、そんなの……!!


「やっぱりダメえ!!」


 私は、ぽっきいを口から離して叫んだ。俯きながら、私はハアハアと息を整える。賭けがどうこうよりも、ナサニエル様と唇を重ねるなんて心臓が持たない!

 ナサニエル様はニッコリと笑いながら勝利宣言をする。


「賭けは僕の勝ちだね、エイヴリル。じゃあ、僕の要望を聞いてもらおうか」


 ナサニエル様は、真剣な顔で私の頬に右手を添え、こう言った。


「エイヴリル。もう二度と、婚約を解消するだなんて言わないでくれ。僕は……君の事を、愛してるんだ」

「え……?」


 一瞬、何を言われているのか分からなかった。私は、声を震わせて言う。


「嘘……だって、ナサニエル様はチェルシーと仲良くしてて……だから私は……」

「人の気持ちを勝手に決めつけないでほしいな」


 ナサニエル様は、苦笑して言葉を続けた。



 話によると、ナサニエル様がチェルシーと話していたのは、私とチェルシーを仲良くさせようとしていたらしい。

 私は、変人扱いされていた為友人が少なかった。その事に私はほんの少しだけ寂しさを感じていたのだけれど、ナサニエル様も私の気持ちに気付いていたらしい。

 そして、私と話の合う年頃の女の子がいないか探していたところ、チェルシーを見つけたのだ。


 そういえば、たまたま我が家のお茶会で、私の作ったお菓子を出したことがある。その時に、チェルシーが美味しいと言って私のお菓子を食べていた記憶もある。

 だからナサニエル様はチェルシーに目を付けたのか。


 ちなみに、エイヴリルと仲良くしてくれないかとナサニエル様に言われたチェルシーは、最初断ったらしい。公爵家の令嬢と友人になるなんて恐れ多いと。

 しかし、ナサニエル様は持ち前のコミュ力でチェルシーの懐に入り込み、あと一歩でチェルシーを私の友人に出来るくらいの所まできていたようだ。



「そういう事だったんですね……」


 私が呟くと、ナサニエル様は笑顔で言った。


「うん。まさか、君が僕とチェルシーの仲を疑ってるとは思わなかったよ。不安にさせてごめん。……でも、婚約解消だなんて言わないでほしい。僕が愛してるのは、エイヴリル。君だけなんだから」


 私の心が、じんわりと温かくなった。私は、涙ぐみながらナサニエル様を見つめて告げる。


「ありがとうございます、ナサニエル様。……私も、ナサニエル様の事を愛しています」


 私の言葉を聞いたナサニエル様は、目を見開いて私を見つめる。そして、両手でそっと私の頬を包むと、私の口……ではなく、おでこに口付けした。


 目を見開いて口をパクパクさせる私に、ナサニエル様は微笑んだ。


「顔が真っ赤になってる。可愛いね、エイヴリル。……今度、またぽっきいゲームをしようね」


 こうして、私とナサニエル様のお茶会は終わった。


 ナサニエル様が帰った後も、部屋の中にはいつまでも甘い匂いが漂っている気がした。

ちなみに、この後エイヴリルとチェルシーは友達になりました!

それと、エイヴリルがあまりナサニエルをお茶会に誘わなかったのは、身を引く予定だったからです。


感想等をお待ちしております!

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― 新着の感想 ―
初めまして、感想失礼致します! ナサニエル様の真意に心温まったのと、ぽっきいゲームのドキドキがこちらにも伝わってきて……にやけながら読んでしまいました! とっても甘くて、最後まで楽しかったです!
この世界でぽっきい生みの親がぽっきいゲームを布教してしまいましたね…! 婚約者がいろんな意味で味を占めて、イチャイチャしてくれると嬉しいです。お幸せに!
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