男子高校生の妄想
あらすじちゃんと書いたの初めてかも
「誰…あの人」
その言葉で俺は目が覚めた。いや、教室内は似たような困惑の声でざわざわしていたから、特別その声で、という訳ではなかったかもしれない。
まだ日差しが強い、午後最初の授業が始まってすぐのことだった。窓から見えるグラウンドが白く輝いていた。
教室の入り口、閉められたドアを隔てた向こうの廊下に、明らかに生徒でも教師でもない男の姿が、ガラス越しに見えた。
黒いパーカーに黒いズボンを合わせ、両の手をポケットに突っ込んで立っている。
フードを深く被っていて、表情はよく見えない。しかしその骨格や体つきは、少しやつれてはいるが、男と分かるものだった。
「え、ほんとうに誰?」
「外部の人が来てるとか?」
「けどあんな格好はナイでしょ」
クラスメイトたちはみんな、男を見て思い思いの言葉を口にする。それも、教師がカツ、カツと足音を立てて入り口に向かうと、波が引くように静かになった。
女教師は入り口まで行くと、勢いよくドアを開けた。
「すみません、どちら様でしょうか。何かご用がありましたら事務室に―」
そこまで言って女教師は、男のその左ポケットから引き抜かれた手と、その手に握られていたものを見た。
クラスメイトの誰かが悲鳴を上げるのと、俺が女教師の襟首を引っ張ったのはほぼ同時だった。
女教師は床に尻をつけ、そしてさっきまで女教師の頭部があった所には、蛍光灯の光を反射して煌々と光るナイフがあった。
「あ、あ、」
女教師は震えた声を出す。同じように震える目は、まるで縫い付けられたかのように、ナイフを見ていた。
「立てますか。」
俺のその言葉ではっと我に返る女教師。
「え、ええ。ありがとう、××君。」
「いえ。そんなことより、ここは僕に任せて、先生はみんなを。」
クラスメイトは今のでみんなパニック状態で、入り交じった泣き声や叫び声がさらに混乱を助長する事態になっていた。
「そんな、君一人でなんて無茶だよ!相手は刃物を持っているし、危ないわ」
「大丈夫です。僕を信じて、さあ。」
女教師は迷った様子を見せていたが、決心するとすぐ、逃げるようにクラスメイトの方へ走っていった。いや、実際逃げた。
俺はその後ろ姿を確認してから、男へと向き直る。
視界の右端に、横薙ぎのナイフが映った。
俺はすぐにしゃがんでそれを避ける。慣性に倣った髪の毛が数本、空中に舞った。
俺は体制を少し戻して、右足を持ち上げて大きく横に伸ばし、残った左足を軸にして少し回転するようにしながら思いっきり男の左脇腹を蹴った。
ナイフを空振った勢いで、元々右にバランスを崩していた男は、さらにその蹴りを受け、黒板横にある時間割表に体をぶつけて激しい音を立てた。
「ふぅ。いきなりこられると危ないからやめてよね」
俺は後ろ足で教壇に登り、数歩下がる。
男はふー、ふーと荒い息遣いを漏らしながら体制を立て直す。少しフードがとれて、そこで初めて目が合った。しかしその充血した目は、どこか焦点が合っていないようだった。
俺はチラッと横目で教室を見る。丁度女教師がクラスメイト全員を後ろのドアから廊下へ出させた頃だった。
視線を戻すと、男は左手のナイフを持ち直し、
「ふー、ふー…」
なおも荒い息遣いで俺を睨んでいる。
俺は男に笑いかける。そして言う。
「来いよ。どうせお前は、俺には、勝てない。」
男は雄叫びを上げて一心不乱に俺をめがけて走ってくる。ナイフがしっかりと握られた左手が伸ばされ、俺はそれを、体を右に開いて躱した。
男はそのまま反対側まで走り抜け、まるでプロレスのように、壁の反作用の勢いを使って再び俺へと突っ込んできた。
俺は右手で黒板縁のチョークを二本つかみ、そして二本とも一緒に投げた。
投げられたそれぞれのチョークは綺麗に、男の両目へと先端から刺さった。
「ぐあっ」
男は悶絶して手で目を覆う。動きを止めた男に、俺はカンフーキックの要領でその男の鳩尾へと蹴りを放った。
綺麗に整列されていた机椅子を派手に散らかして、男の体はふっ飛んだ。その際に手から外れたナイフが数秒空を走り、後ろの壁に刺さった。
「ぐ、があ…」
男は仰向けに倒れてもがいているが、いっこうに起き上がる様子はなく、ただ頭が少し持ち上がるくらいだった。
俺はその男へとゆっくり近付く。動けない男を見下ろした。
「だから言ったろ?お前は俺には勝てない、って。何があったかは知らんが、ちゃんと反省して、真っ当な人生を送れよ。」
デコピンを食らわすと、頭を床につけ、パタリ動かなくなった。
「うおおおおお!!」
いつのまにか廊下には人だかりができていて、男が気を失った瞬間、どっと教室になだれ込んできた。
鳴り止まない拍手喝采を受けながら、俺は自分の席に戻って欠伸を一つ。
「はぁ…眠い。」
窓から差し込む心地よい日光で俺はすぐ眠りについた。
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そこで彼は目を開ける。
「それじゃあ、××××××して、××××××すればいいか。」
そう呟くと彼は立ち上がり、乾ききったシンクを通り抜けて玄関へ向かった。
フードを深くかぶり、ドアを開け、そして鍵も掛けず、アパートの錆びた階段を下り始めた。
まだまだ眩しい午後の日光を受けて鈍く光るナイフを左ポケットに入れ、それから両手も静かにポケットに突っ込んだ。
近くの高校からの授業開始のチャイムが、あたり一帯に響き渡った。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
ホラー系と思って書いたので、ちゃんとホラーになっていたらいいなと思います。