8:情報の交錯
「情報がさ、流れてくるっていうか……」
ユウキの言葉が、タクトの脳裏にこびりついて離れない。自分の見てきたもの、考えていること。それが、なぜ「死んだはず」のユウキに伝わるのか。
タクトは、ユウキのホームエリアからログアウトした後、すぐに<オネイロス>のフォーラムを調べ始めた。システムエラー、バグ、幽霊、ゴーストといったキーワードで検索をかける。
膨大な情報がヒットしたが、大半は都市伝説や創作めいたものだった。「VR空間に死んだ恋人が現れた」「ログアウトできない幽霊に遭遇した」といった書き込みはいくつか見られたが、どれも具体的な証拠がなく、すぐに「それはお前の見間違いだ」「疲れてるんじゃないか?」といった反論で埋め尽くされていた。
タクトは、この現象が自分だけに起こっているのかもしれない、という可能性に薄らと気づき始めた。あるいは、起こっていても、皆口をつぐんでいるだけなのか。
次に、タクトは脳とネットワークを直接接続する技術について調べた。この技術は<ブレインリンク>と呼ばれ、<オネイロス>の基盤となっている。公式の情報は、安全性や利便性を強調するものばかりだった。しかし、技術系の専門フォーラムなどを辿っていくと、リスクや未知の副作用について議論されているスレッドがいくつか見つかった。
『脳情報の漏洩リスク』、『意識のデータ化による問題』、『サイバー空間での「魂」の行方』。
これらのスレッドには、タクトがまさに直面しているような、意識や情報の奇妙な現象を示唆する議論が含まれていた。しかし、そこでも具体的な解決策や、タクトの状況に完全に合致する事例は見つからなかった。多くの議論は理論的なもので、実践的な情報はほとんどない。
タクトはため息をついた。一人でこの問題に立ち向かうのは、想像以上に困難なようだった。
翌日、タクトは再び<オネイロス>にログインした。ユウキは既にログインしており、タクトにメッセージを送ってきていた。
『今日の夜、新しいホラーエリア行ってみない?マジで怖いらしいぜ!』
ホラーエリア。<オネイロス>には、ユーザーが作成した様々なエリアがある。ホラーエリアも人気ジャンルの一つで、精巧に作られた恐怖体験ができる。
以前なら、ユウキと一緒なら何でも楽しかった。だが、今のタクトにとって、この「ユウキ」とホラーエリアに行くことは、二重の意味で恐怖だった。
しかし、タクトはこの機会を利用して、ユウキから何かを引き出せるかもしれない、と考えた。
『いいよ。何時?』
タクトは返信した。