5:喜びと違和感
視界がホワイトアウトし、数秒後に別の風景が広がる。
ユウキのホームエリア。彼の好きなゲームのポスターが貼られた壁、雑然と置かれた趣味のアイテム、そして中央には、ユウキのアバターが立っていた。
「あ、来た来た」
ユウキはタクトに気づき、軽く手を挙げた。その姿は、タクトが知っているユウキそのものだった。
タクトは、ユウキから少し距離を置いて立ち止まった。現実で見たユウキの姿が重なる。あれは、このホームエリアだったのだろうか?あの時、自分はまだログイン状態だったのだろうか?
「どうしたんだよ、突っ立って。こっち来いよ」
ユウキはタクトを手招きする。その表情に、不審な点は見当たらない。
タクトはゆっくりとユウキに近づいた。心臓の音が、ドクンドクンと大きく響く。仮想空間なのに、ここまでリアルな心拍数が再現されるのか、と場違いなことを考えた。
ユウキの目の前に立つ。彼は本当にそこにいる。話しかければ返事が返ってくる。生前と何も変わらないユウキが。
「……ユウキ……本当に、お前なのか……?」
タクトは震える声で尋ねた。
ユウキは少し怪訝そうな顔をした。
「何言ってんだよ、タクト。俺だよ、ユウキだよ。他に誰がいんだよ」
ユウキは笑った。いつもの、少し悪戯っぽい笑顔だ。
その笑顔を見た時、タクトは安堵と同時に、深い違和感を覚えた。あまりにも普通すぎる。あまりにも、何も変わっていない。
現実世界で、ユウキは死んだ。その事実を、この<オネイロス>にいるユウキは知らない。あるいは、知っているのに、知らないふりをしている?
いや、そんなはずはない。ユウキがそんな芝居をする理由がない。
では、このユウキは一体何なのだろう?
幽霊?デジタルゴースト?それとも……
タクトは、ユウキの顔をまじまじと見つめた。その瞳に、以前は感じなかった、何か不気味な光が宿っているような気がした。
気のせいだ。きっと疲れているんだ。タクトは自分に言い聞かせた。
「ごめん……ちょっと、変な夢を見たみたいで……」
タクトは曖昧に誤魔化した。
ユウキはタクトの言葉を特に気に留めた様子もなく、再びゲームの話を始めた。
「そういえばさ、一緒にやろうって言ってた【アークロア・ウォー】だけどさ……」
ユウキは楽しそうに話し続ける。タクトは相槌を打ちながら、彼の声に耳を傾ける。
生前と全く変わらない、ユウキの声。
生前と全く変わらない、ユウキの話し方。
生前と全く変わらない、ユウキの笑顔。
タクトは、目の前にいる親友のアバターを見つめながら、なんとも言いようのないものを感じ始めていた。
このユウキは、本当に、あのユウキなのだろうか?
もし違うとしたら、一体、何なのだろうか?
そして、なぜ、彼は「ユウキ」として、自分の目の前に現れたのだろうか?
答えの出ない疑問が、タクトの心を締め付けていく。
この再会に、喜びを感じつつも、胸騒ぎがしてならなかった。