4:死者との再会
『タクト、いる?』
そこに表示された文字は、紛れもなくユウキのアカウントからのものだった。
手が冷たくなる。心臓が早鐘を打つ。これは、一体どういうことだ?
誤作動か?システムのエラーか?それとも……
意を決して、タクトはメッセージを返した。
『……ユウキ?』
数秒の後、返信が来た。
『おう、タクト。何だよ、返信遅えぞ。ログインしてたんだろ?』
会話が成立している。これは、自動応答システムなどではない。まるで、まるで本当にユウキがそこにいるかのような……
『お前……どうして……?』
タクトは言葉を選べなかった。現実で死んだ人間に、どう話しかければいいのか分からなかった。
『どうしてって?何言ってんだ?普通にログインしてるだけだけど』
ユウキからのメッセージは、あまりにも普段通りだった。何も知らないかのように。まるで、何も起こっていないかのように。
タクトは、カフェの椅子から立ち上がった。周りのアバターたちが、何事かとタクトを見ている気がした。しかし、タクトの意識はユウキからのメッセージに釘付けだった。
『お前……その……現実で……』
タクトは言葉に詰まる。ユウキは死んだ。その事実を、どう伝えればいいのだろうか。いや、そもそも、このユウキが現実のユウキ本人なのか?
『現実で?何だよ、もったいぶんなよ。なんかあった?』
ユウキは問い返してくる。その呑気な口調が、タクトの恐怖を煽った。
『……お前、死んだんだぞ……』
タクトは、覚悟を決めてそう打ち込んだ。送信ボタンを押す指が震える。
送信が完了し、メッセージが既読になるまでの数秒が、永遠のように感じられた。
返信が来た。
『は?何言ってんだ、タクト。俺、ピンピンしてるし』
絵文字までついている。まるでタクトがとんでもない冗談を言ったかのように。
『……嘘だ……』
タクトは思わず声に出した。アバターの口が動き、その声がVR空間に響く。
『嘘じゃねえよ。ちょっと前にログインしたばっかだし。つーか、お前こそ変だぞ。何かあったのか?』
ユウキは心配そうな様子で聞いてくる。その言葉遣い、間の取り方。全てが、タクトの知っているユウキだった。
タクトは混乱していた。現実のユウキは死んだ。それは揺るぎない事実だ。家族も、友人も、皆が知っている。葬儀まで終えた。
なのに、なぜ、この<オネイロス>にユウキがログインしているのだろうか?なぜ、自分が死んだことを知らないのだろうか?
タクトの脳裏に、現実の自室で見たユウキの姿が蘇った。あの時も、ユウキはタクトを心配していた。あれは幻覚ではなかったのか?
タクトはユウキにメッセージを送った。
『今、どこにいる?』
すぐに返信が来た。
『どこって……ホームエリアだけど。いつもの部屋にいるよ』
ユウキのホームエリア。それは、彼が自分好みにカスタマイズしたプライベート空間だ。タクトも何度か訪れたことがある。
タクトは迷った。行くべきか、行かないべきか。もしこれが何かのシステムエラーだとしたら?もしこれが、ユウキを騙った悪質な何かの罠だとしたら?
しかし、ユウキの声が、言葉が、タクトを引き止めた。本当にユウキなのかもしれない。何らかの理由で、彼だけが自分の死を知らないまま、この世界に存在しているのかもしれない。
タクトは、ユウキのホームエリアへ移動するコマンドを入力した。