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2:夢か現か?

交通事故だと書いてあった。今朝、自転車に乗っていたところをトラックにはねられた、と。即死だった、と。


信じられなかった。理解できなかった。ほんの数時間前まで、他愛もない話をして、一緒にゲームをする約束をしたばかりなのに?あのユウキが?


タクトはその場に立ち尽くし、混乱と絶望に打ちひしがれていた。アバターの体からは汗は出ないが、脳内では冷たい脂汗が噴き出している感覚に襲われた。


嘘だ。きっと何かの間違いだ。アカリが悪質な冗談を言っているに違いない。


急いでアカリにメッセージを送った。何度も、何度も。しかし返信はない。


次に、ユウキのアバターにメッセージを送ろうとした。だが、宛先を選択したところで手が止まる。もし、もしこれが本当なら……?


とにかく、タクトは現実世界の自分の部屋に戻ることにした。<オネイロス>からのログアウトは、意識を物理的な肉体に戻すプロセスだ。通常はスムーズに行われる。しかし、この時のタクトは激しく動揺していた。


ログアウト。


視界がブラックアウトし、強烈な浮遊感がタクトを襲う。しかし、いつものような静かなベッドに戻る感覚がない。むしろ、意識が宙ぶらりんにされているような、不安定な状態が続く。


「……っ!」


苦しい。まるで水中に沈められているような、意識だけが取り残されたような感覚。脳とネットワークを繋ぐパッチが、何らかの異常を知らせる微弱な振動を発しているのが分かった。


パニックになりかけたその時、視界が僅かに回復した。そこはどこか見覚えのある場所だった。


タクトの自室だ。しかし、何か違う。壁の色、家具の配置、そして……そこに立っている人物。


ユウキだ。


ぼやけた視界の中で、ユウキがタクトの方を向いていた。彼はいつものパーカー姿で、少し困ったような顔をしている。


「あれ?タクト?どうしたんだよ、顔色悪いぞ?」


ユウキの声が聞こえる。それは、数時間前にVR空間で聞いていた声と同じだ。


混乱した。現実のタクトは、ベッドの上にいるはずだ。今見ている光景は一体何なのだろうか?夢?幻覚?それとも……まだ<オネイロス>の中にいるのか?


「ユ……ユウキ……?」


タクトは掠れた声でユウキの名前を呼んだ。ユウキは首を傾げる。


「なにぼうぜんとしてんだよ。風邪でも引いたか?」


ユウキはタクトに近づいてくる。その足音まで、リアルに脳に響く。触れられるのではないか、とタクトは身構えた。


その時、再び視界が歪み始めた。ユウキの姿が揺らぎ、部屋の輪郭が曖昧になる。


「あ……」


意識が急速に遠ざかるのを感じた。そして、今度こそ、タクトは現実のベッドの上で目を覚ました。


額のパッチを無造作に剥がす。冷たい汗が滲んでいた。心臓が激しく脈打っている。


夢だったのか?いや、あまりにも鮮明だった。特に、ユウキの声。あの声は、紛れもなくユウキの声だった。


スマホを手に取り、アカリからのメッセージを再度確認する。文字はそこにあり、内容は変わっていない。ユウキは、死んだ。


では、さっき見たユウキは一体何だったのだろう?<オネイロス>からのログアウトに失敗し、システムがエラーを起こした?それとも、脳がショックを受けて幻覚を見た?


タクトはベッドから起き上がり、窓の外を見た。青空が広がっている。鳥の声が聞こえる。ここが現実だ。物理空間だ。


なのに、頭の中には先程見たユウキの姿が焼き付いて離れない。


「……ユウキ……」


もう一度、ユウキの名前を呟く。その響きが、あまりにも虚しく部屋に消えた。


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