11:得体の知れない恐怖
タクトの全身から血の気が引いていくのを感じた瞬間、頭の中で何かが弾けたように響いた。
あの声、あの言葉――ユウキが知るはずのない秘密を、なぜこの「ユウキ」は知っているのか?
タクトの心臓が締め付けられるように鼓動を刻む。
あの日、本当は見られてたんじゃ……
「嘘だ……お前は……ユウキじゃない……!」
タクトは喉を絞り出すように叫んだ。声は震え、仮想世界の空間に虚しく響いた。
暗闇の中で、ユウキのアバターがゆっくりと振り返った。その口元が、くすくすと不気味に笑う音を立てた。
「ふふふ……違う? そうかな……? 俺は、お前の……」
その言葉が途切れた瞬間、突然、洋館全体が眩い光に包まれた。
けたたましいサイレンがピタリと止み、耳障りな不協和音のBGMも消え去った。
タクトはあまりの急激な変化に目を眩ませ、思わず手を顔の前にかざした。
光が収まると、視界が元に戻り、薄暗い洋館の廊下が再び現れた。
ユウキは少し離れた場所に立っていた。
だが、その姿は先程までの不気味なものとはまるで別人のようだった。
いつもの明るい笑顔、軽快な仕草。まるで何事もなかったかのように、タクトを不思議そうに見つめている。
「どうしたんだよ、タクト? 急に大声出して。ビビりすぎだろ!」
ユウキの声は、いつも通りの軽い調子だった。
だが、タクトの全身は冷や汗にまみれ、震えが止まらなかった。
心臓の鼓動が耳元でうるさく響き、頭の中が混乱で埋め尽くされていた。
あの嘲るような声、ユウキが知るはずのない過去の秘密を暴く言葉――あれは幻覚だったのか?
ホラーエリアのシステムがタクトの恐怖心を増幅させただけなのか?
「いや……なんでもない……」
タクトはかろうじて言葉を絞り出したが、声は震え、喉の奥で詰まった。ユウキはそんなタクトを一瞥すると、楽しげに笑って手を振った
。
「ほら、行こうぜ! この先まだヤバい仕掛けありそうだし、楽しみじゃん!」
ユウキは軽い足取りで先に進み始めた。
その後ろ姿は、いつも通りのユウキそのものだった。
だが、タクトの目は、その背中に何か異様なものを感じ取っていた。
ユウキのアバターの輪郭が、ほんの一瞬だけ、ゆらめくように歪んだ気がした。まるで、システムのバグか、あるいは……何か別のものがそこに紛れ込んでいるかのように。
タクトは一歩踏み出すのを躊躇した。
あの声は、確かにユウキのものではなかった。
いや、ユウキの声だったかもしれないが、それはタクトの記憶や恐怖を映し出す鏡のように、異質で、まるで何かに操られているようだった。
タクトの背筋に、凍りつくような寒気が走った。
視界の端で、ユウキのアバターが再び振り返った。
その笑顔は一見無垢だったが、目だけが異様に暗く、底なしの闇を湛えているように見えた。