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お茶会は大変

 貴族令嬢のお勤めの一つに、お茶会があります。

 親しい友人同士の気の置けない集まりではなく、家門や派閥を同じくする高位貴族令嬢からの招待という名の❝お呼び出し❞のことです。定期的に開催される親睦と情報交換のためのお茶会であれば慣れたものですが、不意のご招待であれば、主催者や出席者、人数、名目、場所や開催時間などを確認して、それに相応しいドレスやアクセサリー、手土産等の手配を慎重に抜かりなくしなければなりません。招待から開催日まで一定期間あるのは、その間に準備を整えろということです。


 予期していない招待状が届いた際には、まず周りの友人たちに同じものが届いているかどうかを確認します。お茶会は、同じ派閥であっても目的によっては招く人を限定していることがあるので、いつ・どこで・誰がお茶会を開くかという情報が、開催前に明らかになることはほとんどありません。招待されなかった方への気遣いでもあります。招待された方も誰かれ構わず口外するようなことはないのですが、そこは仲間内。もし、その友人が招待されていなかったのなら、わたくしと友人の状況の違いを探しつつ、お茶会開催の真の目的を慮り、主催者の意向や下位貴族としてどのように処すべきかを事前に共有して失態を避けなければなりません。高位貴族令嬢からのご招待は、有り難くもあるのですが、多くは情報伝達や情報収集、ときには何かに対する叱責のこともありますから、事前の心準備のためにも、友人同士の確認は欠かせないのです。


 心配りの利いた招待状であれば、日時や場所だけでなく、さり気ない言葉で、メインゲストやこんな人を招いていると記してあります。今回届いたロクサナ・ボルグバーン侯爵令嬢からのご招待状が、まさにこれでした。


「ジョアンナ・クリスマン伯爵令嬢を招いて、王立学園に通う令嬢の親睦を深めましょう」


 ロクサナ様は、わたくしより1つ上の3年生で、ある伯爵令嬢からおど、っ……んん無理難題な“お願い”をされていたときに助けていただいたことがあり、それ以来、何かと声をかけてくださいます。ウチは、特にどの派閥に属しているというわけではないのですが、各派閥から利用価値のある中立子爵家として重宝されているせいもあるでしょう。


 今回、メインゲストのジョアンナ嬢のクリスマン伯爵家は、ボルグバーン侯爵家とは派閥が違い、エリザベト嬢のネヴィル公爵家の派閥だったはずです。ロクサナ様とは高位貴族同士でのお付き合いはあるのでしょうが、わたくしのような下位貴族令嬢が招かれるようなお茶会でご一緒するのは初めてのことです。


 今の貴族社会では、派閥による思想的な違いはありません。かつては、次期国王とされる王太子を巡って第一王子殿下と第三王子殿下のどちらを推すか、また国王による親政と高位貴族の合意を優先するのかなど国政の主体をどちらに置くかを派閥間で争ったこともあったようですが、現在では、統率力に優れてカリスマ性のある今上陛下の下、派閥は互助システムとして機能しているようです。もっとも、本当のところは、子爵子女にすぎないわたくしに分かるはずもありませんが、中立派としていくつかの派閥のお茶会に招かれた中で、それぞれ集まる人たちの傾向や特徴に違いはあるものの、派閥間の対立や競合を感じることはありませんでした。


 あえて「王立学院に通う令嬢」と限定されていることからみて、参加者は多くて十数人。大きな派閥であっても、学院に通っている貴族子女のうちの令嬢に限り、またわたくしのような中立貴族の令嬢を含めても、人数的には大きなお茶会ではありません。


 ただ、もう、時期的に考えても、これは……。

 お茶会の目的は、学院で今一番の話題であるマリアンヌ嬢にまつわることに違いありません。ジョアンナ嬢が参加されるということは、エリザベト嬢が動かれたということなのでしょう。一緒に招待を受けている友人のアイリーン・フィンガラン男爵令嬢とも、その点は一致しました。


 本当に、高位貴族は大変だと思いますが、学院内の秩序を守る責任は、在学中の最高位の貴族子女が担うものとされています。去年までは、イェルク第三王子殿下と、わたくしと同学年のゾフィー・ロレンベルク公爵令嬢がそれに当たりましたが、イェルク殿下の婚約者のエリザベト・ネヴィル公爵令嬢が入学された今年からは、準王族扱いになるエリザベト嬢が担われます。もちろん。学年をまたいでお二人を支える高位貴族子女が多くいらっしゃるでしょうが、入学早々、これまでにないような状況に対応しなければならないエリザベト嬢には、はばかりながら同情を禁じえません。


 わたくしは、学年の違うマリアンヌ嬢と面識はありませんし、誰もが知るうわさを聞いているだけです。おそらく、エリザベト嬢のお考えをお知らせいただくためのお茶会なのだとは思いますが、自らが提供できる情報もないまま出席するだけでは、せっかくお誘いいただいたロクサナ様に申し訳なく思います。


 とはいえ、いろいろな意味で、通常の“お勤め”以上に気の重いお茶会です。せめては、気の置けないアイリーンとの二次会を楽しみとしましょうか。





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