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素直すぎるブライアン様

 新たなメニューや季節のスイーツのこと、先日修練場に行って“お試し”の様子を見たことなどを話しながら、しばらく和やかな時間が過ぎました。

 今日のお話が、先ほどのゲームについてだけのはずがありません。ご褒美でなければ、もしかしたら、公式イベントにすることを学院のほうから止められたのかもしれません。目的があるとはいえ、学院を挙げての新たなイベントを実施するなど、そう簡単に許可が下りるわけはなかったのです。


 一通り食べ終え、お皿を下げて新しいお茶を出してくれた店の従業員が出ていくと、ブライアン様は落ち着かなげに、言葉に迷っていらっしゃるご様子です。言いにくいというのは、やはり駄目だったのでしょうか。


「もうすぐ発表されるが、イベントは、基礎科による『対抗戦』として、学生会主催で新年が明けてから実施することになった。学院側の了承も取った。結果次第では、来年以降は公式行事として継続していきたいとも言われている」


「まぁ! おめでとうございます!」

 なんということでしょう。学院の恒例行事になるとは。ほんの思い付きが予想外に大きなことになってしまったようです。あぁ、また弟の「ポンコツが余計なことを……」という可愛い声が聞こえてきそうですが、これはわたくしのせいではありません。ブライアン様がご苦労なさった結果です。


 さすがに全学年参加は、時期的に難しかったようです。騎士科は、社交シーズンが終わる前に開催される剣術大会に向けて、他の専科も同時に行われる研究発表会に向けた準備がありますから、得体のしれないイベントに参加する余裕はないのでしょう。


 わざわざ発表前にお知らせいただくなんて、これはやはり、ご褒美を期待してもいいのでしょうか。


「それで……、その、せっかくレティシア嬢が助言してくれたんだが、その……、学生同士の交流という目的も、ゲームも、すべてマリアンヌ嬢からの提案ということになって、だな……」


 ブライアン様は、視線を斜め下に落として辛そうにおっしゃいます。

「俺は、冒険者から聞いた話としてゲームを説明しつつ、イェルク殿下にこれが貴族子息たちへのけん制になることを話していたんだが、実際にやってみるようになって、参加者が増えていくと、いつの間にかマリアンヌ嬢発案のゲームだという話になっていて……」


 ブライアン様の話を聞きながら、困ってしまいました。


「実際ゲームをよく知っていて、最初に試して教える側に回っていた俺たちより、よほど的確に、子息たちにコツとか、こうしたらもっとうまく行くとか教えていたから、最初は助かったと思っていたんだが……」


「あの、お話の途中、申し訳ありません。マリアンヌ嬢の功績になることが、ブライアン様に何か不都合があるのでしょうか?」


「えっ? いや、せっかくレティシア嬢がいろいろ考えてくれたのに、全部他人の手柄になるなんて、悔しくないか?」


「えぇ、そうね。そしてそれは、あなたの失態よね」

 頭が痛そうにジョアンナ様がおっしゃいます。


「いえ、ブライアン様、目的を履き違えてはなりません。イベント、『対抗戦』ですか、それを実施すること、そこで令息たちの親睦を図ること、それが大事なのであって、誰が提案したとか言い出したとかは、些末なことです」


 本当にブライアン様は、伯爵令息らしくありません。ご次男だからでしょうか。友人でもないわたくしを同等の存在として扱って気遣ってくださってのことだというのは理解できますし、有り難いことですが、上位者としては無責任というものです。お任せした以上、すべてブライアン様の責任なのです。


「ブライアン様は、『対抗戦』の企画はすべて“あの方”によるものになったと、言ってくださればいいのです。そうすれば、わたくしは、学生会入りしたとはいえ一部に反感がある彼女の手柄にして周囲を鎮めるためと考えたでしょう。お任せした以上、それについてわたくしが理不尽と思うことはありません」


 ブライアン様は、わたくしの言葉に愕然とした後、頭を抱えられました。


「あぁ、俺はまた間違えたんだな。自分の悔しさをレティシア嬢に押し付けようとしたのか……。そうか、彼女の手柄にすることは、そういう風に考えられるんだな」


 貴族社会の在り方や考え方に触れることなく、おそらく同等の方々とだけ付き合って、身分差を考えないですむ環境にお育ちになられたのでしょう。高位貴族家の“無邪気さ”を、初めて目の当たりにした思いがいたします。下位貴族を見下すことがないのは美徳かとは思いますが、同時に上位者としての責任感や矜持というものも覚えていただきたいものです。


「そう。あなたは自分の罪悪感を楽にしてもらいたかっただけね」


 ジョアンナ様も容赦がありません。下位者のわたくしがいる場であえてブライアン様への小言をおっしゃるのは、もしかして伯爵令息教育の一環だったりするのでしょうか。わたくしの立場とは一体……。


「こちらからお誘いしておきながら悪いけど、今日はこれで失礼するわ」

 ブライアン様の腕を取って立ち上がらせ、ドアのほうに向かわれます。

「機会を改めてお詫びさせていただくわ」

 情けなさそうな笑いを張り付けたジョアンナ様は、ブライアン様にまともに挨拶を言わせる間もなく引きずって行ってしまわれました。


 ご褒美が遠のきました。




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