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ゲームを知る者

 ブライアン様方との会談からしばらくたって、「学生会が休み時間や放課後の修練場で人を集めて変な遊びをしている」という噂が聞こえてきました。ご紹介したゲームを試していらっしゃるようです。見物人も結構集まっているようで、わたくしもクラスメートと誘い合って行ってみました。


 一般に、体を動かすことには何らかの目的があります。剣術、槍術、弓術、棒術、格闘技等々の訓練、またそれらが上達するための走り込みをはじめとする基礎鍛錬などです。逆にいえば、体を鍛える目的以外で体を動かして競い合うことがありません。

 ブライアン様に紹介したゲームは、あまり意味のない、言ってしまえばバカバカしいような動きで競い合う、というのが新鮮なようで、皆さま楽しそうに、ときにはムキになってやっていらっしゃいます。飛び入りで参加する方や応援やからかう声が飛び交い、あまりこれまでの学院にはなかった雑然とした雰囲気です。ですから、その様子に眉を顰めたり、軽蔑したような目で見る人もいます。


 でも、貴族令息たちが集団で無邪気に笑い、子どものように戯れているようなありさまは、めったなことでは見られない光景で、少しばかり胸が高鳴ります。いつもは不快に感じる女子学生の甲高い声にすら楽しさが増します。剣術の試合などでは周囲にも緊張感が漂い、息をすることさえ躊躇われます。それに比べれば、なんとおおらかで楽しいことでしょう。

 いろいろな目的はあるのですが、イベントが実現すれば、単純に面白いに違いありません。

 ブライアン様には頑張っていただきたいものです。


 修練場で連日の“お試し”が続く中、マリアンヌ嬢の学生会入りが密やかに伝わってきました。学生会役員は、令息や令嬢、平民も憧れの方々ばかりですから、妬み嫉みもあるようですが、貴族令嬢より平民の女子学生のほうが、目に入るようにヒソヒソするとかわざとぶつかってみるとかあからさまのようです。

 

 貴族令嬢の輪の中には入れず、平民からも嫌われ、学生生活でかなり苦労されているのではないでしょうか。


◆◆◆◆


 冬の社交シーズンが始まりました。雪に閉ざされるような領地から多くの貴族家が王都に出てきて街中がずいぶんと賑やかになった頃、ジョアンナ様に誘われて「ソラガメ」に来ました。後でブライアン様もいらっしゃるようです。


「なんだか、あなたに伝えたいことがあるっていうの。たぶん暑苦しい内容だろうけれど、付き合ってやって。二人だけで会わせるわけにもいかないから、今日のわたくしは付き添いよ」


 ジョアンナ様は朗らかに笑っておっしゃいました。

 暑苦しい内容……。もしかして、先日お話ししたことへの“ご褒美”のお話でしょうか。


 わたくしを誘うことをロクサナ様にご相談されたそうで、この店の個室を薦められたそうです。この店であれば、わたくしは通用口から入りますから、表向きは「ジョアンナ様とブライアン様が『ソラガメ』で会っていた」というだけです。そう思うと、「ソラガメ」を開いておいて良かったのかもしれません。

 ……あ、いえ、わたくしを都合よく使おうという人にとって、ですね…………。


 少し遅れてブライアン様がいらっしゃると、ご無沙汰していますの挨拶もそこそこに、いきなり聞いてこられました。

「レティシア嬢は、『騎馬戦』や『棒倒し』を知っているか?」


 おや。それは、この間思い付いたものの紹介しなかったゲームです。


「知っておりますが、目的に合わないと思って外したものです。ブライアン様はどなたからお聞きになったのでしょうか?」


「マリアンヌ嬢から聞いたのだ。彼女は先日レティシア嬢が教えてくれたゲームを全部知っていて、なぜ騎馬戦や棒倒しはしないのかと聞かれてな」


「内容をお聞きになりましたでしょう? 騎馬戦は自分が馬になって人を乗せるという形式を貴族令息が嫌がられるでしょうし、棒倒しも平民だけが棒を守って貴族令息はみな攻め手になりたがると思われましたから。それにどちらも騎士の戦いを模しておりますから、教練や模擬戦に取り入れるのはともかく、今回のような交流や連携を目的としたイベントには相応しくないと考えたのですが……」


「ああ、学生会でも似たような意見が出たよ。それで、(彼女は)他に『綱引き』と『大縄跳び』を提案してきた」


「いいですね。綱引きも大縄跳びも単純ですが、呼吸とタイミングを合わせる必要がありますから、ぴったりですわ」


「やはり、知っているのか。あと、『旋風』をなんで『タイフウノメ』じゃないんだと言っていたが、分かるか?」


「『タイフウノメ』、ですか? もしかしたら、人によって呼び名が違うのかもしれませんね。でも『タイフウノメ』って何のことでしょう? 聞いたことがありません」


「そうか。人や地方によって呼び名が違うのかもしれないな。彼女も冒険者から聞いたと言っていたから、きっと一部では有名なゲームなんだな」


 腕を組んで何度もうなずくブライアン様ですが、わたくしは心の内で静かに興奮していました。

 あのゲームの数々を知っている人がいる! わたくしの思い付きではなかった! きっともっとほかにも知っている人がいて、わたくしの知らないゲームもたくさんあるにちがいありません。わたくしも、きっといつか誰かに聞いたことを思い出していただけなのです。危ないことにならなくて良かった!


「ところで、ブライアン様、ご注文はいかがされますか? 先日のブライアン様のご様子から、この店ではメニューをちょっと変えたようですよ」


 これまで「ソラガメ」の軽食メニューは、サンドイッチやホットサンド、スコーン、スープなど、塩味のスイーツというか小腹を満たす程度のものだったのですが、女性と一緒にいらっしゃる男性のお客さまもいらっしゃることから、ニョッキなどのパスタやボリュームのあるサンドイッチなど“お腹に溜まる”メニューを充実させ、ビッグサイズも用意しました。やはり隠れた要望はあったようで、実は女性のお客さまにも喜ばれているようです。


 ブライアン様にも喜んでいただきましたが、それでもいくつものメニューをオーダーされました。いったいどれだけお腹が空いていらしたのでしょうか。テーブルを覆いつくすお皿を見たジョアンナ様とわたくしは、少し呆れて顔を見合わせてしまいました。




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