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ゲームあれこれ

 ケインズさんに念入りに謝ってから、先にいた個室に戻ると、テーブルの上にあったスイーツや軽食の皿はすべて下げられ、新たなお茶が用意されていました。お茶を入れてお配りした後、改めてブライアン様に失礼をお詫びいたしました。


「ご協力ありがとうございました。いろいろ失礼の段、申し訳ございませんでした」


 頭を下げ続けるわたくしに最初に声をかけてくださったのは、やはりロクサナ様でした。

「気にしなくていいわよ。もとはといえばブライアン様の勝手な言い分を聞いてのことだし、見ていてもなかなか楽しかったわ」

「ブライアンも子供みたいに楽しんでいたんじゃない?」

 ジョアンナ様も援護してくださいました。


「あの面白さと難しさは、実際にやってみないと分からなかったからな。気にしなくていいとケインズにも伝えておいてくれ。それで、ああしたゲームの着順を集団ごとに競い合うというのも、なかなか面白い案だと思う。他にも変わったゲームを知っているんだろう?」


 ブライアン様のお許しを得て、わたくしは安心して他のゲームについてもご説明しようとして、ハタと止まりました。連携が必要なゲームがどのようなものかはご理解いただきましたが、肝心の全体像をお話していなかったのです。


「他のゲームをご紹介する前に、最初の課題に立ち返って、この計画の全体像をご説明いたします。まず、2人3脚や馬跳びのようなゲームで競い合うことを、学院の、もしくは学生会主催の公式イベントとして、男子学生強制参加で大々的に行っていただきたいのです」


 否が応にも下位貴族令息に高位貴族令息と交流させることが一番の目的ですが、マリアンヌ嬢への意識をそらすこともできます。現状は、マリアンヌ嬢という間接的な理由で高位貴族子女への反発心を高めていますが、自分たちが直接高位貴族令息と関わらなければならなくなったら、マリアンヌ嬢を言い訳にすることはできなくなります。


 公式イベント化という大がかりな計画ですが、そうすることで一番の目的の強制力を高めると同時に、目的自体を隠すことができます。また、女子学生が観戦するとなれば、手を抜いて適当なところでごまかすより、少しでも格好いいところを見せたいとやる気になって、積極的に協力し合うようになると推察いたします。


 高位貴族令息へのメリットもあるかもしれません。

集団のリーダーは、高位貴族令息が務められることになるはずです。彼らにとって、将来人の上に立つ者としての指導力、統率力を養う場となるのではないでしょうか。


 ガルガル団を抑えるための計画として説明していたのに、いつの間にか身分を問わず協力し合う場として、王立学院のイベントとして相応しいものになってしまいました……。話している自分でもびっくりですが、どうしてこうなった?


 しかしさすがに、高位貴族令息への批判になりかねないことを言いそうになったところで、止めることができました。

 学院で平民の学生と親しくされている方は少なく、多くの方は、平民という一括りで捉えられていることと思います。同じ集団の中で平民だからと見下していると、集団としてのまとまりに欠け、勝利から遠のきます。勝てないリーダーに誰が付いていくというのでしょう。自分たちが導くべき平民を一人ひとりの人間であると認識することで、視野が広がるはず、なんてことを思っていても、子爵子女にすぎないわたくしが言っていいことではありません。不敬罪になってしまいます。


「素晴らしい! レティシア嬢、最高だ!! ぜひにも、学生会に諮らせてもらうよ」

 言葉を飲みこみ、固まってしまったわたくしに、ブライアン様から最大級の賛辞と拍手までいただきましたが、話を広げすぎたような気がして、内心焦りながら視線をあちこちにさまよわせてしまいました。


「大丈夫よ、レティシア。興味深い計画だわ」

 わたくしの様子に気が付かれたロクサナ様から優しい声が掛けられました。しかも、いつの間にかノートにメモ書きをされています。


「よくこんな案が出てくるわね。それに、ロクサナ様も自然にノートを出されて。こんなことはよくあるのかしら?」

 ジョアンナ様からも一応お褒めの言葉をいただいたようですが、わたくしもロクサナ様がメモを取っていらしたことに驚きました。


「以前、何かの折に祖母が手足の冷えで悩んでいるというようなことを何気なく口にしたら、食べ物や飲み物は何と何がいいとか、身に付けるものは、入浴の際は、普段の生活の仕方まであれこれこうした方がいいということを言ってくれたことがあってね。以来、レティシアが来るときは、必ず侍女がメモ用紙を携えるようになったのよ。今日は侍女がいないし、わたくしがメモを用意しなくちゃ、と思ったわ」


 なんと、そんなことがあったとは。初めて聞きました。申し訳なくて恐る恐るロクサナ様を見ると、悪戯っぽくウィンクを返されました。

 あぁ、良かった。少なくとも厭われてはいないようです。


「それで、他のゲームについてだが……」


 ブライアン様からのお尋ねに、4人くらいが長い棒を持った横並び状態で途中にある障害物をグルっと回ってから折り返し地点で戻ってくる「旋風」、各集団の1人が籠を背負って逃げ回り、追いかけながら他集団の籠に草で編んだボールやミニクッションを投げ入れる「玉入れ」、縦に並んだ4~5人の足を紐などで繋いで走る「ムカデ」などを紹介しました。コース上に設けられた土魔法による壁や細い一本道、氷魔法で固めたツルツルの地面、水魔法によるドロドロの沼地などの障害物を越える「障害物走」なども面白いかもしれません。


 本当ならわたくしもやってみたいのですが、貴族令嬢として品位に欠けると止められるでしょうし、一緒にやってくれそうな人もいません。もっと子供の頃なら、きっとできたのかもしれません。今度、領都の孤児院慰問に行った折に、あの子たちと一緒にやってみましょう。子供遊びに付き合っている、ということにすれば、大丈夫、かも。





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