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直接争わせる

「問題が解決するとは申せませんが、直接争える場を設ければよいのですわ」


 ぽかんとしたお三方を前に、わたくしの思考は止まりません。


「学年別、では多少なりともお互いを知っている上級生の方が、有利ですわね。いっそ学年もクラスも混ぜ合わせたほうがいいかもしれません。あ、そうですわ。ガルガル団には2年生もいましたし……」


「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」


 久しぶりの感覚です。いろいろな考えが先へ先へと進み、あれやこれや結び付いて広がりを持って、ワクワクしながら意識がどんどん進んでいくに任せていたわたくしを、ブライアン様の大きな声が止めました。


 きょとんとしたわたくしを、唖然としたお三方が見つめています。


「そもそも、彼女の周りの子息たちを止めたいという話なんだ。それを“直接争わせる”というのは、どういうことだ? そんなことできないから、なんとかしたいと言っているんだが」

 怪訝そうにブライアン様はおっしゃいます。

 

 あら、やってしまいました。一人で思考だけが先走りました。

 思わず、手で口を覆って、上目遣いにブライアン様を見上げて……、おっと、いけません。無作法な……。先ほどからのブライアン様の貴族令息らしくない振る舞いに、わたくしも油断したようです。


 一つ空咳をして、順番にゆっくりと言葉にしていきましょう。


「ブライアン様は、ネヴィル公爵家やシュヴェリーン家、あるいは他の貴族家でのパーティーにご出席になったことがおありでしょう。では、その際、普段から仲のいいご友人以外とどのくらいお話になりますか?」

「そ、それは……。親しい友人以外とは、あまり深く話はしないな。もちろん挨拶はするし、雑談程度には付き合うが……」


 いきなり話題を変えた質問に一瞬ひるまれたようですが、素直にお答えになりました。お答えいただいたのはありがたいのですが、真面目で寛容すぎて、身分が下のわたくしの無作法に対して、それでいいのでしょうか。わきまえもなく、ブライアン様の将来にふと不安を覚えました。


「パーティーに出席されている子爵、男爵令息の顔と名前が一致していらっしゃいますか? 彼らがどういう性格かご存じですか?」


 続けての問いにブライアン様は言葉に詰まられましたが、答えを期待したわけではないので、話を続けます。


「先ほど、ブライアン様は『貴族令嬢は普通にそう考えるのか』と聞かれました。つまり、わたくしどもがどのように考えるかの基本をご存じないのだと思いました」


 高位貴族令嬢が何をどのように考えられるかを理解しようとすることは、下位貴族令嬢の社交において、習い性のようなものです。

 貴族令嬢は、お茶会という場でいろいろなことを学びます。高位貴族令嬢主催のお茶会では、下位貴族令嬢であっても高位貴族令嬢と親しくお話しする機会があります。下位貴族同士のお付き合いもありますので、お会いしたことのない高位貴族令嬢の人となりも伝わってきます。中には、高圧的な方もいらっしゃいますが、ロクサナ様のように下位の令嬢に気を配ってくださる方もいらっしゃいます。すべての方と仲良くなれるわけではありませんが、誰がどのような性格か、どのような考え方をするかを知った上で、どんな場でどなたとお会いしても、角を立てずに淑やかに付き合う術を磨くのです。その方の言葉の裏にどのような意図があるのかをいかに正確に把握できるかで、身分に関係なく社交上の地位も変わってくるのです。


 先刻のわたくしたちのやり取りを静かに見守っておられたロクサナ様とジョアンナ様の様子から、わたくしがどのように答えるのかが分かっていらして、貴族令嬢のお付き合いの要諦の一端をブライアン様に示されたのだと思います。言葉にされていないことへの考察は、穏やかでありながらもキ・ビ・シ・イ貴族令嬢のお付き合いで鍛えられます。


 それを不思議に思われたということは、ブライアン様がそうしたお付き合いの経験がないからでしょう。伯爵令息という地位にあるからなのか、貴族令息の一般的傾向なのかはわかりませんが、件の令息たちも、高位貴族子女と親しく付き合ったことがないために一絡げにして目の敵にしているのでしょう。そうであれば、高位貴族令息と無理やりにでも交流させて、高位貴族にもいろいろな方がいらっしゃることを分からせればよいのです。令息同士であれば、お茶会というわけにはいきませんから、そこは体を張っていただきましょう。


「いや、だからなんで争うことが交流になるんだ!」

 わたくしの説明に、ブライアン様の声が大きくなりました。


「殿方は和やかに話し合うより、競い合って勝つことがお好きですよね? 一緒になって競い合えば通じ合うものがあるのではないですか?」

 困惑したブライアン様と、言っていることが通じない不思議に首が傾いたわたくしが見合ったままのところに、ロクサナ様のため息が入りました。


「レティシア、どうやって競うのかを説明していないから、ブライアン様は殴り合いだと思っているようよ」

 憮然としたブライアン様と呆然としたままのジョアンナ様を横に、ロクサナ様はどこか面白そうにわたくしに声をかけられました。


 あ、また先走ってしまったようです。思わず目を見開いてしまいました。


「ところで、“ガルガル団”って何?」

 あ、ロクサナ様、そこは聞かないでくださいまし。




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