6.替え玉
誕生日会から数日後、10歳になった私は今までと変わらない日常を過ごしていた。
王都の貴族街に建てられたヴォーパル亭の屋敷から中央の王城近くにある貴族学院の初等部に通い、そこの授業をメイドであるシンデレラに代筆させて自分は昼寝しつつ、寝て食べて遊ぶだけの、特に変わり映えの無い日常を過ごしていた。
そんな中で、あれから一つだけ変わった事と言えば。
「・・・お嬢様、勉強も運動も真面目にしない割には、お祈りだけは毎日欠かさずになさるようになりましたね、どういう心境の変化が?」
学校が終わった帰り道、お祈りをしていつもより遅い帰宅をする事になった私に、シンデレラは馬車の御者をしながらそう聞いた。
「・・・だって、授業は分からないし、運動も疲れるけど、お祈りだけは毎日してても平気だし、それに私も一応、この国の教会組織を取り仕切る枢機卿の娘だし、だからお祈りだけは毎日しなきゃいけないって、そう思ったから・・・」
真面目に生きるという目標を立てたものの、いきなり勤勉で勤労になるのは難しかったが、私は〝女神の寵愛を授かりし者〟だったので、元々信仰心だけは厚かった、という話なのである。
「左様でございますか、ですが、新しい事に挑戦するのはとても良い事だと思います、この調子で、勉強や運動にも挑戦していきましょう、でなければアリス殿下と対等なご友人でい続けられなくなりますから」
「そう、だよね、今のままだったら、アリスちゃんとはどんどん差が開いて、友達ではいられなくなるよね、アリスちゃんは大人顔負けに勉強も運動も魔法も使えて、それで飛び級で大学に行くって話だし・・・」
アリスちゃんはセイクリッドソード王国の第一王女として女王になる為の英才教育を受けている。
もしもアリスちゃんが女王になって私が今のままならば、私たちは一生対等の友達ではいられなくなるだろう。
それを考えたら勉強も運動ももっと頑張らないといけない、そう思うのだが、だがそれ以上に、アリスちゃんは二週間後の誕生日会で死んでしまうという〝夢〟の話、それを考えると勉強も運動も手につかなくなって、それで結局、「私はどうなってもいいからアリスちゃんをお救いください」と祈る事しか出来なくなるのであった。
そんな不安と恐怖に苛まれて、私は寝不足で勉強も運動も手につかないでいたのである。
その事をシンデレラに話して、どうすればいいのかを聞いたら。
「・・・そうですね、私が思うに本当に誘拐事件が起こるのであれば、アリス殿下の身代わりを使うか、お誕生日会そのものを無くしてしまうのはどうでしょうか?、死ぬのが身代わりならばアリス殿下は無事ですし、お誕生日会が無くなればアリス殿下が狙われる理由も無くなるはずですが」
「身代わりって、・・・そんなの身代わりの子が可哀想だし良くないよ、それにシンデレラなら襲ってきたわるものを倒すとか出来るんじゃないの?、超強いんだし」
「そもそも騎士が護衛する王族のお誕生日会に乱入できる時点で、敵は相当の手練ですからね、未知数の敵相手に確実に勝てると言い切る事はできませんし、戦えば必ず被害が出ます、ならば、事件そのものを無くすしか無いのでは無いでしょうか」
「・・・身代わりかぁ、じゃあ私がアリスちゃんの替え玉になるって言ったら、シンデレラは私の事守ってくれる?」
他人に身代わりをさせるのは悪いことだと思ったが、自分がするのならばそれでもいいと思えた。
「はい、私のご主人様、命に懸けてお守りすると約束しましょう、お嬢様が行く先が地獄でも、私はお供しますから」
「・・・ありがとう、シンデレラ、じゃあ準備をしないとね、お父様に新しいドレスのおねだりをしないと」
そう言って私は、アリスちゃんの誕生日に向けて、アリスちゃんを救う為に出来る事を始めたのである。