5.約束
「・・・うぅ、アンちゃん、わたくしももっと一緒にいたいのですが、明日も公務やお稽古事がありますので、これにてお暇しなくてはなりません、非常に口惜しいですが、今日はここまでのようです・・・」
誕生日会が終わって他の招待客を見送るのと同時に、そこで最後まで付き添ってくれたアリスちゃんから、私は別れを告げらてしまった。
「うぅっ、・・・ぐすっ、仕方ないよ、アリスちゃんはお姫様だし、私よりずっと忙しいもんね、本当はもっといっぱい遊んでお話もしたいけど、仕方ないよ・・・」
アリスちゃんは一国の姫として相応しい教養を身につける為に、朝から晩まで沢山の家庭教師に勉強させられて、その上で国賓の歓待や、軍や教会への慰問と言った公務もしている。
アリスちゃんからすれば私の誕生日会に参加するのも貴重な自由時間の合間を縫った僅かな時間をやりくりしての事であり、それを独り占めする事は、私の我儘ではどうしようも無いのだと、理解していたのである。
・・・本当は、昨日見た〝夢〟の話を聞かせて、アリスちゃんと朝までずっと一緒にいたかったけれど、でも、それは言っても仕方ない事だ、だってアリスちゃんはお姫様なのだから。
いつもならもっと駄々をこねてアリスちゃんにしがみついて離さなかっただろうけど、〝夢〟の影響で、ここで駄々をこねてもどうにもならないと知っていたのだ。
だからアリスちゃんに抱きついて、大人しく別れの挨拶をした。
「・・・それではごきげんようアンちゃん、二週間後のわたくしのお誕生日会には、必ず、必ず来てくださいね、約束ですよ」
「うん、絶対、必ず、死んでも絶対行くから─────っ!!」
私はアリスちゃんと指切りをして、アリスちゃんを見送った。
・・・そうだ、アリスちゃんは二週間後には盗賊に誘拐されて死んでしまう、だからせめて、あんな悲しい結末を辿るくらいなら、今度は私がアリスちゃんの代わりに誘拐されて死んだ方がマシだと、そう思うくらいに、私はアリスちゃんを大切に思っていた。
だからこの約束は、死んでも果たそうと、そう思ったのであった。