4.宝探し
「それじゃあ集まってくれた皆さん、これから一つ、ゲームをします、ルールは簡単、今から私がこのいつも身につけている髪飾りを屋敷のどこかに隠しますので、それを見つけてください!、見つけてくれた人には、〝私がなんでも言う事を聞く権利〟をあげます!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」
私がそう言うと一部の年長のお兄さん達が大歓喜していたが、対照的にアリスちゃんは青ざめた表情をしていた。
「アンちゃん、なんて事を・・・、そんな約束をしてしまったら何を要求されるか・・・、アンちゃんは、それで政略結婚を迫られても平気なんですか!!」
確かに、〝なんでも〟は言い過ぎだったかもしれない、でも、私は全く心配はしていない、なぜなら。
「平気だよ、だってアリスちゃんにしか見つけられないって、そう思ってるから、だからアリスちゃん、絶対見つけてね!」
私はそう言ってシンデレラを連れて、パーティー会場である屋敷の広間から出ていく。
そして髪飾りをとっておきの場所に隠した後に広間に戻り、私は開始を告げた。
「それでは!、ゲームスタート!!」
「よっしゃ!、絶対俺が見つけてアン様にお兄様プレイしてもらうぞぉ!」
「お前みたいな変態に渡すかよッ!、アン様は俺と、48景寺院巡りするんだ!」
「おいおい、〝なんでも〟でそんなみみっちい願い事でいいのかよ、おまえら」
「な、この変態ロリコン野郎、何を要求するつもりだよ、まさか・・・」
「ふっ、そんなの、「語尾ににゃんをつけろにゃん」に決まってるだろうがああああああああああああああ!!!」
「「うおおおおおおおおおおおお!!!猫語のアン様!、公爵令嬢なのに語尾ににゃんをつけるアン様!、にゃんと言って照れるアン様!、絶対見たいいいいいいいいいいいいい!!」」
「なんですかこの変態の方たちは・・・」
不穏な願いを口にする男たちを横目に、アリスは出遅れないようにと広大なヴォーパル亭を駆け巡る。
50人近い招待客だ、時間が経てばアンがどれだけ見つけにくい所に髪飾りを隠しても、いずれは見つかってしまうだろう。
アンが隠したのはヴォーパル家の家紋である龍と剣を象った、白金製の髪飾り。
手のひらに収まる小物とは言え、見つからないように隠すにしても隠し場所には限りはあるだろう。
仮にメイドを使って子供には届かないタンスの上や、重たい本棚の裏などに隠すにしても、ここには年長の男子も来ている訳だし、いつかは見つかってしまう。
ノーヒントで探すならば、的をしぼってあたりをつけて探さないと先を越されてしまうのは確実だ。
だからアリスは思考した、自分の為に体を張ってくれた友達の為に、自分の信じる友情を裏切らない為に、アンの一番でいたいというたった一つの自分の我儘の為に、アリスは必死で頭を働かせたのだ。
(わたくしがアンちゃんの立場だとしたらどこに隠す?、自分の部屋?、いや、そんな真っ先に思いつく場所は避ける筈、部屋を荒らされるのも嫌だし・・・、だったら、疑われない場所、トイレ?、物置?、書斎?、ううん、アンちゃんなら廊下とか、なんなら玄関とか、もっと人の思考の盲点をつくような場所に──────────)
そこでアリスは思い出した。
アンが隠したのは、「屋敷のどこか」。
アンが望んでいるのは、「アリスが見つける事」。
・・・だったら答えは、二つに一つしか無いという事に。
「──────────分かりました!!」
アリスはそのひらめきのままにある人物を探して走り出した。
「・・・はぁはぁはぁ、おかしいですね、屋敷のどこにもいません」
アリスは特製品のドレスが汗だくになるまで屋敷の中を駆け回ったが、目当ての人物は見つからなかった。
他の多くの参加者たちも行儀よく丁寧に屋敷の中を物色しつつも、カーペットの裏をひっくり返す程にすみずみまで家探ししても成果が上がらない事に、歯がゆさを感じているようだった。
そして一旦広間に戻って給仕係のメイドに水を貰って休憩していると、心配するようにアンが近づいてきた。
「大丈夫・・・?、アリスちゃん、ヒントが必要だったら教えるけど・・・」
「必要ありません、答えはもう分かってますから、ただ、あの方が見つからないだけで、アンちゃん、髪飾りはこの屋敷のどこか、に必ず存在するんですよね?」
「うん、それは保証するよ、髪飾りはこの屋敷のどこかにあるし、だからシンデレラもこの屋敷のどこかにいる、まぁ、30分経っても見つからなかったら出てくるように言ってあるから、いざとなれば・・・」
「いいえ、大丈夫です、それだけ教えて貰えば十分ですから、後は、自分で解きます」
シンデレラが持っている、半ば答えを聞いたようなものだが、しかしそのシンデレラが見つからないからアリスは困っていた。
全ての部屋を探したし、廊下をメイドが移動している気配も無かった、だからシンデレラは屋敷のどこかに留まっているのは間違いないが、隠し部屋や地下室のような場所があるのだろうか?。
いや、それもアンの性格から導けば、あまり確率の高い選択肢では無いだろう。
だってそれはあまりにも普通の選択肢だからだ。
アンはかくれんぼの際、いつもいつも、隠れる事よりも驚かせる事を優先していた。
気配を消して私の背後に隠れたり、変装してメイドになって隠れたり、王宮でかくれんぼをした時などは、執務をしている国王の背後に隠れたりしていて、その時は度肝を抜かれたが、それくらい、アンのかくれんぼは常識外れで、規格外だったのだ。
だからそんなアンが、隠し部屋や地下室なんて使う訳も無いし、そして、〝隠そう〟という意識で物を隠す訳が無い。
「木を隠すなら森の中・・・、メイドを隠すなら──────────」
そこで〝答え〟に辿り着いたアリスは、広間の中にいた一人のメイドに声をかけた。
黒髪で眼鏡をかけたメイド、複数人いる給仕しているメイドのうちの一人、でも、アリスはそのメイドに見覚えが無かった。
だからこれは、ヴォーパル家と関わりの深いアリスだけが分かる答えだ、その答えとは。
「──────────変装、してらしてたんですね、シンデレラ様は白髪でとても目立つ出で立ちですから、カツラと眼鏡だけでも別人かと思ってしまいました」
「お見事です、ではこちらを」
そう言って変装を解いたシンデレラは髪飾りをアリスに恭しく手渡した。
アリスはそれを宝物のように握りしめて、アンのもとに駆け寄る。
「・・・これで、わたくしがアンちゃんの一番のお友達だと、胸を張ってもいいんですよね?」
私はアリスちゃんから髪飾りを受け取ると、アリスちゃんに抱きついて言った。
私の一番のお友達が、私の一番である事を示したくれた、これに勝る喜びなんて、私は知らなかったから。
「うん!!、アリスちゃんが、私の一番!、世界一!、一生から来世までのお友達だよ!!!大好き!!!」