2.真面目に生きること
「私が思うに、お嬢様が見た夢はおそらく、正夢なのでは無いのでしょうか?」
「・・・えっ?」
次の日、私はたっぷり昼過ぎまで二度寝をしたあとに。
夜中に叩き起されて徹夜させられたまま朝から私のお誕生日会の準備で働かされて、庭の掃除をしていたシンデレラにそう言われたのであった。
なので私は最初、シンデレラが腹いせに意地悪を言っているのだと思いシンデレラを詰った。
「う、嘘よ、そんな事有り得ない!、だってあんな酷い悪夢が正夢になるだなんて、そんなの絶対おかしいもの!!」
だがシンデレラは私の夢に確信めいたリアル、根拠を感じたのか、不機嫌な態度で怒って見せる私に迷いなくいいのけた。
「お嬢様の夢の中だと、6年後に私は過労死して、そしてお嬢様は成績不振が原因で、裏口で入学した王立学院も中退するんですよね」
「・・・そう、シンデレラは私の16歳の誕生日に特大のケーキと世界一のドレスとついでにパーティーのダンスパートナーをしようとして過労死して、そして私はシンデレラがいなくなったせいで課題の代筆も出来なくなって、周りから〝無能公姫〟と馬鹿にされて、帝国の皇太子にも婚約破棄されてみじめに退学する事になったの、でも、そんなの絶対おかしいでしょう!!」
「・・・いえ、私が思うに、私は今のままでは確実に過労死しますし、そして、お嬢様は今のままでは確実にダメ人間になるでしょう」
「そんな!、だってシンデレラはなんでも出来ていつでも私を助けてくれるスーパーマンでしょ!!、それにずっと私を支えてくれるって言ったのに!!」
もしあの夢が正夢になるであれば、私はこれから大切な人たちを全て失う事になる。
それを思い出した私は思わず号泣し、縋り付くようにシンデレラの胸に抱きついた。
そしてシンデレラは、そんな私を突き放すでもなく、優しく頭を撫でてくれて、そして諭すように囁いた。
「・・・私も、お嬢様に頼られる事を嬉しく思いますし、お嬢様をこれからも支えていきたいと思います、ですが、いくら私が〝ハーフエルフ〟で人より強い体と心を持っていると言っても限度はありますし、それに今のままではお嬢様がダメ人間になってしまうというのも、それは間違いなく起こりうる現実でしょう、ですからそれはきっと女神様がお見せになられた、これから起こりうる予知夢なのでしょう」
予知夢、これから起こりうる現実を見せるという夢の事だ、女神の寵愛を受けている私ならば、女神様の奇跡を受ける資格がある為に、そういう非現実的な奇跡が起こっても不思議では無いが。
「そんな!!、じゃあ私は!!、またあの地獄みたいな人生を送る事になるの!!、大切な人を全て失い、誰からも愛されないそんなひどい未来が私の現実なの!!そんなの嫌!!いやいやいやいやぁっ!!!」
私はシンデレラの胸にきつく抱きついた。
この優しい温もりとも6年後にはお別れしないといけないと思うと胸が締め付けられて、悲しさがあふれて涙がとまらなくなる。
そう思うとただの悪夢だと思っていたあの夢の事をまた思い出して、私は苦しさで一生分の涙があふれてきそうになった。
そんな私をシンデレラは優しく抱きとめて、また語った。
「ならばお嬢様、今日から〝生まれ変わり〟ましょう、今のままではダメだと、本当にそう思ったのであれば、今日からは真面目に生きるように努力するのです、そうすればきっと、お嬢様は悲劇の運命を辿らずに済むはずです」
「真面目、に・・・?」
その言葉で私は思い出した、夢の中の私は死ぬ間際に、生まれ変わったら真面目に生きると、そう宣言していた事をここで思い出した。
「ええ、女神様もきっと、怠惰で不真面目なお嬢様をお救いになるのは、それは奇跡を起こしても難しい事だったのでしょう、ならばこれからは、大切な人を失わなくても済むように、せめて大切な人たちを守れるだけの強さを持てるように、女神様のささやかな奇跡だけで人生を救えるように、ほんのそれくらいの努力をしてみるのはどうでしょうか」
「大切な人たちを、守る・・・、でも、それはとても難しい、だって、私の大切な人達はみんな、私の知らない所で死んじゃったし、それに、私は勉強も運動も、決して得意では無いから・・・」
「戦うだけが力ではありません、それに、公爵令嬢という地位だけでも世界と戦えるだけの力を身に付ける事は出来る筈です、この世界が革命に進んでいるというならば、先ずはお嬢様、それを防ぐ為に努力するのがよろしいのでは無いでしょうか」
「・・・難しくてよく分からない、それでシンデレラ、私はどうしたらいいの?、どうしたら私は大切な人を失わなくて済むの?」
正直私は夢の中で一部始終を見ていても、なんで平民が貴族を憎んで、なんで革命が起きたのか、全く理解していなかった。
だからシンデレラが革命を止める為に努力すると言っても、何をすればいいのかさっぱりだったのだ。
結局今の私は変な夢を見ただけの10歳の少女に過ぎないのだから。
それに対してシンデレラは軽く思案した後に、こう言った。
「・・・それでは先ずは、お嬢様にしか出来ない事を伸ばしていきましょう、きっとそれが、お嬢様にとって一番の力になる筈ですから」