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第47話 サイレント、アリアに『冒険者』をかたる

前回のあらすじ


 サイレント、人狼を追いかけずに宿屋で籠城をきめこむ。

 サイレント、カマテの無残な亡骸を見つける。





 

「ごめんなさいデス、師匠。アリアのせいデス。アリアがカマテさんにかまっている暇なんてないなんて言わなければ、今頃、師匠が護衛をして、カマテさんは、人狼に襲われなかったかもしれなかったデス」

 アリアは泣きじゃくりながら、ボクに謝ってくる。


「それは違うよ、アリア。これはボクの責任だ」

「そんなことないデス、アリアのせいデス」


「アリア、冒険者になると、一番最初に習うことがある……なんだか分かるかい?」

「見当もつかないデス」


「それは、自分の判断を他の人のせいにしないことだ」

「自分の判断や決断を他の人のせいにしない……デスか?」


「そう。冒険者は常に選択の連続だ。敵と遭遇したら、戦うのか逃げるのか、戦うなら速攻するのか、敵の攻撃を見極めてからカウンターをするのか、判断の連続だ」

「そうデスね」


「その判断をミスすれば、ケガをする。運が悪ければ死んじゃうかもしれない。でも、それは判断を誤った自分の責任だよね?」

「もちろんデス」


「今回の件でいうなら、アリアがカマテさんを警護する必要がない……と言ったとしても、カマテに命の危険があると判断したなら、ボク一人だけでも護衛につく必要があったんだ。それをしなかったボクの判断ミスだ」

 そう、これは誰がなんと言おうとボクのミスなのだ。


「そんなの納得できないデス」


「納得できないかもしれないけど、それが冒険者ってもんさ」

「それが冒険者デスか……」


「だから、アリアは何も責任を感じる必要はないんだよ」

「師匠の言っていることは分かるデスが、うまくのみこめないデス」


 えー、そこは納得してよ、アリア。

 せっかく、格好良く背中で語ったのに……


 あれ、でも、待てよ。

 ボクの話をうまくのみこめないんだから、このまま悩んでもらった方がいいんじゃないか?


 そうだよ。

 そうすれば、カマテの無残な死体を見せる必要もない。


「アリアは近くのレストランとかカフェとかで、食事でもして少し休んでいて」

「アリアだけそんなことできないデス……」


「アリア、今、君は動揺しているんだ。その童謡を落ち着かせるためにも、少し一人になる時間が必要なんだ。後で迎えにいくから」

 ボクはアリアに諭した。

「分かったデス」


 ボクはアリアと一旦別れて、カマテが居たところへと向かう。


 遠くで、うつむきながら歩く一人の女性。


 あれは、宿屋のおかみさん!

 他の村人に見守られながら、おかみさんはカマテの元へとたどり着く。


「カマテ……」

 おかみさんは血まみれのカマテを抱きかかえながら、力なくつぶやいていた。

 既に血液は乾ききっていて、おかみさんが血だらけになることはなかった。


「この度はご愁傷さまでした」


「「「ご愁傷さまでした」」」

 ボクの言葉を皮切りに他の村人たちも次々にお悔やみの言葉を添えてくる。


「みなさん、お心遣いありがとうございます。息子のためにも、今すぐ埋葬いたします」

「埋葬ですか?」


「はい、あの子の遺言なんです。『もしも、僕が死んでしまったら、僕が作った棺で1秒でも早く埋葬して欲しい』……と」


 そう言うと、おかみさんは何事もなかったかのようにカマテの亡骸を車いすで押して、スタスタと歩く。

 村の人たちはおかみさんのために道をあけた。


 ボクはすれ違った時に、カマテの遺体をちらりとみる。

 カマテのお腹からは、ナイフの柄がでていた。

 おそらく、刺されて失血死したのだろう。


「あの、カマテが作った棺って何ですか?」

 ボクはおかみさんに後ろからついて行きながら質問をする。


「それは宿屋に行けば分かります」

「そうですか」

 ボクはそのまま宿屋までついて行った。


「これが棺です」

「なんだ、昨日カマテが持っていた木製の箱じゃないか」


「そうです」

 おかみさんは頷くと、棺の上蓋を開け、丁寧にカマテの死体をゆっくりと丁寧な動きで棺の中に入れた。


 カマテとは別に、白い袋を入れるおかみさん。


「何ですか? その袋は?」

「その袋はカマテの工具です」


「工具?」

「カマテの適性職業は細工師です。この工具も忘れずに棺に入れて欲しいということでした」


「そうだったんですね……あれ? この棺、底の方に穴が開いてる」

 棺の底には、ボクの小指が入るか入らないか程度の穴が開いていた。

 穴の状態からして、最近開けたようだ。


「きっと、カマテがあけたんですよ……そんなことよりも、副村長さんを呼ばないと……」

「副村長ですか?」


「遺体を埋葬する時には、村長さんか副村長さんを呼ぶ。この村のしきたりです。今は村長が亡くなられているので、副村長さんを呼ぶしかないんです」

「そうなんですね。あ。それなら、ボクが呼んできましょうか?」


「それなら、お願いできますか? 急いでいるので」

「分かりました」


 ボクは副村長の家へと走り出した…………のだが、また迷ってしまった。


「どうしよう、アリア」

 ふりかえるが、そこにアリアはいない。


 当たり前か。

 アリアとわかれたままで合流していない。


 さて、どうするか……


「師匠、どこへ行くんデスか?」

 ボクは走りながら考えていると、カフェの玄関先にあるイスに座って、優雅にお茶を飲んでいるアリアがいた。


「今から、副村長の家に行くんだよ、アリア!!」

「師匠、ここだと、副村長の家とは反対方向デスが……」


「それはそうだよ、アリアと合流してから副村長の家に行く予定だったからね」

 ウソだけど。


「そうだったんデスね。それなら、早く行くデス」

 アリアが先導してくれたおかげで、すぐに副村長の家へとたどり着く。


 アリアと合流できてラッキーだったな。

 あまりタイムロスにはならなかったはずだ。


「副村長いますか?」

「副村長なら、先ほど、宿屋へと向かいました」


 あっちゃー、すれ違っちゃったか……


「アリア、宿屋へ戻ろう」

「分かったデス」

 ボク達は宿屋へと走った。


忙しい人のためのまとめ話


 サイレントとアリア、カマテの死について責任を取り合う。

 サイレント、カマテの埋葬を手伝おうとする。

 



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