第40話 サイレント、捜査令状を受け取る
前回のあらすじ
サイレント、昨晩のことを村人に訊くが、誰も答えてくれない。
副村長に訊いたところ、昨晩、おばけ騒動と墓荒らしがあったことを知る。
「そうですな。私が村長を追いかけているほぼ同時刻に、墓荒らしが起きたらしいので、人狼一人ではできないはずですな」
「……ということは、人狼が村長になって村人を驚かせている間、そのどさくさに紛れて、人狼ではない誰かが村長の墓荒らしをしたということデスか?」
「そういうことになりますな」
「人狼が村長に化けて恐怖を食べようとしたことはわかるけど、人狼ではない誰かは、何でどさくさに紛れて墓荒らしをしたんだろう?」
「村長の腕飾りかもしれないですな」
「腕飾り?」
「ホバッカの村では、村長が在任期間に亡くなった時、高価な腕飾りを腕につけたまま、埋葬するんですな」
「なるほど、腕輪目当てというわけですね?」
「おそらく、そうですな」
「ただ、不思議なんですな」
「何がですか?」
「腕輪を盗んで、犯人は何がしたいか分からないんですな」
「それはお金に換えるんじゃないの?」
高価な腕飾りなら、すぐに売れるだろう。
「換金しようにも、この村で換金しようものなら、すぐにばれてしまいます」
「それなら、他の町や村で換金すればいいじゃない?」
「この村は今や厳戒態勢。嘘発見調査官までいるんですよ? どうやって、村から外に出すんですかな?」
「それなら、腕輪を村のみんなに見せびらかせたかったとか?」
「そんなことしたら、すぐに捕まりますな」
「それもそうだ」
「ほとぼりが冷めるまで、隠し持っているつもりなのでは?」
「リスクが高すぎますな。嘘発見調査官が調査すれば一発でバレてしまいますしな」
「それなら、村の外の人間の仕業なんじゃないの?」
「もし、そうだとしたら、村長の腕輪をしているのを知っている外部の人間になりますな」
「そうだよ。きっと、昨日の葬式に出た、外部の人間だよ」
「いるにはいますな……でも、犯人だとは思えませんな」
「そんなことないよ。絶対にその人が犯人だよ!!」
あり得ないことを消去していって、最後に残ったのはどんなにあり得なくても、それが真実だって、ラカンも昔言っていたしね。
「自白されるんなら、そうなのですな」
「自白しているなら、決め手じゃないですか!!」
「おーい、誰か、ここにいる二人を捕まえるんですな」
ん? ここにいるって。どういうこと?
「……って、ちょっと待って。それって……」
「あなたたちですな」
「いやいや、ボク達じゃないよ。ボク達を疑う前に旅の一座が宿屋に泊まっていたよね? そっちに訊いてよ」
「旅の一座は葬儀中に劇の公演で忙しく、腕輪を確認することなどできませんでしたし、そのことは嘘発見調査官の裏付けもありますな」
さいですか。
「それなら、来賓は? 村長が亡くなったんだから、他の町とか村から代表の方々がくるんじゃないの?」
「魔物に襲われたという不名誉を近隣の町や村には連絡するわけにもいかず、昨日、緊急で埋葬したため、あなたたちだけですな」
「ボク達、犯人じゃないからね」
「今しがた、自白をしたのにも関わらず、往生際が悪いですな」
「いやいや、ボク達、昨夜は宿屋にいて、宿屋からは出ていないもん」
「そうだったのですかな?」
「そうですよ、宿屋のおかみさんに確認してみてください。もしそれでも疑うようなら、嘘発見調査官の前で誓っても良いです」
「そこまで言うのでしたら、信じますな」
良かった。
昨晩、宿屋からでていなくて。
これで宿屋から出ていたら、疑われていたどころの騒ぎじゃなかったぞ。
絶対に捕まっていた。
さすが、おかみさん……いや、おかみ様!!
「これでは墓荒らしをした犯人が誰かまったく分かりませんな」
「そうですね」
ボクはこくりとうなずく。
「結局、ふりだしに戻りましたな」
「そうですね」
ボクはもう一度うなずいた。
「でもまあ、人的被害はありませんでしたし、あと2日もすれば、あなたたちが人狼をあぶりだしてくれるのですから、問題ないですな!!」
あーはっはっはっ……と笑う副村長。
「……そうですね」
そんなことはないんですけどね……とは言えずに、副村長の方は見ずに、ボクは同意した。
「師匠、どうするデスか? 捜査は全然進んでないデスけど……」
アリアは小声でボクに訊いてくる。
「今、何か言いましたかな?」
副村長の一言で空気がピリッとする。
これはまずい。
捜査が何も進展していないことがバレたら、また檻の中に入れられるかもしれない。
はやく誤魔化さないと。
「アリアは、人狼の証拠が残っているかもしれないので、墓荒らしの目撃者に話を訊きに行こうと言ったんです」
ボクは真っ赤なウソで押し切る。
「師匠、アリア、そんなこと言ってないデス」
「いいえ。言ったんです。目撃者に話を訊きに行って良いですか、副村長?」
ボクは強引に話を進める。
「ええ、もちろん。今の時間なら目撃者は墓場にいるはずですな」
「よし、墓場に行こう。今すぐ行こう、アリア」
「分かったデス」
「私も同行しましょうかな?」
でっぷりとしたお腹をぱちんと叩く副村長。
この人と一緒に行くとなると移動時間がいつもよりかかりそうだ。
それに、嘘発見調査官が来てしまったら、嘘がつけなくなってしまう。
この人を連れて行くことは、デメリットしかない。
「申し出はありがたいですし、一緒に行きたいですが、わざわざ副村長が出張るまでもない案件ですので、ボクとアリアで行くことにします」
「それなら、捜査令状を渡しておきますな」
「捜査令状?」
「墓守の二人には、墓荒らしの件も口止めしてありますからな。捜査令状がないと口を割らないでしょうからな」
副村長は懐から紙を取り出した。
「こ、これは……ちり紙ですか?」
「これが捜査令状ですな!! ここに『捜査令状』と書いてあるでしょう」
怒鳴りながら、捜査令状を差し出す副村長。
「あ、本当だ。文字が書いてあることに気づきませんでした」
本当は文字なんて読めないんだけどね。
「そうと分かったなら、はやく受け取るんですな。それとも、捜査令状はいらないんですかな?」
「いります。ありがとうございます」
ボクは頭を下げながら、捜査令状を受け取った。
「それでは師匠、行くデス!!」
「うん、そうだね」
ボク達は副村長の屋敷を出た。
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、墓荒らしをしたと副村長に疑われる。
サイレント、副村長から捜査令状を受け取る。