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第37話 サイレント、宿屋の息子の護衛を申し出る

前回のあらすじ


 ホバッカ村では、噂が広まるのがはやい

 サイレントとアリア、宿屋の息子カマテから人狼の目撃情報を得るが嘘だと判断する。





 

「もしも、男の子が言っていることがウソだったとして、どうしてあの男の子はウソをついたんだろう……」

 嘘をつくには、何か理由があるはずだ。


「うーん、おそらく、大人にかまって欲しかったからデスかね……」

「それなら、ボクたちがかまってあげようよ」


「正気デスか、師匠。人狼を見つけられなかったら、アリア達は煮るか焼かれるかするんデスよ? ウソつき少年をかまうよりも、真実にたどり着く確かな情報を得たほうがいいデス」

「確かにそうだね。でも、気になるんだよな……だって、村に侵入した魔物が人狼だって当てていたんだよ」

 ボクは頭をポリポリとかく。


「それは偶然デス。たまたま嘘をついたのが当たっただけデス」

「偶然にしてはできすぎているんだよな……もしも、カマテの言ってることが本当だとしたら、狙われるのはカマテなわけでしょ?」


「本当ならそうかもしれないデスが、絶対に嘘デス」

「そうかもしれないけど、やっぱり、気になるからカマテを探してみよう」

 ボクは部屋から飛び出す。


「待ってくださいデス、師匠」

 アリアは結局ボクについてきた。


 ボクは部屋の外に出ると、すぐさま気配を探る。

 宿屋のカウンターに一人、外に一人。


 どちらも座っているけど、気配の大きさからして、きっと外にいる方がカマテだろう。


 ボクは外へ飛び出す。


 カマテは宿屋の庭先で洗濯ざおに干された洗濯物をとりこもうとしていた。

 車いすに乗ったまま竹竿で、洗濯物をとろうとするのだが、うまく洗濯物に手が届かず、四苦八苦していた。


 大変そうだな……


「はい、どうぞ」

 ボクは洗濯物をひょいと手に取り、車いすの男の子にタオルを渡した。


「何で、洗濯物をとったのさ?」

 男の子の口から出てきたのは、ありがとうではなく、ボクを責める言葉だった。


「あ、いや、大変そうだなって思って……もしかして、迷惑だった?」

「同情するくらいなら、見守って、何もしなければよかったのに……」


「ボクはどうしても困っている人を放っておけない主義なんだ」

「偽善者め!」


 なんて口の悪さだ。

 偽善者という意味は分からないけど、ボクに対して怒っているということだけは理解した。


 最近の子どもはこんなに口が悪いのかな?

 いや、でも、ここは冷静に大人の対応をしよう。


「君が狙われてるんなら、守らせてよ」

「守るって、護衛をしてくれるってこと?」

「そうだよ。そうすれば安心でしょ?」


「そういって、高額な護衛料金を請求するつもりでしょ? 偽善者め!!」

「そんなことしないよ」


「タダでボクを守ってくれるってこと?」

「そうそう」


「いい話だけど、でも、断るよ!!」

「どうしてデスか? 師匠が善意で申し出てくださっているんデスよ」

 ボクとカマテの会話を聞いていたアリアが驚きながら尋ねる。


「……いいんだ。襲われたほうが」

 狼に襲われたほうが良いって、どういうことだ?


「カマテ、洗濯物を取り込めた?」

 おかみさんが、勝手口から出てきた。


「今やってる」

 カマテは持っていた洗濯物をおかみさんに渡す。


「ありがとう。そうしたら、廊下を掃除してくれるかい?」

「うん、分かった」

 カマテは宿屋の中へと入っていった。


「あの、うちの息子に何か用でもありましたでしょうか? まさか、また失礼な態度でもとりましでしょうか?」

「いや、そういうわけではないんです」


「それなら、どうして、息子に声をかけていたんですか?」

 おかみさんはいぶかしみながら尋ねてきた。


「それは、息子さんを守らせていただけないか交渉していたんです」

「守る? 護衛ということですか?」


「はい、そうです」

「それは、うちの子が望んだのですか?」


「いいえ、望んではいませんでした。ですので、なんとか説得してくれませんか? あ、もちろん、無料で構いませんので」

「望んでいないのなら、その必要はありません」

 きっぱりとお断りをされてしまった。


「いいんですか? 狼に襲われるかもしれないんですよ?」

「うちの子が決めたことですから……用がそれだけなら、失礼します」


 悲しそうにうつむきながら、おかみさんも宿屋の中へと入っていった。


「薄情な母親デスね」

 おかみさんの姿が見えなくなってから、アリアはぼそりと呟く。


 本当に薄情なのだろうか……


「師匠、善意をないがしろにする人たちにかまっている暇はないデス」

「うん、そうだね」

 ボクはテンション低くうなずく。


「これからどうするデスか?」

「どうするって、どうしようか?」

 ボクは質問を質問で返した。


「とりあえず、部屋のシャワーを浴びながら、今後の作戦を考えるデス」

「確かに、シャワーを浴びて、気分転換するのがいいかもね」


「それなら、一緒にシャワーを浴びるデス」

「え? 一緒には無理だよ」

 アリアと一緒にシャワーを浴びたことが院長先生にバレたら、ボクの命はない。


「どうしてデスか?」

「それは、ほら、今後の作戦を考えるためには、一人でシャワーを浴びて、集中することが大切なんだ」


「一緒にシャワーを浴びたほうが、集中できるかもしれないデスよ?」

「いやいや、そんなことないよ。一人で考えれば、すぐに名案が浮かぶんだから」


「さすが、師匠デス」

「それなら交代でシャワーを浴びようか」

「分かったデス」


 …………

 ……


「さて、シャワーを浴びましたが、どうやって人狼を特定するデスか、師匠?」

「うん、そうだな……」


 どうしよう、何も思いつかなかった。

 何で、『名案が浮かぶんだから』なんて自信満々でこたえたんだろう……


 答えは簡単だね。

 それはボクがバカだから。


「アリア、良い案が浮かんだんだんだけど、それは今、伝えない方がいいようだ。ほら、人狼は賢いから、ボクの完璧な作戦が誰かにバレたら、作戦が台無しになるからね」


 もちろん、そんな作戦などない。

 問題解決方法を先延ばしにしただけだ。


「アリア、誰にも言わないデス」

「誰にも言わなくたって、もしかしたら、どこかで聞いてるかもしれないからね」


「なるほど、壁に耳あり障子に目あり……というやつデスね?」

「その通り。とりあえず、明日に備えて、寝よう!!」

 どういうことか分からないけど、とりあえずうなずいておこう。


「分かったデス」

 よし、明日の朝まで引き伸ばすことができたぞ。


忙しい人のためのまとめ話

 サイレント、宿屋の息子の護衛を申し出るが断られる。

 サイレント、人狼を捕まえる名案が思い付かない。

 



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