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第34話 サイレントとアリア、劇のクライマックスだけ観る

7月15日誤字を訂正しました。(お話の内容は変わっていません)


前回のあらすじ


 サイレントとアリア、タナトス教の教祖様の過去を知る

 サイレント、教祖様を人狼じゃないかと疑う。



 

「それって、つまり、インチキ宗教ってこと?」

「インチキ宗教ならまだ良いのデスが、もしも、あの教祖様が人狼だったら、もっとひどいことになるかもしれないデス……」


「あのインチキ宗教の教祖様が人狼なわけないよ。もしも教祖様が人狼なら、塩にすら触れないんだから」

「塩には触れるデス。パーフェクト・コピーをしている間は人間なんデスから」


「あ、そっか。でも、それなら、なおさらおかしいよね? もしも、教祖様が人狼なら、人狼が魔除けの塩を売っているってことになるんだから」

「師匠、もしも、塩を持っている信者が、人狼に襲われたとしたら、他の信者はどのような行動をすると思うデスか?」


「お金返せって言う」

 塩の効果がなかったんだから返金を求めるのは当然だろう。


「それ以前に、高価なお金を払って、塩を買ったのに、塩を持っていても襲われるんだと信者達は恐怖に苛まれるデス」

「確かに!!」

 自分はタナトス教団に入っているから大丈夫だ……と余裕をぶっこいていた人が、実際は自分も当事者になりうると知ったら、それは恐怖そのものだろう。


「きっと、信者たちは教祖様にかけよるデス」

「うん、そうだね」


「そこで、教祖様に化けていた人狼は、みんなの見ている前で忽然と姿を消すのデス」

「え? なんで?」


「教祖様が行方不明になれば、教祖様も魔物に襲われたとパニック状態になり、恐怖は増すはずデス。そうすれば、人狼はお腹一杯、恐怖を味わうことができるデス」

「そう考えると、あの教祖様は怪しいね」


「そうデス、怪しいデス! ……というわけで、致命傷を……」

 大鎌をマジック・バッグから取り出すアリア。


「与えちゃダメだからね。証拠もないのに」

「デスが、3日間で人狼を見つけないといけないデス。見つけられなければ、アリア達、煮るか焼かれるかしちゃうデス」


「それは分かっている。でも、分かっているからこそ、ここは慎重に動かないと。もしも、教祖様が人狼じゃなかったら、捜査なんかさせてもらえず、ずっと檻の中だよ」

「確かにそうデス。軽率だったデス」

 しゅんとうなだれるアリア。


「そんなに落ち込まないで、アリア。アリアのせいなんかじゃないんだから」

「アリアのせいじゃないとはどういうことデスか?」


「疲れのせいだよ」

「疲れデスか?」


「だって、昨日からのことを考えてみてよ。嘘発見調査官に尋問されて、檻の中に閉じ込められて、その後、副村長と交渉して、ご飯も食べずに葬式会場に潜入したんだよ。疲れているに決まっているじゃないか」


「確かにそうデス」

「まずは、宿屋でゆっくりしよう!!」


「師匠、アリアはわざわざ宿に泊まらなくても野宿でも大丈夫デス」

「そんなこと言っていいの? 宿屋にはシャワーがあるんだよ?」


「師匠、アリアは宿屋探しをするデス!!」

 手のひらを返して、宿屋探しに賛成するアリア。

 汗を流すのがよっぽど好きなのだろう。


「よし、宿屋探しだ……と言いたいところなんだけど、宿屋探しをする必要はないんだよ」

「どうしてデスか?」


「この村の宿屋はいつだって、いつも1つだからね。さあ、行こう!! この村でたった1つの宿屋へ」

 そう、ボクにでもわかる数字、1なのだ。


「師匠、アリアを旅館に連れて行ってください」

「OK」

 ボク達は宿屋へと向かった。


「みんな、勇者様に声援を!!」

「「「がんばれ、勇者様!!」」」

 宿屋へと向かう途中、村の広場から大きな笛や太鼓の音とともに、女性声と子どもの声が聞こえてきた。


「師匠、何かやってるみたいデス!!」

 アリアが声のする方を指さす。

「行ってみよう」


 ボク達は声のする方へと向かう。

 そこでは子供向けの劇が行われていた。


「うぉー、みんな、ありがとう! みんなの声援のおかげで力が湧いて来た!! いくぞ、魔王めっ!!」

 勇者役の男が、音楽と共に刀剣を持ちながら魔王役の男の周りで演舞を舞う。


「ぐはっ、やられた」

 その演舞に合わせながら、魔王役の男は、自らの手で喉を押さえ、膝をつき、最後には地にばたりと倒れた。


「わー」「やったー」「よかった」

 魔王が倒れたのを見て、子ども達は喜んでいる。

 みんなが喜んでいる中で、負の気配がしたので、ボクはそちらに目を向けた。


「ふん、現実に勇者なんかいやしないよ」

 車いすに乗った少年がそう呟いたと思ったら、両手で車輪を回し、どこかへと行ってしまった。


 あれ?

 あの少年は、宿屋の子か?


「師匠、どうしたデスか? ボーっとして」

「勇者劇が懐かしくて、昔のことを思い出していたんだよ」

 ボクは負のオーラをまとった少年のことは隠したまま、適当なウソをつく。


「勇者劇って何デスか?」

「さっき、演じられていた子供向けの劇だよ。魔王軍が人類のお城を攻め滅ぼそうとした時に、勇者が負傷してお城が滅ぼされそうになるんだ。だけど、城下町の人の声援で、勇者は実力以上の力を発揮し、魔王を倒すんだよ……って、この劇、観たことない?」


「劇は観たことないデス」

「そうなんだ」

 この劇は、カバッカ町でお祭りの時に公演されてるんだけど、知らないんだ。


「それじゃあ、神殺しの話は知ってる?」

「はるか昔、天使族・魔族・人間族とでお互いがお互いをけん制し合っていたので、世界はバランスが保たれていたが、十数年前に人間族の中のティタン一族が天使族の長である神様を殺してしまったので、天使族が力を失い、世界は混沌した……という実話なら知っているデス」


「うん、その実話。勇者劇は、その実話の続きのフィクションなんだよ」

「そうだったんデスね。アリア、全然知らなかったデス」


「へー、意外」

 魔物のことは詳しいのに、劇のことは詳しくないんだ。

 アリアの裕福な家庭育ちみたいだから、観劇とかしていてもおかしくなさそうだけど……


「そうデスか?」


「アリア、勇者劇を最初から観てみたいデス」

 目を輝かせるアリア。


「次の公演はいつだろうね?」

 折角だから、アリアに観させてあげたいけど……


「皆様、ありがとうございました。今日の公演はこれでおしまいです。次回の公演は、この村にまた立ち寄る時までのお楽しみ」

 若い女性の声だけが広場一帯に響き渡る。

 残念ながらご縁がなかったみたいだ。


「また今度だね、アリア」

「残念デス」


「気を取り直して宿屋へ行こう! いざ、シャワー」

「そうデス、シャワーデス!! レッツ・ゴーデス」


忙しい人のためのまとめ話


 サイレントとアリア、タナトス教の教祖様がもしも人狼だったらを考える。

 サイレントとアリア、宿屋に向かう途中で劇のクライマックスだけを観る。




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