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第32話 サイレントとアリア、タナトス教に入信する!?

前回のあらすじ


 サイレントとアリア、亡くなった村長はノリが良く押しが強い人だったと知る。

 サイレントとアリア、タナトス教の教祖様に会う。




 

「でも、現時点では、なれないデスよ。ホバッカ村の村長に」

「いいかい、アリア、冒険者には適応力というのが必要なんだ!!」


「適応力デスか?」

「そうなんだよ、アリア。たとえタナトス教団を知らなかったとしても、知ってるフリをしなければいけない時があるし、たとえ村長になれなかったとしても、村長になることを宣言する適応力が必要なんだ」


 ボクはまっすぐにアリアを見つめながら、真っ赤な嘘で力説する。

 我ながら、言っていることが意味不明だ。


「なるほど、こういう時にはとりあえず驚くということが必要なんデスね」

 アリアは聞き返しながらメモまで取り始めた。

 いやいや、メモなんて取らなくていいから。

 こんな言葉。


「冒険者の基礎の基礎だから、メモなんかせずに心にそっとしまい込むにんだ、アリア」

 後から真っ赤な嘘をアリアに教えたことが院長先生にばれても面倒なので、すぐさまメモを取らないように指示する。


「分かったデス、心にしまいこむデス。知らないことでも知ってるフリをしたほうがよい時がある……心の中にしまい込んだデス」


 よし、これで、院長先生にはばれないだろう。


「そうと分かったら、タナトス教も知っているフリをするんだ、アリア」

「分かったデス。知っているフリをするデス」


「あの、教祖である私の目の前で話しているのに、どうして、私がそれを信じるんですか、はい」

 しまった!! 教祖様がいるのに、目の前で話しちゃった。


 タナトス教団を知っているフリをして、『いやー、タナトス教団は知っているけど、今は入りたくないな』で押し通そうと思ったのに、アリアのせいで完全に知らないのがバレてしまった。


「えっと、その……平たく言うと知らないですね」

「それなら、タナトス教団に貴方達も入って、お互いのことを深く知り合いましょう! はい」

 教祖様はボクの手を握ってきた。


 急なことで判断に戸惑う。


「師匠、何で赤い顔をして手を握り合っているんデスか?」

 アリアが不機嫌そうに聞いてくる。


「これは、違うんだ、アリア。ロウソクの炎のせいで赤く見えるだけだから」

 決して、色っぽい教祖様に心を奪われたわけじゃないんだからね。


「もしかして、カワイイ彼女さんを嫉妬させましたでしょうか? はい」

「アリアがカワイイのは確かデスが、師匠の彼女じゃないデス!!」

 あ、カワイイの部分は否定しないんだ……


「それなら、カワイイあなたも一緒にタナトス教団に入りましょう、はい」

 教祖様はアリアの手も握ってくる。


「あ、そろそろ、お昼ご飯の時間だ、帰らないといけないな」

 ボクはアリアと教祖様の会話に割って入って、窓の外のお日様を指差す。


「そうですね、我々の教団の本部で一緒にご飯を食べながら、タナトス教団について説明をしましょう、はい」

 うー、こうくるか。


「あー、そういえば、お腹空いていなかった、ね? アリア?」

 ウィンクをして、話を合わせるように合図をするボク。


「アリアのお腹はペコペコデス」

 もちろん、ボクのウィンクは通じず、正直に自分の気持ちを伝えるアリア。

 そこはウソをついてよ、アリア。


「ほら、彼女さん、お腹が空いているので、我が教団でひとまずお昼ご飯を食べましょう!! おごりますよ、はい」


 まずい。

 これ、食事をごちそうしてくれる代わりに、首を縦に振るまで何時間も拘束されるやつだ。


 昔、亀の甲だか、ねずみ講だか知らないけど、そんな名前の詐欺でダマされた時の苦い経験が思い起こされる。

 あの時はラカンがなんとかしてくれたけど、今日はラカンがいないから、ボクがしっかりと断らないといけないぞ。


「確かにアリアはお腹がすいているみたいだけど、今日知り合った人におごってもらうのは良心が痛むので、お食事は断ります」

 ボクは勇気を出してきっぱりと断る。


「それなら、食事はせずに、タナトス教団について、今ここで簡単に説明します、はい」

「しなくていいです」


「タナトス教団の一員になるために、誓約書に名前を書いて、その後、この聖なる塩を買って、それを常に身に付けるのです。はい」


 あれ?

 今、ボクちゃんと断ったよね?

 断ったのに、説明が始まってしまってるんですけど。

 ここはもう一度きっぱりと断らないといけないぞ!!


「聖なる塩って何?」

 しまった、断る予定なのに、聞き返しちゃった。


「そうです、はい。そうすれば、魔物は自分から逃げていき、襲われることは一切なくなるでしょう、はい」


「本当?」

「本当です、はい。本来なら入会金が10ゴールドかかるところ、今だけ特別に入会金が無料なので、今すぐ入るべきなのです、はい」


「すぐに入信します」

 きっぱりと断ったのに、お構いなしに説明してくる教祖様の言葉を信じたボクは、即断即決した。


「師匠、騙されているデス」

「騙してなどいません!! はい」


「そうだよ、アリア、教祖様っていうのは偉い人なんだよ。その偉い人がボク達を騙すわけないじゃないか」

「その通りなのです、はい」


「今なら入会金が無料だからお得なんだよ。一緒に入信しよう、アリア」

 入会すれば安心が得られるんだから。


「師匠、もし仮に本当だとしたら、アリアたちは魔物に襲われないことになるデス」

「良いことじゃないか」


「逃げていくということは、逆に言うと魔物と出会える可能性が減るってことデス。もしも、魔物を3日で捕まえられなかったらどうなるデスか?」

「それは……」


『煮るなり焼くなり好きにしていい』……と言い切ってしまった自分の言葉を思い出し、背筋がゾッとした。


「あはは、タナトス教団には入らなくていいかな」

「なんと!! 魔物をも怖れぬ所業!! それこそカルマ!! タナトス教団に入らなかったことを後悔しますよ、はい」


「むしろ、ボク達、魔物に会いたいんだよね……」

「それならば、すぐにでも、この会場に魔物を召喚してみせましょう、はい」

 そう言い残して、一番に葬式会場を立ち去る教祖様。


「何だって!?」「今ここに魔物を召喚するだって!?」「はやくここから出ないと。まだ死にたくない!!」


 教祖様、何を言ってんの?

 葬式会場が完全にパニック状態じゃないか。


「この騒ぎはなんなんですかな?」

 辺りを見渡す副村長。

 そこでボクと目が合ってしまう。


「また貴方達ですかな……」

 額に手を当てて、あからさまに面倒くさそうな顔をする副村長。

 いや、これはボク達のせいじゃない……とも言い切れないな。


「何でもないです。行こう、アリア」

 ボクは大声で叫んでから、アリアと共にパニックになる村人の中に紛れ込んだ。


「貴方達、待つのです、はい」

 教祖様が慌ててボク達を呼ぶ。


「アリア、気配を消して、人気のない路地裏に行こう」

「分かったデス」

 ボク達は聞こえなかったフリをして葬式会場から出た。


忙しい人のためのまとめ話


 サイレントとアリア、タナトス教団に入れられそうになる。

 サイレントとアリア、葬式会場から脱出する。



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