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第29話 アリア、最終手段を思いつく

前回のあらすじ


 サイレント、甘い香りがするのでアリアを人狼と疑うがカリン糖のせいだと知る。

 サイレント、人狼を香りで見分けられないと知り、副村長と交わした約束を後悔する。





 

「うう、こうなったら使いたくはなかったデスが、最終手段を使うしかないデス」

「最終手段?」


 まさか、土下座か?

 いやいや、ボクじゃあるまいし、そんなことはしないだろう。

 緊張のあまり、ボクはごくりと唾を飲みこむ。


「村人全員に致命傷を与えるデス!! そうすれば、人狼なら他の村人から恐怖を吸収して、すぐに回復するはずデス。その上、人狼に調査していると気取られることなく、判別できるデス」


「おお、確かに……って、ダメだろ、それ!!

 人狼を見分けるために、村人に致命傷を与えたら、本末転倒もいいところじゃないか。


「まずは第一村人に攻撃デス」

「わー、ダメだ、アリア!! そんなことしたら、この村を襲った魔物の正体がボク達になっちゃうよ。すぐに集団リンチに遭って死刑だよ!!」


 ボクはアリアを羽交い絞めにした。


「大丈夫デス。息の根を止めるギリギリの致命傷だから大丈夫デス」

「そっか、死なないなら大丈夫……って、ダメだから! 絶対!!」


「それなら、捜査はどうするデスか?」

「それは……できることからやろう!」


「できることってなんデスか?」

「えっと、それは、つまり……」


 ごーん、ごーん、ごーん。

 急に、大きな鐘の音がなった。


 お昼ご飯の時間か?

 それにしては早すぎるような気もするけど……


 鐘の音の後、喪服姿の村人が民家から出てきて、ぞろぞろと集まってくる。

 喪服姿ってことは、もしかして、お葬式があるのか?


「あの、どなたか亡くなったんですか?」

 ボクは喪服姿のおじさんに訊ねる。


「ああ、村長さんが魔物に襲われてね」

「人狼に襲われたのは、この村の村長さんだったのか」


 だから、偉い人を呼べと言った時に、副村長が来たのか。

 なんで村長が来ないんだろうと思っていたけど、これで納得。


「師匠!!」

 あれ?

 ボク、何かやっちゃった?


「ところで、兄ちゃん、『ジンロウ』って何だい?」


 まずい。

 人狼だと言っちゃった。

 副村長さんと約束していたのに……


「え? ボク、『ジンロウ』なんて言いましたか?」

 とっさにとぼけるボク。


「言ったな」「言ったデス」

 喪服姿のおじさんはともかく、アリアまで肯かないでよ。


「ああ、そういえば、言ったかもしれないでな……」

「『ジンロウ』ってどういうことだい?」


「えっと、それは……魔物に襲われたってことは、『心労に襲われた』みたいなものだから、村長さんも大変だったな……と思いまして」

 全力で誤魔化すボク。


「『心労に襲われた』? つまり、どういうことだい?」

 つまりどういうことかって?

 こっちが訊きたいよ。


「魔物に襲われて大変だったなってことですよ」

「そういうことか」

 喪服姿のおじさんはにっこりしながら頷く。


「そういうことなんですよ、はっはっはっ」

「俺はまた、『じんろう』っていう名の魔物が、人に化けて襲っているのかと思っちまったじゃねーか。はっはっはっ」


「そんなはずないじゃないですか……あはは」

「そうだよな。そんな変な名前の魔物、聞いたことないしな、あはは」


「そうですよ……あはは」

「それなら、私は失礼するよ。これから村長のお葬式があるからね」

 喪服姿のおじさんは、そそくさとその場を立ち去る。


「うまく誤魔化せたみたいデスね」

「そうだといいけど……」


「これからどうするデスか?」

「喪服姿のおじさんを尾行しよう」


「あのおじさんが怪しいデスか? もしかすると、人狼だったんデスか?」

「いや、あのおじさんが人狼かどうかは分からないよ」


「それならどうしてデスか?」

「村長さんの葬式会場に行くためだよ。殺人を犯した犯人は必ず現場に戻って来る……って話を聞いたことがある。人狼も葬式会場にくるかもしれないからね」


「なるほど、さすが師匠デス」

「このままついて行こう」

 ボクとアリアは少し離れたところからおじさんを尾行した。


 …………

 ……


「お兄さんたち、旅の方? ホバッカ名物、砂糖菓子はいかがですか? 甘い上に、色々な形もあって綺麗ですよー」「うちの砂糖菓子のほうが美味しくて長持ちするよ。お土産にぴったりだ」「美味しさを重視するなら、断然、上質なカリン糖を使っているうちのお店だね。お兄さん、寄っていきな」


 尾行の最中だというのに、砂糖菓子を持った客引きが集団でまとわりついてくる。

 こんなしつこい客引きに誰が足を止めるんだか……


「師匠、足を止めないでくださいデス。おじさんを尾行しないとデス」

 しつこい客引きに足を止めてしまったのは、ボクでした。


「あの、急いでいるんで、通してください」

 ボクは声を出す。


「まあまあ、お兄さん、ちょっとおいでよ」「お嬢ちゃんも砂糖菓子を見ていきなよ、なんなら、サンプルもあるよ」「うちなら、隣のお嬢ちゃんには言えないような、お兄さん好みの甘ったるいサービスもあるからさ」


「ボク好みの甘ったるいサービス……」

 ウィンクまでされれば気になるところだ。


「師匠、おじさんを尾行しないとデス」

 アリアはボクの手を引いて、客引きの集団から出ようとする。


「そうだった」


 危ない、危ない、呼び込みがうまいから、ついていってしまうところだった。

 こういう時は徹底的な無視に限る。


「あと、師匠、鼻の下が伸びているデス」

「え?」


 鼻の下が伸びてる?

 もしかして、何かの病気かな?

 はやく治さないと。


 ボクは手で、鼻の下を元に戻す。

 うんこれで大丈夫。


「ちょっと無視しないでおくれ。店に寄るくらいいじゃないか」

 呼び込みの一人の女性がボクの腕をつかんだ。


「お客様を無理矢理ひっぱるのはルール違反だよ」「そうだ、そうだ」「帰れ」

 他の呼び込み達が一斉に非難する。


「お兄さん助けて。私、怖い」

 目をうるうるさせながら、ボクの手をつかむ女の人。


「ルール違反した上に泣き落としかい? 本当に汚い店だね。そんな品のない店よりも、味で勝負している私の店においで。天国を見せてやるよ」「いやいや、売り子も商品も見た目が超絶的にカワイイうちに来て」「極上の価格サービスを望むなら、断然うちだよ」


 一人がボクを引っ張ったのを皮切りに、全員がボクの腕にしがみつき、自分の店に入れようとする。


「アリア達は、砂糖菓子は買わないので、解散してくださいデス!!」


「なんだ、冷やかしかい」「最近の若者は砂糖菓子を買う気もないのに、店の前をうろうろするんだから」「こっちだって、今日は村長の葬式があるから、忙しいんだよ」


 アリアの一声で、好きなことを言いながら散り散りになっていく呼び込みの方々たち。


 いやいや、冷やかしって……

 砂糖菓子を買う気が起きなくたって、店の前を通ることくらいあるでしょ。

 ……ってか、村長の葬式があるのに、ギリギリまで呼び込みするなよ。


「助かったよ、アリア」

 人だかりがなくなってからボクはアリアにお礼を伝えた。


「それは良かったデス」

 言いながら、ぷいとそっぽ向くアリア。


 あれ?

 ちょっと不機嫌?


 なんでだろう?

 おっと、アリアの不機嫌を気にしている場合じゃない。


 今は、おじさんについて行くことに集中しないと。

忙しい人のためのまとめ話

 

 サイレント、村長の葬式会場行こうとする。

 サイレント、砂糖菓子の客引きに会うが、何とか脱する。


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