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第28話 サイレント、副村長との約束を後悔する

前回のあらすじ


 サイレント、人狼を捕まえると副村長と約束する。

 サイレント、村でフリーハグを計画するが、アリアができないと言いはじめる。




 

「師匠、この村、どんな香りがするデスか?」

「どんな香りって……」


 すんすん……

「甘い香りがする……もしかして、アリア、君って本当は人狼だったの?」


 しまった。

 アリアが人狼の可能性を考えていなかった。

 ボクはダガーを構える。


「違うデス、アリアじゃないデス。アリアに近づかないところでも香りを確認して欲しいデス」


 ボクはアリアから離れて、すんすんと鼻をもう一度ならす。


「この村全体から甘い香りがする……あ、分かった!! ホバッカの村の名産のお菓子の香りか!!」

 そういえば、この村で唯一の名産じゃないか。


「そうデス、この村のあちらこちらから煙が漂っているデス」

「ああ、お菓子工房から出てくる煙だよ。この村の名産だからね。いつも、この村はこの煙が漂っているよ……って、ちょっと待って。まさか……」


「そのまさかデス。ここいら一体、甘い香りが漂っていて、香りで判別することができないんデス」


「よし、それなら、香りのしないところに行こう」

「この村に来るのは初めてデスが、難しいと思うデス」


「どうしてさ?」

「檻に入れられるときに気づいたのデスが、この村、カリン糖がそこら中に生えているんデス」


「カリン糖?」

「この植物の名前デス」

 アリアは道端に生えている白い花と緑色の葉っぱの植物を指さした。


「ああ、この植物なら、この村のどこにでも生えているよ」

 カバッカの町では全然見ないけど、ホバッカの村では、本当にどこにでも生えているものだ。


「このカリン糖から、甘い香りが出続けているデス。そのせいで、香りで判別するのは難しいデス」


 なんてこった。


「ねえ、アリア、この香りの中、3日で人狼を見つけ出すことって……」

「3日どころか、一生かかったって絶対にできないデス」


 なんだって!!


「どうして、ボクと副村長が話していた時に、そのことを言わなかったの?」

 そうと知っていれば、こんな交渉をしなかったのに……


「言おうとしたデスが、師匠が止めたんデス。『静かにして』……って」

「あ」


 そうだった。

 ボクのバカ、バカ!!


「せめて、この村から出ることができれば、香りはしないと思うのデスが……」

「そうだよ。わざわざこの村で人狼を特定する必要なんてないんだ。この村からちょっと離れたところで香りを確認すればいじゃないか」


 ボクはアリアの手をひく。


「師匠、アリア達、村から出たらどうなるデスか?」

「どうなるって、そりゃ、村の外でフリーハグをしても、なかなか人が集まらないかもしれないね」

 効率が悪くなるかもしれないけど背に腹は代えられない。


「師匠、そこじゃないデス」

「それなら、どこなの?」


「副村長の魔術具の方デス」

「副村長の魔術具? ……あ、そうだ、心臓発作がおきるんだった」

 この村から一歩でも出たら、ボクたちはジ・エンドじゃないか。


「よし、今からカリン糖を焼こう」

「そんなことをしたら、放火で捕まってしまうデス」


「こうなったら、副村長にお願いして、村から出ても、心臓発作にならないようにしてもらうしかないか」

「それは難しいと思うのデス」


「どうしてさ?」

「師匠が副村長の立場だったら、今の状況で心臓発作にならないようにするデスか?」

 ボクが副村長の立場だったら?


 自信満々で魔物を見つけますと大見得を切った後に、やっぱり、この村じゃ見分けられないから、この村から一度出してください……うん、こんな人間、信じることができないね。


「ボクなら即、そいつらを牢に閉じ込めるね」

「そうデスよね」

 はぁ……とため息をつくアリア。


「……ということは、もしかして、香りから人狼は特定できないってこと?」

「そうデス」


 詰んだ。

 人生終了のお知らせがついに来てしまった。


「どうしよう、アリア?」


 ボクの命が後3日で終わる。

 3日がどれ位かはわからないけど、儚く、短い人生だったな。


「……こうなったら、すべての菓子店と、そこら中に生えている砂糖菓子の原料の植物を燃やすしかないデス」

「それだ!! 今日から毎日、菓子店を焼こう……って、それはダメだよ。そんなことしたら、今度はホバッカの村から追放されちゃうよ!! いや、追放で済めばいいけど、最悪の場合、死刑だよ」


 カバッカ町では警備兵の勘違いだ……で通せる可能性はあるけど、今回ホバッカの村でお菓子店と原料を燃やしちゃったら、勘違いでは通せないじゃないか。


「それなら他の方法を考えるしかないデス」

「そうだ、すべての工房と菓子店に協力を要請して、営業を停止してもらえばいいんじゃない? それなら、風とかの関係で香りがしないところで判別をすればいいんだよ」


 壊さないにしろ、営業停止なら協力してくれるかもしれない。


「うーん、それも難しいと思うデス」

「なんで?」


「どうやって営業停止をお願いするデスか?」

「そりゃあ、村に入った魔物を見分けるために、営業をやめてくださいってお願いするしかないんじゃない?」


「もしも、その営業停止をお願いしたお菓子作り関係者の誰かに人狼が化けていたら、魔物を見分ける時点で、人狼はすぐに逃げるデスよ」

「うっ」


 確かに、アリアの言う通りだ。


 これから人狼を捕まえるので、営業停止をお願いします……ってなったら、人狼は逃げるだろう。

 もしも、ボクが人狼なら、ボクだって逃げる。

 捕まえられたくないもの。


「でも、もし、お菓子作りの関係者の中に人狼がいなければ、捕まえることができるんじゃない?」

「難しいデスね。もし、店員の人狼がいなかったとしても、魔物を見分けるために営業停止をしてくださいってお願いしたら、きっと瞬く間に村全員に伝わるデスよね」


「そうだね」

「そうなってしまったら、営業停止した時点で人狼は他の村へ逃げると思うデス」


「それもそうだ」

 人狼のあぶりだしができると分かった時点で、人狼が村に残る必要はない。


「……って、あれ? そうなったら、この村から人狼が消えて、ハッピーエンドじゃない?」

 そうだよ。

 人狼が逃げれば、一件落着じゃないか!!


「村人たちはハッピーエンドデスが、アリア達にとっては一番のバッドエンドデス」

「え? なんで?」


「人狼を特定できないからデス」

「別にいいじゃない。人狼は村にいないんだから」


「師匠が交わした約束は、『3日以内に人狼を特定すること』デス。人狼がいなくなれば、約束は果たされなかったとみなされ、アリア達はなすすべなく、煮るなり焼かれるなりされちゃうデス」


 そうか、そういうことか。


「もしも、そうなったら、この村から逃げればいいだけだよね?」

「この村から出た瞬間、アリア達、心筋梗塞で死んじゃいます」


「そうだった!!」

 忘れてた。


「アリア達は人狼にバレないように捜査するしかないんデス」

「そっか。秘密裏に動かないといけないのか……」

 そこまで考えずに安易に副村長と約束してしまった。


 約束って大事なんだな。

 後悔。


忙しい人のためのまとめ話

 

 サイレント、甘い香りがするのでアリアを人狼と疑うがカリン糖のせいだと知る。

 サイレント、人狼を香りで見分けられないと知り、副村長と交わした約束を後悔する。




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