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第8話 サイレント、検問所で止められる

前回のあらすじ

ラカンとサイレントは、レベルチェックをしない。

サイレント、素材売りのパシリをさせられる。

 町の入り口の検問所が見えてきたので、ボクは走っているスピードを緩めた。


 以前、全速力で検問所に入ったら、息を切らした変質者と間違えられたからな……

 ある程度は息を整えてから検問所に入らないと。


 ついでに検問所の気配を探る。

 ラッキー。


 行列はできていないみたいだ。

 昼間はひっきりなしに人の行列ができているけど、今は夜だからかな?

 何はともあれ、これなら、待つことなく町に入ることができるぞ。


「ただいま、戻りました」

 ボクは元気な声であいさつをする。


 そこには、甲冑に身を包み、剣を脇に刺して、松明を片手に持っている治安維持部隊の門番がいた。

「おう、その声はバカのサイレントか!」

 言いながら、門番は持っている松明を壁にかける。


「そうだよ。バカのサイレントだよ。だから、はやくここを通してよ」

「よし、それなら服を脱げ!!」

「分かったよ!!」

 ボクは服に手をかける。


「……って、検問所でいきなり服を脱ぐなんてこと今までなかったよね!!」

「おいおい、何言ってるんだ、サイレント。通行証を持っていない時は服を脱ぐ規定だろ?」


「あ。そっか。そういう規定だったね、忘れてた……って、まだボク、通行証も出していないじゃないか!!」


「持っているなら早く通行証を出せよ。カウンター越しに通せ通せと騒ぐから、持ってないと思ったぜ」

「持ってるよ、通行所!!」

「あのな、口じゃなくて手を動かして、通行証を早く出せ」

「分かったよ。えっと、通行証は……」

 確か、リュックの中に入れておいたはずだ。


「そういうのいいから、さっさと黙って耳揃えて通行証を出しな」

 おっちゃんに急かされ、ボクはリュックに手を乱暴に突っ込み、紙らしきものを手に取る。

「あった、通行証!!」

 ボクは高らかに通行証を天に掲げた。



「あのさー、サイレント。また、通行証が血まみれで、文字がまったく読めないんだけど。通行証が通行証の意味を成していないんだけど」

「あれー、おかしいな。きちんと血抜きをしたから、血はついていないはずなんだけどな……」


「モンスターは、血を完全に抜いたと思っていても、あとから体液がにじみ出てくる時があるから、通行証はモンスターの素材と一緒にしないで、別にしておけって毎回言っているだろ」


「あ。そういえば、そうだった」

 うっかりしていた。

 また冒険者ギルドで通行証を再発行してもらわなきゃ。

「本当にお前は頭が悪いな」

 おっちゃんはあきれ顔だ。


「あはは……」

 ボクは乾いた笑いでその場をごまかす。


「魔物の体液まみれの通行証しか持っていないんなら、身体検査室に入れ!!」

 おっちゃんはボクを簡素なテントの中へと促す。


「面倒くさいな」

 通行証を持っていない場合は、危険物を持っていないかをチェックする魔法陣の上に立ち、危険物を持っていないことを確認した後、服を脱いで身体検査を受けなければならないはずだ。

「それはこっちのセリフだ!! このくそ暑い中、汗臭い男の体を見たり触ったりしなくちゃいけないんだからな」

「それなら、今回は見逃してよ。危険物は持ってきてないからさ。ね、お願い」

 ボクは目を潤ませながら、手を合わせて懇願する。


 これで通ったことなんか1回もないけど。

「分かったよ、今回だけ顔パスだ」

「そうだよね、ダメだよね……って、いいの?」

 いつもは絶対にダメだって言われるのに、なんで?


「ああ、いいぞ。今回だけな」

「ありがとう、おっちゃん」


「おっちゃんじゃない。格好いいサンザール様だろ」

「あ、そうだった。格好いいサンザール様」

 こういう時はおだてるに限る。


「まあいいってことよ。サンザール様とサイレントの仲じゃないか」

 うん、怪しい。

 おっちゃんが急に優しくなるなんて。

「後で脅したり、お金や物を要求したりしない?」

「しないって」

「本当に?」


「しつこいな、サイレント。殊勝にも危険物をもっていないか、持ち物検査をして欲しいってか?」

「いや、そんなことはないけど、後から問題にしたりしないかなって、不安になっちゃって」

「ああ、問題にしないから安心しろ。今日だけは特別だ」

「サンキュー、おっちゃん」

 ボクはすぐさまテントから抜けようとした。


「ちょっと待て」

「どうしたのさ、おっちゃん」

「本当にお前はバカだな。たった今身体検査でテントの中に入ったお前が、すぐにテントから出てきたら、他の検査官が不審に思うだろうが。それにおっちゃんもサボれないだろ」

「あっ、そっか」


「本当にお前は確認するまでもなく、サイレントだよ」

 おっちゃんは椅子に腰かけ、呆れ声でつぶやいた。


「うん、ボクの名前はサイレントだからね」

「はぁー」

 ボクの返答に深いため息をするおっちゃん。

「あれ? ボク変なこと言った?」


「自覚がないところ、すごいと思う」

「それほどでもないよ」

「褒めてないからな」

 おっちゃんはもう一度深いため息をついた。


「おっちゃん、かなり疲れてる?」

「正解だ、サイレント。おっちゃんはかなり疲れている。お前と話したから、なおさらな」

 おっちゃんが疲れているなんて珍しいこともあるもんだ。

 この時間帯は、いつもはヒマそうにしているのに。


「ボクのせい?」

「お前のせいでもあるが、それ以前に、おっちゃんは疲れて疲弊していたんだ」


「どうして?」

「これだよ、これ!」

 言いながら、緑色の旗を親指で指さすおっちゃん。

忙しい人のまとめ話

サイレント、通行証を汚したため検問所で止められる。

サイレント、検問所のおっちゃんが疲れていることに気づく。

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