第26話 サイレント、副村長と交渉する
7月29日誤字脱字を訂正しました。(話の内容に変わりはないです)
前回のあらすじ
サイレント、嘘発見調査官に人狼のことを正直に話す。
サイレント、副村長に檻から出して欲しいとお願いする。
こういう時、ラカンならどうしていたっけ……
……そうだ、交渉だ!!
交渉をして、自分の有利な条件にしてもらうんだ。
……といっても、交渉の材料がないと交渉の場にすらたてないぞ……
あ、そうだ、あれを交渉のカードにしてみよう!!
「どうやらこのままでは、お互い一歩も譲り合えないようなので、取引をしませんか、次期村長」
ボクは以前、鏡の前で練習したキメ顔を作りながらカッコつける。
「次期村長ですかな……」
「すみません、村長かと見間違えるほどの威厳だったもので……」
「まあ、いずれ村長になりますからな」
お、まんざらでもなさそうだぞ。
「素晴らしい威厳をお持ちの次期村長、取引をしましょう。ボク達と次期村長、ウィンウィンないい話があるんですよ」
「ウィンウィンないい話……」
お、くいついたぞ。
ここでもう一押しだ。
「副村長さんがこの話を飲んでさえしてくれれば、副村長さんは村長に昇格するんですよ」
「それは素晴らしいですな」
「そうでしょ」
ボクはにやりと笑ってみせた。
よし、これで間違いなくここから出られるぞ。
「でも、断りますな」
「なんで?」
「取引の内容が全然分からないからですな」
「今からそれを説明するんじゃないですか」
「それならきちんと説明をするのですな」
「本物の人狼をボク達が見つけ出すので、捜査のためにここから出してください。手柄は副村長に譲ります」
「人狼の捜査? そんなことできるのですかな?」
目を丸くする副村長。
「師匠、それは止めておいた方がいいデス」
「何を言っているんだ、アリア。ボク達ならできるさ」
アリアの良く利く鼻があれば。
「ボク、人狼の見分け方を思い出したんですよ」
「本当かね?」
副村長は振り返って、嘘発見調査官に尋ねる。
「ウソではなさそうだわ」
「それなら、その方法を教えて欲しいのですな」
「それは……言えません」
「どうしてですかな?」
人狼の香りのことを正直に話してしまったら、他の村人に捜査をさせて、ボク達はここから出られないかもしれないじゃないか。
「それは……ボクにしかできないからです」
ボクは平然と嘘をつく。
「嘘ですわ」
そして、きっちりと見破ってくる嘘発見調査官。
マジで邪魔なんですけど、嘘発見調査官。
どっか行って欲しい、マジで。
「もちろん、これは嘘です」
「何で嘘発見調査官の前で嘘をついたのかね、君は」
残念そうな目でこちらを見てくる副村長。
「それは、この嘘発見調査官が本物かを見極めるためです」
「嘘ですわ」
本当にどっか行って欲しい。
あ、嘘発見調査官がモテない理由が分かったぞ。
嘘発見調査官の前では、嘘を見破られてしまうんだから、お付き合いがとても大変なんだ。
今日は疲れているから遊びたくないな……って時に、ちょっと今日は予定があるんだ……ってウソをついても、すぐに見破って指摘してしまうんだから。
そして、執拗に聞くんだ。
どうして嘘をついたの? ……って。
うん、重いよ。
絶対に付き合いたくない。
「いてててて……なんでほっぺをつねるんですか、嘘発見調査官様!!」
「今、絶対に失礼なことを考えていたのだわ」
う、するどい……
「そんなことは……」
ないとも言い切れない……
「本当なのだわ」
嘘発見調査官は手を放してくれた。
……あれ?
本当は失礼なことを思っていたのにも関わらず、手をはんしてくれた……だと?
どういうことだ?
ボクは頭をひねる。
あ、分かったぞ。
曖昧に答えたからだ。
失礼なことを考えていたかと聞かれて、そんなことはないとこたえたら、嘘だとバレてしまうけど、そんなことは……って、曖昧に答えたから、ウソだと見抜かれなかったんだ。
それなら、事実をあいまいに言えば、逆手にとって、嘘発見調査官を出し抜けるんじゃないか?
これはリスクを負ってでも、試してみる価値はあるぞ。
「でも、ボクが人狼の見分け方を知っているというのは本当……でしょう?」
ボクは嘘発見調査官にあえて確認をとった。
これは完全な事実だ。
「そうですわ。彼は人狼の見分け方を知っていますわ」
よしよし、作戦通り。
「それなら教えてくれたまえ。人狼の見分け方を」
「それはデスね……むぐぐ……」
アリアが口を開いたので、ボクは慌ててアリアの口を塞ぐ。
ここで本当のことを言えば、用済みになって、このまま牢に閉じ込められっぱなしになるでしょうが!!
「見分け方を教えることはできません」
ボクはきっぱりと言い切った。
「どうしてですかな?」
「なぜなら、貴方が人狼じゃないと言い切れないからです」
「おいおい、それは話が矛盾していないかな? 君たちは人狼の見分け方が分かるのだろ? それならば、私が人狼じゃないと分かるだろ?」
ここだ。
ここで嘘をつかずに、事実だけを伝えれば、嘘発見調査官をまるめこめるはずだ。
「人狼の見分けるには、特殊な方法で見分けるので、少し時間がかかるのです」
そう、『人狼は香りで見分ける』と具体的に言うのではなく、『特殊な方法で見分ける』と曖昧な表現に言い換える。
しかも、時間も『少し』と曖昧な表現にした。
ウソはついていないから、嘘発見調査官もうなずくはずだ。
ボクは期待しながら、副村長と一緒に嘘発見調査官の方を見た。
「本当ですわ」
嘘発見調査官は頷く。
イエス、イエス、イエス!
うまく嘘発見調査官を利用できたぞ!!
「だから、ここから出してください」
「ホバッカの村は全村民約150人と、村以外の旅の一座もいますが、3日で村の中の人狼を特定して捕まえることができますかな?」
150人も3日も、どのくらいのことを言っているかは分からないけど、1よりは大きい数字のはずだ。
それなら余裕だろう。
運が良ければ人狼を今日にでも見つけられるんだから。
「もちろんですよ、副村長」
ボクは以前ラカンが格好よく頷いた時のマネをしながら、低い声でできる限りダンディーに返答する。
「師匠、ちょっと待ってくださいデス」
「アリア、今、ボクと村長は大切な取引をしているんだ。お口は閉じていてくれるかい?」
何か言いたそうなアリアの口の前にボクは人差し指を突き出し、制止した。
もちろん、ダンディーに。
「分かったデス」
アリアは言いたいことをこらえて、黙りこくる。
「それでは、3日間ということで問題ないですかな?」
「ええ、もちろん」
「もし、見つけることができなかったらどうするのですかな?」
「その時はボク達を煮るなり焼くなり好きにするといいですよ」
ボクは自信たっぷりに堂々と宣言する。
「嘘発見調査官さん、この者はウソをついていますかな?」
「ウソをついてはいないのだわ」
そりゃあ、そうだ。
だって、アリアの鼻があれば見つけられるもん。
「分かったのですな。貴方達を牢から出してもよさそうですな」
「ついでと言ってはなんですが、武器も返してもらえますか?」
「どうして武器が必要なんですかな?」
「それは、人狼の捜査中、もしかしたら人狼が襲ってくるかもしれないじゃないですか。どうやって身を守れというのですか?」
「確かに、その可能性はありますな。いいでしょう、武器もお返しいたしましょう」
「ありがとうございます」
珍しく、ボクの交渉がうまくいったぞ。
忙しい人のためのまとめ話
副村長、サイレントの申し出を断る。
副村長、サイレントの申し出をうける。