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第23話 サイレント、檻の中で水を飲まされる

前回のあらすじ


 サイレント、マジック・バックから水筒を取り出して水を飲む。

 サイレント、鍵を盗む名案を思い付く






 

「アリアはさっきみたいに、目を瞑って、耳を塞いで座って待っていて」

「分かったデス」

 ボクはアリアが座ったことを確認すると、即座に檻の鉄格子を1本つかむ。


「マジック・バック」

 ボクは警備員に聞こえないようにマジック・バックの呪文を唱えて、鉄格子の1本をそのままマジック・バックの中にいれて、無理矢理にバックを閉じた。


 やった、成功だ。

 鉄格子の1本を無理矢理マジックバックに入れることができたから、少しだけ隙間ができたぞ。


 これ位の隙間があれば、腕だけなら出せるはずだ。

 腕だけ出せるなら、警備員をこの鉄格子の前にうまく誘導できれば、ポケットから鍵をくすねることも可能だ。


 そうと決まれば、まずは、警備員を呼んで、ここまで来させなくては。

 どうやって呼び込もうか……


 できるだけ、不自然にならないようにするには……

 ボクは檻の外を見回す。


 置台に水入りのピッチャーらしきものがあった。

 これだ!


「すみません、水を持ってきてくれないですか」

 ボクは大声で叫ぶ。


「囚人のくせに、水を要求するとはいい御身分だべ」

「だって、喉が渇いたんだもん」


「水なら、朝の食事まで待つべ」

「そんなー。喉が渇いて死にそうだよ。これじゃあ、おちおち眠れもしないよ」


「自分の唾でも飲んでいるといいべ」

「水くらい飲ませてよ。そこにピッチャーがあるじゃないか! その水を今すぐ飲まないと、ボク死んじゃう」

 ボクはピッチャーを指さす。


「この水を?」

「そう、その水」


「はっはっはっ。お前、この水が飲みたいべか?」

「何がおかしいの?」


「この水は、前に捕まった囚人のための水で、1年以上ずっとここに置きっぱなしの水だべ。飲んだら間違いなくお腹を壊すべ」

「え? あ、やっぱり良いです」


 1年という期間は分からないけど、とにかく長い期間おかれたままの水ということは理解できたので、すぐさま断る。


「おいおい、喉が渇いて死にそうなんだべ? それなら飲ましてやるべ」

 後ろを向いてピッチャーをとる警備員。


 今だ!

 ボクはお尻のポケット目掛けて、ボクはバレないように手を伸ばす。


 だが、あとちょっとというところで手が届かない。

 諦めるな、ボク。

 あと、もうちょっと……


「さあ、口を大きくあけるべ」

 言いながら、振り返った警備員。

 ボクはとっさに伸ばした手をひっこめ、折れてしまった鉄格子の部分を自分の手で隠し、腕が出ていないことをアピールして、大きく口をあける。


「さあ、これを飲んで生き返るといいべ」

 檻越しにボクの口の中に水を流し込む警備員。


 あ、これ、飲み込んじゃダメなやつだ。

 水なのに、土の味がする。

 飲み込むフリして後で吐き出そう。


「おいしいべか?」

 ボクは、ほっぺを膨らせたまま、コクリとだけ頷いた。


 その瞬間、ゴクリと飲み込む。

 あ、飲んじゃった。

 長い期間放置されていた水を。


 まあ、飲んでしまったものは仕方がない。

 居直ろう。


「うわっ、1年もののワインならわかるべが、1年ものの水がおいしいとか、頭おかしいべ」

「本当に近頃の若い者は何を考えているかわからないよね」


「お前のことだべ」

「そう、ボクのことだよね」


「まったく、最近の若者ときたら、本当になんなんだべ」

 警備員がピッチャーを戻しに、後ろを向いた瞬間、ボクはすぐさま降りの中から手を伸ばし、鍵をお尻のポケットからくすねた。


「やった、成功だよ!!」

 ボクは嬉しさのあまり、大声を出してしまう。


「何が成功なんだべ?」

 警備員が振り返って訊ねてきた。


 まずい、このままだと鍵をくすねたことがばれてしまう。


「えっと……貴方達です」

「オラたちが成功……?」


「そうですよ。近頃の年寄りは素晴らしいくらいに成功しているじゃないですか」

「そうだべ、そうだべ。最近の若者は何考えてるかわかんないけど、年寄りは素晴らしいんだべ」


「そうですよね、あはは」

 良かった、アホで。

 さすがは、アホばっかりの村、ホバッカ村だ。

 これを言ったら、ホバッカの村から永久追放されるから絶対に口に出せないけど。


「お前たち若者も年寄りを見習って、素晴らしく成功するべ」

「そうですね」


「まあ、牢屋に捕まっているお前さんは遅すぎし由良助だべな」

 よく分からないことを言いながら、どこかへと去っていく警備員さん。


 良かった。誤魔化せた。


「アリア、アリア、アリア、鍵を手に入れたよ」

 ボクは興奮を隠しきれずに、アリアの肩を叩く。


「本当デスか?」

「ああ、本当だよ。この鍵でここから出よう」


「さすが、師匠デス」

「いやー、そんなことないよ」

 ボクは檻の中から鍵を鍵穴にツッコむ。


「あれ? 鍵が合わない」

「師匠、鍵穴に刺しているほう、持ち手デス」

 まったく、興奮しすぎだぞ、ボク。


「それなら、反対にして……と」

 ボクは今度こそ鍵穴に鍵を……


「あれ? 鍵をツッコめない。何で?」

 逆にして鍵の方を入れたのに……


「きっと、牢の中から鍵を差し込んでいるから難しいんデス。落ち着いて差し込んでくださいデス」

「分かったよ」


「おかしいべ」

「まずいデス、師匠。誰か来ました」

 ボクは慌てて鍵を自分の手のひらで隠す。


 さっきの警備員だ。まずい、鍵がないことに気づかれたか?


「鍵がないべ」

 やっぱり、気づかれた。

 ボクは鍵を隠し持っている拳をぎゅっと握りしめた。


「それは大変ですね。どこにいったんですかね?」

 ボクは両手を後ろに組んで、口笛を吹きつつこたえる。


「お前たちは鍵を見なかっただか?」

「見たデ……」


 相手が嘘発見調査官でもないのに正直に答えようとするアリアの口をボクは手でふさいだ。

 なんでこんなにもウソがつけないんだ、アリアは。


「ボクもアリアも、見てないよ鍵なんて」

 ボクはアリアの口をふさいだまま、知らないフリをする。


「そうかぁ、困ったべな」

「もしかしたら、更衣室じゃないですかね」

 この拘置所に更衣室があるかどうかは知らないけど。


「確かに、更衣室があやしいべ」

 よし、ここから立ち去ってくれれば、こっちのものだ。


「それなら、すぐに探しに行った方が良いですよ。誰かに盗まれでもしたら、大変!!」

「確かに。あの鍵がないと、おら、自分の家に入れないべ」


「そうそう、家に入れなくて大変……って、家の鍵だったんかい」

 ボクは叫びながら、床に思いっきり鍵を投げつけた。


 カキーン。


 牢内に無機質な金属音が響き渡った。


忙しい人のためのまとめ話


 サイレント、警備員を油断させて鍵を奪う。

 奪った鍵は、警備員の家の鍵だったので、脱獄できない。



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