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第21話 サイレント、脱獄を試みる

前回のあらすじ


 サイレント、ホバッカ村の検問所で質問される。

 サイレントとアリア、サイレントが口を滑らせたせいで捕まる。








 

「師匠がホバッカ村に入って来た魔物を人狼だと断定するからデスよ!」

「え? だって魔物が村で殺人をしたんでしょ? それなら、昨日おばあさんが話していた人狼に決まっているじゃないか!!」


 それ以外、考えられない。


「村の人たちは、村の中に魔物が殺人をしたって言っただけで、人狼とは一言も言ってないじゃないデスか!!」

「あ、言われてみればそうだね」


「目撃者でもないのに、師匠が魔物は人狼だと断定したら関係者だと疑われるに決まっているじゃないデスか!!」

「確かに」


 しまった、下手をうってしまった。

 何をやっているんだ、ボクは。


 もしも、ボクのヘマでアリアを檻に入れることになってしまった……と院長先生にばれたら、ホーリィで串刺しにされて、ボクの人生は終わってしまう。



「師匠、これからアリア達、どうなっちゃうデスか?」

「大丈夫、ボクがなんとかするから」


「なんとかするって、何をするデスか?」

「うーん、そうだな~。ボクのダガーで鉄格子を壊す……とか?」


「武器は全て没収されたと思っていたデスが、もしかして、師匠、ダガーを隠し持っているデスか?」

「あ、そうだった。全部没収されたんだった!! うっかりしてた!!」


「師匠、うっかりしすぎデス」

「よし、こうなったら、他の方法だ!! ボクにすべてを任せて」

 ここは、冒険者の先輩として良いところを見せないといけないぞ!!


「どうするつもりデスか?」

「禁断の技をつかうしかないな」


「禁断の技デスか?」

「その通り。この禁断の技は奥の手だから使いたくなかったんだけど、こうなったら、仕方ない」


「アリア、その禁断の技を覚えたいデス」

「ああ、ダメダメ。この技は見るだけで命さえ取られかねない、危険な技だからね」


「そんな危険な技をするデスか?」

「ピンチだから仕方ないよ。アリアは目を瞑って、耳を塞いで、檻の隅っこにいて。もし、終わったら肩をとんとんと叩くから、それまで、絶対に動いちゃダメだよ」

「分かったデス」

 アリアは素直に目を瞑って、檻の端っこに座る。


「アリア、アリア!」

 念のためにボクはアリアを呼びかける。


 アリアは座ったまま、微動だにしない。


 よしよし、聞こえていないな……


「すみません、誰かいませんか?」

 ボクは警備員を呼ぶ。


「どうしたべ?」

 さっきの警備員が駆けつけてくれた。


 よしよし、来た、来た。

 ふふふ……これから、とても危険な方法でここから脱出するとは、お釈迦様でも思うまい。

 さあ、やるぞ、禁断の技を!!


「お願いします! ここから出してください!!」

 ボクは禁断の技……土下座を繰り出した。


「こ、これは、何と、綺麗な土下座だべ!! こんなのを見てしまったら、檻から出してあげたくなってきたべ」

 そうだろう、そうだろう。

 ここは、もう一押しだ。


「心から、お願いします。ここから出してください。土下座なんてこと、滅多にしないんですから」


 ボクは床をピカピカに磨くかのようにおでこをこすりつける。

 こんな光景、絶対にアリアには見せられないんだからね。


「でも、さっき、嘘発見調査官様にもしていたべな。お前さん、誰にでもするんだべ、土下座」


「え? いや、その、それは……」

 あ、しまった。

 さっき、嘘発見調査官にしたばかりだった。


「何も言い返せないところをみると、やっぱりそうだべ。絶対に出してやんねえべ」


 禁断の技が失敗しただと……

 いや、まだだ、まだ、可能性はある。

「そんなこと言わずにお願いします」


「それよりも、隣で固まっている、女の子が心配だべ。お前さん、大丈夫だべか?」

 言いながら、アリアの肩をぽんぽんと叩く警備員。


「終わったデスか? 師匠……」

 言いながら、アリアは目をあけ、耳を塞いでいた手をとって、ボクの方に振り返ってきた。


「え?」

 ボクは土下座したまま、アリアと目が合う。


「アリア、まだだ。まだ、禁断の技で警備員の心を変えさせている途中なんだ!!」

 ボクは叫ぶ。

 土下座したまま。


「そうだったんデスね。ごめんなさいデス。アリア、師匠が土下座してると勘違いしたデス」

 言いながら、アリアはさっきの姿勢に戻る。


 そうなんだよ、土下座なんだよ、アリア。


 ボクはアリアと同じように、目を瞑り、耳を塞いで落ち込む。


 ぽんぽんとボクの肩を叩く人がいる。

 耳から手を離して振り返ると、警備員だった。


「おい、大丈夫だべか?」

 全てをさっと多様な顔をした警備員が心配そうに聞いてきた。


 ふふふ、これを待っていたのだよ。

 ひっかかったな、警備員め。

 アリアにばれることさえも、ボクの完璧な計画の一部だったんだから。


「お腹が痛くなってしまったので、ダガーを一本くれませんか?」

 ボクは小声で話しかける。


「なんでお腹が痛くなったからって、ダガーを渡さなくちゃいけないんだべ? 自害でもするつもりだべか?」

「自害なんかしないよ」


「それなら何のためにだよ?」

「そりゃあ、もちろん、脱獄するために決まってるじゃないか」


「警備兵をして長いが、正直に話す奴なんか、初めてだよ。お前、相当のバカだべな」

「しまった。正直に言っちゃった!!」

 ボクの完璧な計画が……


「たとえ、うまくウソをついたとしても、刃物は渡せない決まりだから決して手元に刃物はなかったと思うけんどな」

「そこをなんとかお願いしますよ、義兄弟」


「お前となんか、義兄弟になった覚え何かないべ」

「いや、さっき、ボクのことを義兄弟って言ってくれたよね?」


「いんや、お前さんとは最初から赤の他人だべ」

「ついさっき、ボクのことを義兄弟って言っていた人だよね? いくらボクがバカでも、さっきのことくらい覚えてるんだからね!」


「そんなこと言った覚えないべ」

 くっそー、手のひら返ししやがって!

 それならこっちだって考えがあるんだからね。


「ダガーがダメなら、鍵をください」

 ボクは頭を下げる。


「この鍵が欲しいんだべか?」

 警備員はお尻のポケットから鍵を取り出し、ボクにみせつける。


「そうです。その鍵が欲しいんです」

「何で、赤の他人に鍵を渡さなければならないんだべ」


 ダメでもともとだと思って頼んでみただけだけど、やっぱりダメだったか。


「まったく、近頃の若い者ときたら、何を考えてるんだかわからんべな……」

 警備員は玄関の方へと行ってしまった。


「アリア、『終わった』よ」

 ボクはアリアの肩を叩いた後アリアに伝える。

「それはどういう意味の『終わった』デスか?」

 色々な意味でだよ……


忙しい人のためのまとめ話

 

 サイレント、禁断の技で脱獄をしようとする。

 サイレント、脱獄を失敗する。



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