第19話 サイレントとアリア、ホバッカ村の検問所に到着する
7月1日 誤字を訂正しました。内容は一緒です。
前回のあらすじ
アリア、おばあさんと話し込む。
サイレントとアリアおばあさんの家を出る。
「師匠、ホバッカの村でも入村審査みたいな検問があるデスよね?」
ホバッカ村への道すがら、アリアがボクに話かけてきた。
「ああ、うん。もちろんあるよ」
ボクは歩いている脚を止めずにこたえた。
「どうしましょう、師匠」
「アリア?」
後ろからアリアの声が聞こえたので、ボクも足を止めて振り返りながら尋ねた。
「アリア、ウソがつけないデス。もしかしたら、検問所で村に入るのを拒否されるかもしれないデス」
「なーんだ、そんなことか。大丈夫、大丈夫。全く問題ないし、全然心配ないから」
ボクはまたホバッカ村へと歩き出しながらこたえる。
「どうしてデスか?」
アリアはパタパタと走り、ボクの隣で聞いてきた。
「ホバッカの村の検問は基本的にゆるゆるだからね」
「ゆるゆるデスか?」
「そう、ゆるゆるのゆる。何度かカバッカ村に行ったことがあるけど、検問中、全然質問されたことないよ。村に魔物が侵入した時は、嘘発見調査官が出張ってくるくらい厳しかったけど、そんなこと滅多にあることじゃないしね」
「でも、人狼が村に入っていて、大混乱になっているかもしれないデスよ?」
確かに……
なんて思わないよ。
「人狼は人に完璧に化けることもできる上に、おばあさんの話だと、優しいんでしょ? そんな人狼が村で問題を起こすと思う?」
「思わないデス」
「でしょ? だから、大丈夫。アリアは堂々としていればいいんだよ」
「分かったデス」
アリアは納得して大きくうなずいた。
「ちなみに、どんなことを聞かれるんデスか?」
「それはその時になってみないと分からないね。毎回、検問所にいる人は違うわけだし」
「うう、もしアリアの出自のことを聞かれたりしたら、なんて答えればいいのかわからないデス」
出自?
ああ、アリアの両親が魔王軍討伐隊のメンバーで、既に亡くなっていること言いたくないのかな……
それはそうか。
ボクがアリアだったら、魔王討伐隊なんて言葉を聞いただけで、悲しくなって、感情がうまくコントロールできなくなってしまうだろうし。
「安心して、アリア。ホバッカ村の検問で出自なんか聞かれたことないから」
ボクはできるだけ笑顔を作ってアリアの心配の種を取り除く。
「本当デスか?」
アリアの顔が、ぱあっと明るくなった。
「本当だよ。出自は絶対に聞かれないよ。逆に絶対に聞かれる質問はあるけどね」
「絶対に聞かれる質問ってどんな質問デスか?」
「カバッカの町を愛しているかどうか」
「ホバッカの村に入るのに、どうしてカバッカの町のことを聞かれるんデスか?」
「ホバッカの村の人達はカバッカ町が大嫌いだからね。カバッカの町を愛しているなんて人を村にのさばらせるわけにはいかないんだよ」
「どうして、ホバッカ村の人達は、カバッカ町の人が嫌いなんデスか?」
うーん、詳しくは知らない。
「えっとね……昔からいざこざがあって……まあ、行けば分かるよ」
ボクは曖昧に答えた。
「分かったデス」
「ちなみに、アリアはカバッカ町のことを愛してる?」
「師匠を追い出す町なんか、大っ嫌いデス」
「それなら挙動不審にならないように、落ち着いて質問に答えれば、絶対に大丈夫だよ。何とかなる」
「分かったデス」
「安心したなら、検問所へ行こう!!」
目の前に村の検問所が見えてきたので、ボクはアリアをうながした。
「そうデスね!!」
良かった。
アリアが不安のまま検問所に向かったら、検問所の人は不信感を抱いて、バンバン質問攻めにあってしまうだろう。
だが、こんなにも安心していれば、質問攻めにはあわないはずだ。
ボクは、アリアとともに検問所の列に並んだ。
…………
……
「はい、それでは次の方」
あれ? 誘導係がいる……だと……
「何かあったんですか? いつもは誘導係の人はいませんよね」
ボクは冷や汗を肌で感じながら、誘導係の屈強そうな男性に訪ねた。
「町の中に魔物が入ってきて、殺人を犯したんだべ」
「魔物が殺人だって!!」
ボクは大声を出してしまった。
魔物が殺人を犯したとなれば、一大事だ。
おばあさんめ、人狼は優しいって言っていたのに、話しが違うじゃないか。
きっと、長く生きてきただけで、人を見る目がなかったんだ、あのおばあさん。
ん? 待てよ、そもそも、人狼は人じゃなくて魔物じゃないか!!
そりゃあ、人狼の心なんて見極められないよ……だって、魔物だもの。
「それで、都から早馬で嘘発見上級官が出張ってくれているってわけだべ」
「そうなんですね」
嘘発見上級官がいるだって?
確か、嘘発見上級官の前では全てのウソが通じないんだったよな……
「どうするデス、師匠。逃げるデスか?」
狼狽えるアリア。
「落ち着いて、アリア。今ここで逃げだしたら、確実に捕まるよ。ボク達は何も悪いことなんかしていないんだ。堂々と嘘発見調査官の質問に答えればいいさ」
そう、大丈夫だ。
アリアは質問されたくないことはあるかもしれないけど、ボク達にやましいことなど一切ないのだから……
「何をこそこそと話しているんだべ」
「こそこそなんかしてないよ」
「そうだべか? それなら、武器を全てここに出すんだべ」
「師匠、いつでも逃げられるようにマジック・バックにこっそり武器を入れておくデスか?」
「ダメだよ、もし、嘘発見調査官が武器を本当にすべて出したかどうかを尋ねられたら、一発でバレちゃうからね。全部出そう」
「分かったデス」
ボクとアリアは身に付けていた武器を全て出すと、誘導係はそれを手に持つ。
「他にはないべか?」
「ないです」「ないデス」
「よし、それなら、ついてくるべ!!」
ボクとアリアが誘導係と一緒に個室に入った。
そこには、簡素な木製のテーブルと椅子に腰かけた女性がいた。
女性は水晶をのぞき込みながら、ぶつぶつと一人で水晶に語り掛けている。
「貧乏くじを引いたわ。なんて不幸なのかしら。こんな辺鄙の田舎村に派遣されるなんて……早く帰りたいわ」
ぶつくさと部屋の中を響き渡る女性の高い声。
よしよし、やる気ないな、この嘘発見調査官。
これなら、楽勝で調査は終わるだろう。
ラッキー。
忙しい人のためのまとめ話
アリア、ホバッカ村の道すがら、検問所について聞く。
サイレントとアリア、村で魔物による殺人があったことを知る。