第18話 サイレント、スローライフをさせて欲しいと、おばあさんに頼み込む
前回のあらすじ
サイレント、海水を原液で常習的に飲んでいた。
サイレント、朝ごはんをアリアが残した全ての朝ごはんを食べる。
「美味しかったデス。おばあさん、ありがとうございますデス」
朝食を食べ終えたアリアが丁寧にナプキンで口をふきながらおばあさんに頭を下げる。
本当にアリアは食べ方が優雅だ。
食べ残しがほとんどない。
きちんとしたマナーを教えられたのだろう。
お皿の上にパンくずやら食べ残しが汚く残っているボクとは大違いだ。
いや、これは、全部食べろって言われて、とりあえず、手を付けた結果なんだからね。
それなら、全部キレイに食べろ……って言われたら、丁重にお断りするけれども。
「お粗末様。あんたの口にはあったかい?」
ボクに話を振るおばあさん。
「美味しかった……です」
お腹がぱんぱんになるまでは。
お腹の中がぱんぱんになってからは、味は感じていませんでした……とはいえる雰囲気じゃないから、黙っておこう。
「それなら、良かったよ。それじゃあ、食べ終わった食器を洗おうかね」
「アリアも手伝うデス」
「ありがとうね」
おばあさんは優しい口調でアリアに言う。
「それじゃあ、ボクも手伝うよ……」
ボクは立ち上がろうとするが、お腹がパンパン過ぎてもう動けない。
「おや? 手伝うと言ったのに、座ったままじゃないか。 座ったままじゃ食器は洗えないよ。もしかしてあんた、口だけの人かい?」
「まさか、師匠、口だけの人だったんデスか?」
「いや、違うよ。本当にお手伝いしたいんだよ。でも、お腹がはちきれそうで、動けないんだよ」
「そういうのを口だけっていうんじゃないのかい?」
「うっ……」
その通りかもしれない……
「分かったデス。アリアが師匠の分まで食器を洗うので、師匠はそこで座っていてくださいデス」
「ありがとう、アリア」
アリアはボクの食べ終わった食器を回収してくれた。
「そういえば、人狼ルプスはどこへ行ったんデスか?」
アリアは食器を洗いながら、おばあさんに尋ねる。
「ホバッカの村だろうね」
「今からボク達、ホバッカの村に行く予定なんですよ」
「あら、そうなのかい。ルプスがこの家を出たのは昨日だから、村に滞在していれば、会えるだろうね」
「え? ルプスって魔物だよね?」
魔物に関わり合いたくなかったボクは、ため口で聞いてしまった。
「そうさ、ルプスは人狼さ。だけどね、とっても優しい子だから、あんた達と友達になれるよ」
「魔物と友達だって? そんなこと無理に決まっているじゃないか!!」
「いいや、あんたたちは絶対に友達になれる」
「どうしてそう言い切れるの? 出会い頭に、眠らされて、腕や脚をちぎられたあげく、命まで取られるかもしれないんだよ」
「絶対に人間を殺そうとなんかしない優しい子だからね」
「何で分かるの? 本性を隠しておばあさんに近づいた可能性もあるよね?」
「長く生きて、色々な人とつきあっているとね、直感的に分かるのさ。ああ、この子は優しい子だ……あんた達みたいに」
「え? ボク達?」
「そうさ。それが根拠さ」
ボクとアリアは優しいのだろうか……なんて思っていると、グルルルル。
急にお腹が痛くなった。
「あの、トイレを借りても良いですか?」
「ああ、この部屋の突き当りを右さ」
急げ、急げ。
「もしも、あの子に会うことができたら、…………で、………だと伝えておくれ。あ、あと……」
アリアとおばあさんは話し込んでいるけど、そんなことを気にしている暇などない。
ボクはトイレへと駆け込んだ。
…………
……
はー、スッキリした。
「……ということも伝えておくれ」
「分かったデス」
ボクがトイレから戻っても、まだ話は続いていたようだ。
「一宿一飯の恩義があるデス。人狼にあったら、必ず伝えるデス」
アリアはしっかりと肯いているけど、ボクとしては会いたくはないよ、人狼。
「さて、アリア、そろそろホバッカの村に行こうか?」
トイレに行ってすっきりしたしね。
「そうデスね」
「おばあさん、色々とありがとうございました」「ありがとうございましたデス」
ボクとアリアは深々と頭を下げる。
「アリアちゃん、良ければここにずっといてもいいんだよ? ここなら、山の獣を狩りさえすれば、生きていくのにことかかないからね」
「ありがとうございますデス。でも、アリアには、魔王を倒すという大切な使命があるデス」
「そうなのかい? それは残念だね」
「それなら、ボクがおばあさんのお世話になろうかな? ボクなら山の獣の狩りくらいできるしね」
「え? 師匠、もしかして、ここでお別れデスか?」
アリアは目を潤ませている。
「まあ、そういうことになるかな……ほら、ボク、スローライフをするのが夢だし」
「スローライフは一緒に魔王を倒してからでも遅くないデス」
「いや、魔王なんか倒さないよ」
「そんなこと言わないでくださいデス」
「おばあさん、ボクをここに置いてください」
ボクはもう一度頭を深く頭を下げておばあさんに頼みこんだ。
「あはは……あんたが『ヤマンバ』とか『加齢臭』とか言ったのは、忘れてないからね」
おばあさんはボクにだけ聞こえるように、ぼそっと呟いた。
明らかに尖った声だ。
「さあ、行こう! ホバッカの村へ!!」
ボクは人差し指をおばあさんと反対側に出しながら、自分の申し出をなかったことにする。
「師匠、一緒に来てくれるんデスか?」
「当然だよ、アリア。ボクがアリアを一人で行かせるわけないじゃないか。山道には危険がいっぱいなんだから」
「師匠……アリア、感動したデス」
本当は一人で行かせようとしたんだけどね。
ごめんね、アリア。
「覚えておきな。アリアちゃんを感動以外で泣かせたら、私が許さないからね」
「分かってますよ、おばあさま」
ボクはもみ手をして下手に出ながらこたえる。
「ところで、ホバッカの村までどう行けばいいんデスか?」
「この道を道なりに真っ直ぐ降りて行けば、ホバッカの村さ。ゆっくり行けば夜にはつくだろうよ」
「何から何までありがとうございましたデス」
「それはこっちのセリフだよ。孫がいるみたいで楽しかったよ」
「おばあさん、お元気でいるデス」
「あんたたちも道中気を付けなね」
ボク達はおばあさんが見えなくなるまで手を振り続け、おばあさんがみえなくなると、おばあさんに背を向けてホバッカの村へと歩き始めた。
忙しい人のためのまとめ話
アリア、おばあさんと話し込む。
サイレントとアリアおばあさんの家を出る。