第17話 サイレントの強さの秘密!?
前回のあらすじ
アリア、サイレントがシャワーを浴びている間、眠ってしまう。
翌朝、おばあさんから朝食に誘われる。
「海水を原液で飲み続けたら、死んじゃうの? はっ、言われてみれば、幻覚が見えてきたかも。これは懐かしい思い出の数々だ」
これが走馬灯というやつか。
「どうして、今現在、海水を飲んでいないのに、幻覚が見えるんデスか。幻が見えるのは、海水を飲んだ直後くらいデス」
「もちろん、冗談だよ。もちろん」
今みた走馬灯は、きっとただ昔のことを思い出しただけだろう。
「もう、師匠ったら、冗談なんてお茶目デスね」
「『お茶目』じゃなくて、ボクの場合、『海水目』だね」
「面白いデス、師匠」
うん、面白くなかったんだね、アリア。
人は本当に面白いと思った時は、つい笑い声が出ちゃうものなんだよ。
「はっ、アリア分かっちゃったデス」
「何が分かったのさ?」
「師匠の強さの秘訣デス」
「ボクの強さの秘訣?」
「日常的に海水を飲むことなんじゃないデスか?」
「あはは、そうかも」
ボクは乾いた笑いでこたえる。
言えない。
海水がパーフェクト・フードだと聞いてから、食費をケチるためだけに海水を飲み続けていたなんて……
「それなら、アリアも今日から毎日海水を飲むデス!!」
「それもいいかもね……」
ん?
待てよ。
ボクが海水を勧めたのが原因で、アリアは幻覚を見て、死んでしまうかもしれない……ってこと?
「絶対にダメだから」
そんなことさせたら、ボク、院長先生に聖魔法ホーリィで心臓を串刺しにされちゃうよ。
「でも、師匠は毎日飲んでいたんデスよね?」
「ボクは特殊な訓練を受けて、『冒険者特別証』を取得したからいいけど、アリアは特殊な訓練を受けてないからね」
「『冒険者特別証』が必要なんデスね。知らなかったデス」
もちろん、冒険者特別証なんて資格、存在しないよ、アリア。
ボクがたった今思いついたウソなんだから。
騙されやすい……というより、世間知らずなんだろうな、この子。
一つ一つの所作がエレガントなところをみると、箱入り娘だったんだろうなぁ。
「その訓練はどこで受けられるんデスか?」
まさか、取得する気なの!?
無理だよ。
だって。そんな資格はないんだから。
「あー、その資格は難易度が高い資格なんだ。アリアには難しいんじゃないかな」
「大丈夫デス。アリア、天才デスから」
そうだった。
この子、天才だった。
それなら、違う角度から諦めさせよう。
「そうそう、あの資格を取得するには、とてもお金がかかるんだった。だから、無理じゃないかな?」
「アリア、お金ならたくさん持っているデス」
あ、しまった。
この子、金持ちだった。
こうなったら、取得しても意味がないことを強調しよう。
「お金をかけて取得しても、何の役にも立たないよ」
「そんなことないデス。師匠はその資格を取ったから、海水を直で飲めるデス。海水を直で飲んだら、強くなれるデス」
まっすぐな眼でこちらを見つめてくるアリア。
「え? まあ、そうなんだけどさ……」
今更、嘘だとは言えないぞ。
「アリア、強くなりたいデス。どこで取得できるデスか?」
「それは……」
「それはどこデスか?」
「カバッカの町だよ」
嘘だけど。
「それならすぐに行きましょう!!」
アリアはボクの袖を引っ張る。
「ボクも行きたいんだけどね。でも、ボク、町から追放されてるからな。ボク達がカバッカの町に戻ったら、命はないよ」
「そうデスよね……」
うつむきながら、つぶやくアリア。
ふう、これでアリアも架空の資格取得を諦めるだろう。
「それなら、カバッカ町の全員を抹殺すれば問題ないデスね?」
「そうだね、町の全員を抹殺すれば……って、問題大ありだよ。そんなことしたら、全世界から指名手配されちゃうよ」
全然諦めてないし。
可愛い顔をして、怖いことを真顔で言わないで欲しい。
「そうなってしまったら、全世界の人々をテイムすれば、問題ないデス」
「そうだね……って、わざわざ全世界の人をテイムするくらいなら、最初からカバッカ町の人々をテイムすればいいじゃないか」
「カバッカ町の人たちは師匠を町から追い出したので、カバッカ町の人は抹殺一択デス」
「カバッカ町の人を抹殺後、世界中の人をテイムするの?」
「そうデス」
とてつもなく大変。
「いや、そもそもカバッカ町で資格取得するんだから、最低限、資格を出す人は生きていないといけないよね?」
「その人達はテイムして、アリアに従わせればいいんデス」
「いやいや、アリア。そもそも人間をテイムすることはできないんだよ」
人間がテイムできる前提で話が進んでいたけど、それは机上の空論なのだよ。
うん、机上の空論なんて難しい言葉を使えるなんて、なんてすごいんだろう、ボク。
意味を間違って使っているかもしれないから、決して口には出さないけど。
「そんなことはないと思うデス。魔物にテイムされた人間もいる……という噂を聞いたことあるデス」
「そんな人、いないと思うよ」
お姫様が人間をテイムしたとか、魔物にテイムされた……みたいなことをカバッカの町のおっちゃんが言っていたけど、デマだろうし。
「どうしたんだい、イスにも座らずに立ち話なんかして」
キッチンから出てきたおばあさんがボク達に訊ねてくる。
「それは、人間をテイムできるかどうか議論していたデス……もごっ」
ボクはアリアの口を手でふさいだ。
なんで正直に話そうとするんだ、アリア。
これじゃあ、まるでボク達がおばあさんをテイムしようと画策しているみたいじゃないか。
「あ、いや、こんなに多くのごちそう、食べられなさそうだなって、アリアと話していたんです」
ボクはしれっとウソをつく。
「多いだって? 若いんだからぺろっと食べられるだろ?」
「いや、ぺろっとは食べられないかと……」「そうデスね」
ボクは院長先生みたいに大食いじゃないしね。
「遠慮なんかしなくていいんだよ」
「いや、遠慮とかではなくて……」「おそらく、無理デス」
「まさかとは思うけど、私が頑張って用意した朝ごはんを全部食べられないなんて言うんじゃないだろうね?」
ぎんっ。
おばあさんがボクだけを睨んできた。
「食べます」「アリアは無理そうデス」
「そうかい、アリアちゃんは無理だけど、師匠は食べられるってことだね」
しまった。
正直に無理だって言えば良かった。
「あ、いや、今のは……」
「そうデス。師匠なら、これくらいの量、余裕デス」
「さすが、アリアちゃんの師匠。余裕だなんて、かっこいい」
「そうですね、余裕ですね」
ボクは涙目で、アリアが食べきることができなかった全ての朝ごはんを胃に流し込んだ。
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、海水を原液で常習的に飲んでいた。
サイレント、朝ごはんをアリアが残した全ての朝ごはんを食べる。