第15話 サイレント、アリアがおばあさんを信じた理由を聞く
前回のあらすじ
アリア、おばあさんを疑う。
アリア、おばあさんを急に信じる。
「どうしたの!? 急におばあさんを信じるとか言い出して」
「何を言っているんデスか、師匠! アリアは最初から信じていたデスよ」
まさかの身内から裏切られた……
「はっ、まさか、あのヤマン……おばあさんに操られているんじゃ……」
「そんなわけないデス。アリアにはおばあさんが人狼じゃないという確証があったのデス」
「確証って、何?」
「それは香りデス!」
「香り?」
「そうデス。人間族には人間族特有の香りがあり、天界に住んでいる天使族には天使族特有の香りがあるように、魔界に住む人型魔族にも特有の香りがあるのを思い出したんデス」
「……ということは、おばあさんから人狼の香りがしなかったってこと?」
「そうデス。おばあさんからは加齢臭しかしなかったデス」
アリアはボクにだけ聞こえるように耳元で囁いた。
加齢臭って、おばあさんがいたら、怒られるやつだよ、アリア。
「ちなみに、人狼の香りってどんな香り?」
ボクも小声で尋ねる。
「人狼は人間に化けている時には砂糖菓子のような甘い香りがほんの少しだけするはずデス」
「そうなの?」
「そうなのデス。」
「それなら、ボクにも人狼を見分けられるね」
「師匠には難しいと思うデス」
「どうしてさ?」
「人狼の甘い香りを師匠は知っているデスか?」
「知らないけど、教えてもらえれば分かるんじゃない?」
「鼻の良いアリアでも、肌に触れるくらいの近さじゃないと分からないデス」
ああ、だから、さっきアリアは一度おばあさんに抱き着いたのか。
「大丈夫、ボク、鼻はいいから」
「ちなみに、今、師匠はおばあさんの加齢臭がするデスか?」
「しないよ」
ボクは首を横に振る。
「……ということは、師匠はアリアより鼻は良くないデス。きっと、香りで判断はできないデス」
「そっか、それじゃあ、ボクには無理か……」
「そうデスね……狼姿の時には、その香りが強くなるんデスけど、その香りを嗅いだとたん、師匠は眠ってしまうデス」
「眠る? 何で?」
「狼フォルムの人狼の発する強い香りをには眠りの効果があるのデス」
「そっか、眠っちゃうのか……あれ? それなら、おばあさんが人狼を発見した時にはどうして眠らなかったの?」
「おそらく人狼が瀕死の状態だったからデスね。弱っている時には香りの効果も薄くなっていると聞いたことがあるデス」
「……って、ちょっと待って。もしも、本当におばあさんが人狼だったらアリアは寝てしまっていたってこと?」
「人型なら、なんとか耐えられるデス」
「もしも、おばあさんが人狼で、狼の姿になっていたら……」
「おそらく、アリアと師匠は甘い香りに抗うことも出来ずに、今頃は夢の中デス」
「ねえ、アリア、もしも、あのおばあさんが人狼で、ボク達に害意があったら……」
「人狼の香りで眠らされた後、鎖で縛られ、腕の一本や二本、失くしていたかもしれないデス」
アリアの言葉に背筋がゾッとした。
「良かった、おばあさんの香りが加齢臭で」
「加齢臭がどうかしたかい?」
まずい。
ホッとして、普通の声で話しちゃったから、おばあさんに聞こえてしまった。
「どうもしないです」
ボクは必死に顔の前で手を振り、何でもないことを強調する。
「そうかい? 二人でこそこそと、カレーがどうとか言ってなかったかい?」
「ああ、カレーが食べたいなぁって言ってたんですよ」
「残念ながら、カレーはないね」
「そうですよね。珍しい食べ物ですもんね」
ふー、危ないところだった。
なんとか誤魔化せたぞ。
「ところで、私の疑いが晴れたんだろ?」
「そうですね」
「それなら、お客様用の部屋が空いているから、あんたたち、今日はここに泊まって行きな」
「いいんですか?」
「ああ、ベッドもシーツも2人分あるから問題ないさ。明日の朝になればスケアード・スライムも解散しているだろうからさ」
「確かに、スケアード・スライムは夜行性で、朝は自分の巣で眠るはずデス」
「それなら、泊まってもいいでしょうか?」
「もちろんさ。そうと決まれば、ベッドメイキングしてくるよ。あんた達は交代でシャワーを浴びちまいな」
おばあさんはそう言い残し、ランタンを持って他の部屋へと消えていった。
「おばあさんはシャワーを交代で入れと言っていたデスが、それだと、おばあさんをまだ疑っているみたいになってしまうので、師匠、ここは一緒にシャワーを浴びませんか?」
「そうだね、シャワーを一緒に……って、それは止めておこうか」
「どうしてデスか? 初めての共同作業デスよ?」
アリアと一緒にシャワーを入ったことが院長先生に知られたら、間違いなく、ボクの命はなくなってしまうからね……とはもちろん言えるわけもない。
「シャワーくらい、一人で浴びれるじゃないか」
「もちろん、一人でも浴びれますが、師匠と一緒でも浴びれます」
「確かに……」
確かにじゃないよ。
何で納得してるんだよ、自分。
命がかかっているんだぞ。
「そういうことじゃないでしょ」
「それなら、どういうことデスか?」
「いいかいアリア、もしもこの家に人狼がいないとスケアード・スライムに気づかれたら、この家を襲ってくるかもしれないでしょ?」
ボクはそれっぽいことを言う。
「そうデスね」
「二人ともシャワーを浴びていて、おばあさんが襲われて、それに気づかなかったボク達も襲われたら、全滅だよ。万が一ためを考えて、どちらかは動けるようにしておかないといけないんだ」
「分かったデス」
アリアは渋々うなずいた。
忙しい人のためのまとめ話
アリア、おばあさんの香りで人狼じゃないことを確信する。
アリア、一緒にシャワーを浴びようと提案するが、サイレント断る。