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第14話 アリア、おばあさんを信じる

前回のあらすじ


 おばあさん、人狼を怖くなくなる。

人狼、スライムの恐怖を食べてやせ細ったので、おばあさんの家を出て行った。



 



「それなら、私の話を信じてくれるんだね?」

「それは無理デス」


「どうしてさ? アリア。まさか、人狼は1匹だけじゃなくて、スケアード・スライムみたいに群れで行動するから……とか?」

「いいえ、この世に人狼は1匹しかいないデス」


「それならなんで信じられないの?」

 1匹しかいない人狼が走り去ったのだから、このおばあさんは人狼たり得ないじゃないか。


「人狼がアリア達に気づいて、先回りした可能性もあるからデス」

「それは無理じゃないかな……もしそうなら、ボクが気付いているはずだし……」

 山の中ではずっと気配察知を使っていたんだよ、ボク。


「何らかのトリックを使って、おばあさんに成り代わっている可能性もあるデス」

「……ということは、自覚はないけど、私は人狼なのかい?」

 自分で自分を指差して訊いてくるおばあさん。


「いや、ボクに訊かれても、分からないよ」

 おばあさんをどこからどう見ても、人にしか見えないし。


「デスから、人狼かどうかを確認するためには、致命傷を与えるのが一番なんデス」

「だから、それはダメだって!!」

 大鎌を振り上げるアリアをボクはもう一度アリアを羽交い絞めにする。


「デスが、師匠がおばあさんは怪しいと思っているんデスよね?」


 あ、そうだった。

 こうなった原因はボクだった。


 もともとアリアはおばあさんを疑ってなかったんだよ。

 それなのに、ボクが執拗に疑うからこうなったんじゃないか。


「アリア、ボクはおばあさんが怪しいと思っていた。だけど、話を聞いて納得できたから、おばあさんを疑うのはよそう」

「師匠がそう言うならやめるデス」


「ありがとう、アリア」

「ありがとうね、お嬢さん」

 ボクがお礼を言うと、続けておばあさんも深々と頭を下げてお礼をした。


「アリアはおばあさんを信じたわけではありません。師匠を信じただけデス」

 頬を膨らませ、ぷいとそっぽを向くアリア。


 その様子から見て、まだおばあさんを人狼だと疑っているようだ。


「さて、疑いも晴れたところで、お茶でも飲みな」

 おばあさんはにかっと笑って、お茶を勧めてくる。


「飲まないデス」

「どうしてさ?」


「何か毒物が入っているかもしれないって、師匠が言っていたからデス」

 堂々とはっきりとおばあさんの前で言うアリア。


 そうそう、その可能性もあるからね……って、何で疑っていることを本人に言うの!!

 そんなこと言われて、気持ちのいい人なんかいるわけないじゃないか!!


「毒物だって?」

 ギロッとボクを睨んでくるおばあさん。

 ほら、睨まれた。


 ここは、お茶を飲み干すしかない。


「何を言っているんだ、アリア。毒物なんか入っているわけないじゃないか」

 ボクはお茶を口の中に流し込む。


 苦っ!

 舌がえぐれるような味だ。


 でも、ここは我慢して、飲み込んで『美味しかった』って言わないと、おばあさんの怒りは収まらないぞ……


「あ、そういえば、入れたんだった、即効性のある苦い毒物! あんた達が私の命を奪いに来たと思っていたから」


 ぶー。

 ボクはお茶を吐いた。


「殺す気か!!」

「あはは、冗談だよ、冗談。毒物なんか入ってないって。苦い味のする健康茶だよ」

 言いながら、おばあさんはボクの持っていたティーカップを受け取り、ごくりと飲み込む。


「言っていい冗談と悪い冗談があるぞ」

「お茶に毒を盛っているなんて言っていたあんたも、相当悪い冗談だけどね。こんな善良なおばあさんを疑うなんて、悲しいわ……しくしく」


 うっ、言い返せない。


「……なんてね。お互い、勘違いはあったけど、仲良くしようじゃないか」

 おばあさんは握手をするために手を差し出す。


「そうですね」

「待つデス」

 ボクも手を差し出そうとした瞬間。アリアが割って入った。


「念のために、お互い手を触れない方がいいデス。人狼はコピーをするためにしきりに相手をさわりたがるデスから」

「そうかい、それなら、握手はまた今度かね……」

 おばあさんは残念そうにつぶやいた後、鼻をすんすんと鳴らした。


「なんか、汗臭いね」

「あ!」

 アリアは大声をあげる。


「どうしたの、アリア。大声なんかあげて」

「何でもないデス。もしかして、汗臭いのはアリアのせいデスかね?」


 アリアもおばあさんのように鼻をすんすんと鳴らした。


「それはボクのせいだよ」

 思い返せば、ダンジョンに潜ってから、ずっとお風呂に入っていないからね。


「それなら、シャワーがあるから浴びるといいよ」

「シャワー、あるんデスか?」

 目を輝かせるアリア。


「簡易的なものだけどね。もしも私を人狼だと疑っているなら、交代でシャワーを浴びるといいさ」

「シャワーがあるだけでありがたいデス。ありがとうございますデス」


 アリアはおばあさんに抱き着く。


「えー? アリア、おばあさんを疑っていたんじゃなかったの?」


「アリア、疑ってなんかないデスよ。おばあさんは間違いなく人デス」

 あっさり信じた。

 さっきはあれだけ信じていなかったのに。


 シャワーか、シャワーなのか?

 シャワーがアリアを変えたのか?

 恐るべし、シャワーの魔力。


忙しい人のためのまとめ話

 

 アリア、おばあさんを疑う。

 アリア、おばあさんを急に信じる。




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