第10話 サイレント、おばあさんを疑う
前回のあらすじ
サイレントとアリア、おばあさんに出会う。
アリア、魔法で山を焼け野原にしようとする。
「ここは魔法を使わずに、アリアは大鎌、ボクはダガーでスケアード・スライムを1匹ずつしとめていこう」
「分かったデス」
アリアはこくりとうなずいてくれた。
良かった、山火事を事前に防げた。
「何をコソコソと話しているんだい? とりあえず、お茶を飲みな」
「お茶は今はいらないです」
ボクはきっぱりと断る。
「そうかい……」
おばあさんは残念そうにつぶやいた。
「いいですか、おばあさん、よく聞いてください」
「何だい?」
「ボク達が魔物を足止めしますから、おばあさんは安全なところへ逃げてください」
本当は魔物となんか戦いたくはないけど、仕方ない。
「それなら大丈夫。さっきも言ったけど、魔物なら襲ってこないからね。そこのカーテンの隙間から、そっと外を覗いてみてごらん」
カーテンを指さすおばあさん。
そんなわけないでしょ。
魔物は人を見たら、襲ってくるものなんだから。
……いや、でも、待てよ。
スケアード・スライムから必死に逃げたんだ。
もしかしたら、スライム達はついてこれていなかったかもしれない……
そうだよ、ついて来ていないに違いないよ!!
ボクはカーテンの隙間から外をのぞきみた。
そこには、確かに、月明かりに照らされたスケアード・スライムがわんさかいた。
「やっぱり、襲ってきているじゃないですか!!」
話が違いますよ、おばあさん。
「よく見てご覧、スライム達はこの家まで来ているかい?」
「あれ? スケアード・スライムはわんさかいるのに、この家には近づいて来ない」
スケアード・スライムは遠巻きからこちらの様子をうかがってはいるが、この家に近づこうとしてこない。
「本当デス。スライムが寄ってこないデス」
まるでこの家に結界でも張ってあるかのようだ。
もしかして、この家そのものが魔除けになっているのか?
魔力感知!!
今現在、魔力の類は何も感じない……
「ほらね、この家は大丈夫なのさ。分かったら、お茶でも飲みな」
またもやお茶を勧めてくるおばあさん。
その姿はどことなく、不気味に見えた。
「そうデスね。スライムが襲ってこないなら、お茶を飲んでもよさそうデス」
アリアはマグカップに口をつけようとする。
「アリア、そのお茶を飲んじゃダメだ」
ボクはおばあさんには聞こえないように小声でアリアを止める。
「どうしてデスか?」
「お茶にしびれ薬みたいな毒薬が入っているんじゃないかと思ってね」
「入ってないと思うデス」
「どうしてそう思うのさ?」
「おばあさんも飲んでいるからデスよ」
ボク達に勧めたお茶をごくごくと一気飲みするおばあさん。
「後から、おばあさんだけ回復薬を飲んで、解毒するつもりなんだよ、きっと」
「そんな風には見えないデスが……」
アリアは、そんなわけないといった目でこちらを見てくる。
まるで、ボクをバカにしているような目だ。
被害妄想かもしれないけど。
でも、バカだと思われるわけにはいかないんだ。
「いいや、そんなことはないはずだ」
ボクは必死に反論する。
「師匠は、どうして薬が入っていると思っているんデスか?」
「お茶を飲め、お茶を飲めって、執拗すぎるからね」
ふふふ、執拗という難しい言葉も知っていることをアピールできたぞ。
これで、ボクをバカだとは思うまい。
「薄い根拠だと思うデス……」
う、確かに。
「それだけじゃないんだ。この家って普通の家で魔力の流れは感じないからさ」
「魔力の流れが感じないなら、何の問題もないんじゃないんデスか?」
「大問題だよ」
「何が大問題なのデスか?」
「こんな山奥の辺鄙なところに、ポツンと一軒家があるのもおかしいし、護符や魔力の流れもないのに、魔物が寄り付いてこないからさ」
「言われてみおればそうデスね」
納得してくれるアリア。
いい流れだ。
「このおばあさん、隠しているけど、実は魔女とかヤマンバの類なんじゃないの? スケアード・スライムをテイムして、従えているとか」
「その可能性は低いと思うデス」
「どうしてさ?」
「もしもおばあさんが魔女とかヤマンバの類なら、直接アリア達に魔法を使うとか、他の方法でアリア達を拘束するのではないデスか?」
「いやいや、スケアード・スライムを使役した挙句、自分の家に連れ込んで、しびれ薬を盛るなんていう回りくどいことをするのが、ヤマンバのやり方なんだよ」
「もしかして、師匠、アリアを試しているんデスか?」
「試してないけど、なんで?」
「いや、師匠は魔物感知の天才デスから、実は魔物だと分かって言っているのか確認したかったんデス」
「ボク、魔物感知とは言ってるけど、実際には感知できるわけじゃないんだよね」
「そうなんデスか?」
「うん、ボクが気配感知で感じ取ることができるのは、本当は生き物の形だけなんだよ。だから、スライムとか、狼とか、明らかに魔物の形をしていれば、魔物だって分かるけど、人型の魔物だと、その正体まではわからないんだ」
「そうだったんデスね」
今まで人型の魔物とはたたかったことなんてなかったしね。
「……ということは、魔力感知はできないということデスか?」
「お札とか無生物とか、魔物が現在進行形で魔法を発動していれば感知はできるんだけど、魔力を使った後の残留感知は無理だね」
「そうなんデスね。それなら、アリアが残留魔力を感知してみます」
「よろしく頼むよ」
「魔力感知!!」
アリアは自身の体に魔力を集中させた。
「残留魔力はないデスね。だから、おばあさんは、どこにでもいる村人デス」
「でもさ、いるかもしれないじゃない。スケアード・スライムみたいに、魔力感知ができない魔物がさ」
「なるほど、さすが師匠!! あの魔物がいたデスね」
アリアは一人で納得する。
「あの魔物?」
「すぐに確かめるデス!!」
いや、その前にアリアの言う『あの魔物』とやらを説明をして欲しいんだけど。
まあ、深くは聞かなくてもいっか。
「どうやって確かめるの?」
こうやってデス!!
アリアはおばあさんのところへスタスタと行き、大鎌を振りかぶる。
「何やってるの、アリア?」
「何って、おばあさんの首を斬るデス! おばあさん、覚悟してくださいデス!!」
いやいや、何をやってるんだ、アリア。
そんなことしたら、おばあさんが怒り狂っちゃうよ。
「そういうことかい、分かったよ」
おばあさんは諦めたように、自ら首を差し出す。
うん、これは死刑場でよくある風景でよくある光景だ……
……って、ここは死刑場じゃないから、あってはいけない光景じゃないか!!
おばあさんもどうして抵抗せずに首を差し出すの!?
「それでは、さようならデス、おばあさん。とこしえに」
とても丁寧な言い方で大鎌を振り下ろすアリア。
「やめるんだ、アリア」
大鎌がおばあさんの首に当たる寸前で、ボクはアリアを羽交い絞めにした。
良かった、間に合った。
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、おばあさんを疑う。
アリア、おばあさんを大鎌で襲う。