表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/372

第9話 サイレントとアリア、おばあさんに出会う

前回のあらすじ


サイレントとアリア、スケアード・スライムから逃げる。

サイレントとアリア、スケアード・スライムに包囲されていて逃げられない。






 

 ボクがどうするか考えていると、近くで人の気配がした。

 スケアード・スライムが追ってくる反対側から人間が1人でこっちに向かってきている。


 もしかして、カバッカの町からボクを追って来たのか?

 そうだったら、本当にやめて欲しい。

 スライムたちに追われていて、この忙しい時に……


 ……いや、違うな。

 この人はボクを追って来たんじゃないな。

 カバッカ町の人なら、ボクが逃げ足だけは速いことを相手は知っているはずだ。

 もしも、カバッカの町の人なら、複数人で追ってくるはずだ。


 それじゃあ、誰だ……って、そんなこと考えても分かるわけないか。


 でも、こんな魔物の出る夜中の山を出歩いているということは、相当腕に自信がある人に違いない。


 これはラッキーだ。


 もしも、こちらに来る人がAランクのソロ冒険者なら、形勢逆転することができるぞ!!


 最後の力を振り絞って、連続で瞬動を連発して、ボクは人の気配がする方へと向かう。

 これだけ、瞬動を使えば、すぐには追いつかないだろう。


 ボクは、助けてくださいと叫ぼうとしたところで、声を殺す。

 目の前にいるのは、おばあさんじゃないか!!


 違うんだよ、そうじゃないんだよ。

 ボクがあいたかったのは、おばあさんじゃないんだよ。


 ……いや、待てよ。

 このおばあさん、本当は強いかもしれない。

 実は、Aランク冒険者的な。


 そうだよ、その可能性もなくはないよ。

 まずは、おばあさんが強いかどうかを確認しなくては。


「もしかして、そこにいるのは、ルプスなのかい?」

 ボクがおばあさんに確認しようとすると、先に、おばあさんがしわがれた声で聞いて来た。


「ルプスって誰?」

 ボクは首を傾げる。


「違うわね。ごめんなさい。暗いと目があまり見えなくて」

 ランタンをもった老女は、ボクの声だけ聞くと、申し訳なさそうに頭を下げた。


「あの、今魔物に追われているんですけど、おばあさん、実は強かったりします?」

「私が強いだって? 見なよ、この筋肉!!」

 おばあさんは自分の二の腕を見せてくる。


「細いですね」


「ああ、正真正銘、私はただのおばあさんさ。強いはずがないじゃないか」

「そうですよね」


 ボクはがっくりと肩を落とす。

 うう、形勢逆転する最後の希望だったのに。

 スライムを他人に任せるというボクの計画が……


「世間話をしている場合じゃないデス! おばあさん、ランタンの火を消して逃げるデス!! スケアード・スライムが襲ってきているデス!!」


 そうだった。

 こんなところで立話をしている場合じゃない。

「スケアード・スライムだって?」


「そうなんですよ、おばあさん。スケアード・スライムって呼ばれる魔物がたくさんいるから逃げないと」

「それなら私の家においで!! すぐ近くにあるから」


 おばあさんは言いながら胸を叩いた。


「そんなことしたら、おばあさんの家にスケアード・スライム襲ってきます。スケアード・スライムが襲ってきたら、家が滅茶苦茶になっちゃうデス」

「私の家には来ないからスケアード・スライムは来ないから大丈夫よ!!」


「何でデスか?」

「理由を話しているヒマはないわ。とにかく、大丈夫だから、家に!!」


 指さす方向には、ログハウスがあった。


「アリア、あそこまで走れる?」

「はい、少しなら大丈夫デス」


 ボクとアリアはおばあさんに促され、小走りでログハウスの中へと入る。

 小屋の中はロウソクなどの照明はなく、薄暗かった。


「おばあさんはこんなに大きな家に一人ですんでいるんデスか?」

「ああ、そうさね」


 ……ということは、他に戦闘要員はいないということか……

 ちょっとだけ、戦闘要員がいるんじゃないかと期待したんだけどな……


 ボクは『はぁー』とため息をついてしまった。


「ごめんなさいね」

「何でおばあさんが謝るんデスか?」


「あのスライムは私のせいだから」

「もしかして、おばあさんがスライムをスケアード化させたんですか?」

 ボクは思わず尋ねてしまっていた。


「いいや、私じゃないけど、私のせいのようなもんさ」

「どういうことデス?」

 おばあさんのせいじゃないけど、おばあさんのせいのようなものって?


「まずは、お茶でも飲んで落ち着いて」

 おばあさんは欠けた前歯を見せながらにかっと笑いながら、ピッチャーからコップへとお茶を移し替える。


「おばあさん、家にかくまってくれた上に、お茶も用意してくれてありがとうございますデス。でも、スライムが襲ってきたら大変デス」


 アリアは律儀にお辞儀をしてから、大鎌を構え、ボクに視線を送ってくる。


 うっ、そうだよね。

 さすがに家にかくまってもらったのに、戦わないという選択肢はないよね。


 ボク、一応、冒険者だしね。

 Eランクの魔物と戦いたくはなかったが、ここでの戦闘要員はボクとアリアしかいない。

 こうなったら、覚悟を決めて戦うしかない。


「アリアの言う通りだよ、おばあさん。家の中に入っても、スライムは窓とかドアとかの隙間から家の中に入ってくることもあるから、安心じゃないんだよ」


 冒険者駆け出しの頃、いつの間にかリュックの中にスライムが入っていた時もあったくらいだし。


「大丈夫だから、まずはお茶を飲むんだ」

 おばあさんは、かたくなにお茶を勧めてくる。

 だから、スライムが襲ってくるのに、お茶なんか飲んでいるヒマないんだってば。


「もしかしたら、おばあさん、ボケているのかもしれない」

 ボクはおばあさんに聞こえないよう、小声でアリアに耳打ちをする。


「あるいは、魔物の恐ろしさを認識していないのかもしれないデス」

「ここは、ボク達二人だけで対処しないといけないぞ」


「そうデスね。もしも、スケアード・スライムが入ってきたら、アリアの最大魔法で魔物を蹴散らせましょうか?」

「アリア、魔法が使えるの?」


「当然デス。アリア、天才デスから」


 さすが天才は違うな。

 バカなボクとは大違いだよ。


「よし、アリア、よろしく頼むよ」

「それなら、アリアが呪文を唱え始めたら、師匠はおばあさんを抱えて全力でこの山から逃げてくださいデス」


「分かったよ、全力で逃げればいいんだね…………ん? なんで全力でこの山から逃げなくちゃいけないの?」


「アリアのボルケーノという魔法は、地中から溶岩を呼び出すので、この山一帯は焼け野原に変わるからデス。もちろんこの家なんか、すぐに燃え落ちるはずデス」


 さすが、天才は違うな。

 ボクの想像の斜め上を超えてくる威力じゃないか……


「そっか、この山一帯が焼け野原になるなら、確かに逃げないといけないね……って、ちょっと待った。そんな魔法、使っちゃダメだよ」


 そんな魔法を使ったら、大災害じゃないか。


「やはり、この山一帯を焼け野原にする程度じゃ弱いデスか? それなら、もっと強い魔法をお見舞いするデス」


「逆だよ、アリア。強すぎるんだよ。他にないの? 使える魔法は」

「すみません、師匠。この魔法が一番弱い魔法で。これ以下の魔法は知らないデス……」


「う、うん、それなら仕方ないね」


 この山一帯を焼け野原にする魔法が一番弱い魔法?

 どんだけ強い魔法ばかり覚えてるんだろう……


 想像しただけで、身の毛がよだった。

 うん、今後、アリアを絶対に怒らせないようにしよう。


忙しい人のためのまとめ話


 サイレントとアリア、おばあさんに出会う。

 アリア、魔法で山を焼け野原にしようとする。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ